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授業:マジック

 いつものように並んで朝ご飯を食べながら、修理に出していた剣が代表選考戦に間に合うと思うって話をしておいた。

 これできっとイーサの力になれると思うよって言ったら、また抱き着かれてしまってみんなの注目を集めちゃったんだけどね。


 男子からうらやましそうな視線を向けられていたんだけど、気のせいではないはず。

 ふふふ。大事な友達のイーサは男子になんて絶対に渡しませーん。


 みんなに見せつけるようにイチャイチャしてたら、離れた席のトゥシスがすごい目で睨んでいるのに気が付いてしまった。

 今後は人目のある場所では控えるようにします、はい。


「サダーシュの剣が戻ってくるのは頼もしいですけど、そのことはみんなに内緒にしておきましょう。

 当日になったら他のチームをあっと言わせてやるんです」


 クスリと笑いながらそんなことをイーサが言う。


「いいけど……イーサって意外に意地悪さん?」


 イーサの口の端がくいっと上がる。


「そんなことはありませんよ。そこは戦略家と言ってください」


 そう言いながらイーサが胸を張ると豊かなものがぷるんと揺れる。

 くっ、格差社会っていうのはこういうことなんだね。私は心の中で血の涙を流していた。





 マジックの授業は私だけ別メニューになっている。

 方術が一つも扱えないんだから仕方がない。

 訓練場では派手な音や光が飛び交っているけど、私の周りだけはとても静かだ。

 だって今日も方術は成功していないから。


「……ふぅ。集中しないと」


 机の上には桶が二つある。

 一つは空で、一つには水が満たされていた。


 紙に描かれた方術印は水を集める集水という方術が込められている。


 方術を発動させるにはイメージが大切。

 だからこの方術の練習をする際に、私は片手を水の入った桶に突っ込んでいる。

 手で水を実感しながら方術を発動させることで成功率を高めるこの練習方法は、マジックユースの授業を受け持つジュリウス先生に教えてもらったものだ。


「むむむ……」


 右手に感じる冷たい水の感覚を心にイメージしながら左手に持った方術具を掲げ、コマンドワードを発する。


「――〈集水〉」


 だけど空の桶には変化が見られなかった。


「……はぁ。やっぱりダメか。っていうか、さっきから集中できてないよね。方術が成功しないのも当たり前だよ」


 今日は朝から調子がよくない。

 昨夜のことを覚えてないし、朝も自分で起きれなかったし、朝ごはんもおかわりできなかったし、どことなく体が重いし、心の奥がザワザワしていて落ち着かない。

 まるで遠いどこかから誰かに呼ばれているみたいだった。


 訓練場からはドカーンっていう大きな音が聞こえてくる。

 きっとマジックユースの誰かが使った方術だ。

 マジックユースは普通の方術師よりも高い効果を引き出すことができる。


 方術は方術印に記された結果が具現化するものだから、最初から威力の上限と下限は定められている。

 その範囲で使用者のイメージによって結果が異なると考えればいい。


 例えば発光の方術印に込められた明るさの上限が10で下限が5だとしたら、使用者はその間の結果をイメージしながら使うことになる。

 いくら明るくしようと思っても10以上にはならないし、5以下にもならない。


 これがマジックユースだとあっさりと上限を突破させられる。

 50とか100なんて明るさにすることもできるし、逆に効果を弱めることだって可能だ。


 ユースっていうのはやっぱり選ばれた存在だと思う。


「でも方術が使えないのはその前提条件にすら届いてないってことなんだよね。どうして上手くいかないのかなー。やっぱり私って方術の才能がないのかなぁ」


 だからといってジンバルク先生の勧めに従って魔法を習うのも違う気がするんだよね。なんだか逃げてる気がするし。


 ああ、集中できてない。

 こんな状態で方術が成功するはずがない。

 もっとちゃんとしないと。


「……ふぅ」


 思わずため息が出る。

 今日はやっぱりいつもと違う。ちっとも集中できない。


 昨夜はなにがあったんだろう。

 もしかしてお酒を飲んだから?


 そっか、それだ。たしか二日酔いになると体調は悪くなる。きっとそれだ。

 二日酔いはよくない。金輪際、お酒はやめよう。


 あと、このブレスレットも謎なんだよね。

 どこで手に入れたのかまったく記憶がない。

 ちょっとおしゃれな感じがして嫌いじゃないんだけど。

 誰かにもらったのかなぁ。覚えてないなぁ。


 両腕を組んで頭をかしげていると、一人の男子がこちらへやってきた。


「悩んでいるのか。考えるより慣れた方がいいかもしれないぞ」


 ツグース=ヴィリウム君は立派な眉毛と体格をしているマジックユースだ。

 ガードのケントール先生ほどじゃないけど私よりずっと背が高いので、話をする時はどうしても見上げないといけないのが大変だったりする。


 体が大きいから心も広いのか、イーサに似て面倒見のいい人だ。

 クラスメイトが困っていると気を使ってくれるし、方術が使えない私にもこうして話しかけてくれる。


「もう練習はいいの?」


「ああ。だからサダーシュの練習に付き合おうと思ってな」


「ありがとう!」


 ね、いい人でしょ?


「今日はなんの方術を練習しているんだ?」


「水を集める方術だよ」


「ふむ。こっちの桶に水をためるんだな? 水が入っている桶があるのはイメージを想起させるためか。なるほど、理にかなっている。この練習方法はジュリウス先生が教えてくれたのか?」


「うん」


「そうか。さすがは先生だ。合理的な練習方法だと思う」


 ツグース君はマジックを担当しているジュリウス先生の信奉者なんだよね。

 同じマジックユースっていうのもあるんだろうけど。


「うん? それは方術具か?」


 ツグース君の視線が私の右手にあるブレスレットに向けられていた。


「そうなの? よくわかんないんだよね。気がついたらつけてたから」


 難しそうな顔をツグース君がする。


「まさか呪いがかかっているんじゃないだろうな。ぱっと見ただけじゃわからないが……鑑定の方術を使ってもいいか?」


「いいよ」


 ツグース君は懐から小さなスティックを取り出して構える。


「――〈鑑定〉」


 鑑定は対象の材質や由来がわかる方術だ。道具に特別な効果があるかどうかもわかるんだって。やっぱり方術って使えると便利だよね。


 特にマジックユースが使うとさらに詳細なこと――製作者の名前なんかもわかるそうだ。

 もっとも作った人がそれを隠そうとしていると難易度が上昇するらしいんだけど。


「……うーん、これといって不審なところはない。微弱だけど肉体活性化の効果があるぐらいか。体が軽いと感じたりしないか?」


「どうだろう。むしろ朝から頭がぼんやりしてるかも。イーサに起こしてもらわなかったら危うく寝坊してたところだし」


 私が寝坊してもイーサはちゃんと起きているから遅刻なんてしたことないんだけどね。


「そうだ。ジュリウス先生にも鑑定してもらおう」


「え、そんなのいいよ。わざわざ私のために時間を使ってもらったら悪いし」


「いいからいいから。俺も一緒に行くからさ」


 そもそもツグース君はジュリウス先生に目の前で鑑定の方術を使って欲しいだけなんでしょ? そう顔に書いてあるよ。


 結局、ツグース君の押しに負けてジュリウス先生のところへ行くことになった。


「……ふむ。こいつは活性の腕輪だな。左右で対になるものだから一つだけでは効果が不十分なんだ」


 事情を説明して鑑定の方術を使ってもらったら一発で判明した。さすがはジュリウス先生だ。


「一時期この手のアイテムが流行ったことがあってな。冒険者の間では今でも人気の品らしい。

 俺の倉庫にもいくつかあったはずだから、対になりそうな物を探しておいてやろう」


「そんなの悪いですよ。そういうことならこれを先生に預けます」


 慌てて腕輪を外そうとする。


「そうか。もう一つは方術の効果を高めるものなんだが――」


「ください!」


 かぶせ気味でお願いした。

 先生とツグース君は苦笑いをしている。


「あくまで方術の効果を高めるもので、方術が使えないお前にはあまり効果はないかもしれんぞ?」


「それでもいいです。方術が使えるようになるかもしれないなら試したいですし」


「そうだな。一度使えるようになればあとはとんとん拍子でいけるかもしれん。わかった。探しておいてやる」


「ありがとうございます!」


 やった。これで私も方術が使えるようになるかも!


「ツグース君もありがとう。先生に相談しようって言ってくれて。ツグース君が提案してくれなかったら、この腕輪のこともわからないままだったよ」


「いや、俺は特に何もしてないから。でも方術が使えるようになるといいな」


 太い眉毛をハの字にしてツグース君が笑っていた。


「待てよ。サダーシュが方術を使えるようになるとライバルチームが強くなるわけか。これは敵に塩を送ってしまったかな」


 そう言いながら、やっぱりツグース君は笑ってくれた。





 お風呂で湯船につかりながら左右の腕にはまった腕輪を眺める。


「何を笑っているんですか」


 イーサがするりと隣に体を寄せてきた。

 柔らかいモノが私の腕に押し当てられる。


「これ、ジュリウス先生に鑑定しもらったの」


「あら? 今朝は片方だけでしたよね」


「活性の腕輪っていって一つは肉体を、一つは方術の効果を高めるアイテムなんだって。方術の方をジュリウス先生に譲ってもらったんだ」


 楽しみだよー。

 これで私も方術が使えるようになっちゃうかも!


「だからね、今晩も方術を教えてね」


「もちろんですよ。そうですか、そんなアイテムがあったんですね。

 これでサダーシュも方術が使えるようになるといいですね」


「うん! 方術が使えるようになったら嬉しすぎるよー」


 嬉しかったので私の方からイーサに抱き着いた。イーサは少しだけ驚いたような顔をしたけど優しく受け入れてくれる。

 ああ、イーサの体って柔らかくて気持ちいいなぁ。

 うっとりした気持ちで抱きしめる。

 幸せすぎるよ。


 これで方術まで使えるようになったら最高だよね!



        ※        ※        ※



 気がついたら翌日になっていた。


ブックマーク等、よろしくお願いします。

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