お誘い
決して止まることのない、文字通り息もつかせぬ連続攻撃。
ただ力任せに剣を振っているように見えるかもしれないけど、隙なんてどこにもない。
間断のない剣戟によって形成された、まさに剣の結界なんだから。
この剣が届く範囲であればどんなものでも両断する決意で振り続ける。
「くっ、この馬鹿力女が……っ」
馬鹿力でもいいんですぅ~。
ガードの上からでも遠慮なく叩き続けていれば、やがて根を上げるのは火を見るよりも明らかなんですぅ~。
ガンガンガンと鈍い金属音が連続して鳴り響く。
剣と手甲が触れ合うたびに火花が散る。
「いつまで剣を振り続けているんだ……」
「お前、連続でどれだけ動けるよ……」
「全撃全力だろ? そんなの一分も動ければいい方だろ……」
「あの身体能力……まさか妖人族じゃないよな?」
「あんな戦い方ってありなのかよ。大雑把すぎだろ。あれはもう戦いっていうか、ただの作業じゃないか」
「勝てばよかろうなのだって感じか。あれで騎士を目指しているってどうなんだよ……」
ギャラリーが好き勝手言ってくれてるけど、防御力が極端に高い相手にはこれが一番いい対処方法なの!
ロックタートルとかスチールトレントとかね。あいつらって滅茶苦茶硬いんだから!
トゥシスの前面は剣の暴風圏域にある。
この状態にある限り、前に出るのも後ろに下がるのも不可能だ。
いやね、本当にトゥシスはすごいと思うよ。
左手にしか手甲をしてないのに右側への攻撃にもちゃんと対応してるし、たぶん、ブロウとしてカウンターを狙おうと思えばいつだって入れられたと思うけどそれはせずに受けに徹してたしね。
ガードユースとしてどれだけ護衛ができるのかを見せる場だからそれで正しいんだけど、普通はチャンスがあったら自分から攻撃したくなるものだもんね。
つまりそれをしないだけの冷静な判断力と、私の攻撃を耐え切れると自分の技量を信じ抜く精神力がトゥシスにはあるってこと。
戦いにおいて冷静であることはとても大事だ。
どんな相手であっても、想定外の事態になったとしても、冷静であれば対処することはできる。
トゥシスは強い。
自分の持つガードユースのダブルという強みをよく知っているし、冷静に戦えているし、相手の動きを観察する目だって持っている。
それでも圧倒的な攻撃力の前だったらどうだろうね?
五分ぐらいそうして斬り続けていた。斬るっていうか叩く感じなんだけど。
金属音はガガガガガガって連続したものになっている。
しかも火花が飛びまくり。なんだか楽しくなってきた♪
「はーい! もう結構よー。若い二人の手に汗握る攻防をたっぷりと堪能させてもらったわ~」
あ、もう終わり。別にいいですけど。
「サダーシュちゃんの鬼畜ドS攻めといい、トゥシスちゃんの誘い総受けといい、とってもいいものを見せてもらった気分よ♪
特にトゥシスちゃん。さすがにダブルよね。あたし濡れ濡れ。早くお風呂に入らないとはしたないシミが落ちなくなっちゃうかも~」
な、なんのシミですか!?
っていうか、私は鬼畜じゃないですからね!
「あーあ。刃が欠けちゃった。これは砥ぎをお願いしないと。修理代は学院に請求してもいいんだよね?」
こういう乱暴な使い方をしてると、どんどん剣が短くなっちゃうなぁ。最初は今よりずっと長くて普通ぐらいのサイズだったのに。
問題は王都にこの剣を砥げる人がいるかってこと。普通の砥石だと上手に仕上がらないんだよね。
しかしトゥシスの手甲って思っていたよりもずっと硬い金属を使ってたんだ。この剣がこんなに刃こぼれするなんて滅多にないのに。
ロックタートルの甲羅よりも硬いかな。スチールトレント並みとか?
「お前、いつもこんなでたらめな戦い方をしていたのか……?」
「魔獣と? ううん、さすがにこういうのは滅多にしないよ。だって剣が痛んじゃうし、おまけに修理が終わるまで戦えなくなっちゃうしね」
そんな状態で魔獣に遭ったら普通は死にます。
「剣が痛むってレベルの話じゃないだろう。
というか、こっちのもボロボロにされてるんだが……これ、修理でどうにかなるってレベルじゃないぞ。いっそのこと作り直した方がいいかもな……くそっ」
戦う前に手甲を見せてもらった時には表面に細かい文様が刻まれていて、落ち着いた優雅さを持っていたんだけど、今は傷だらけであちこちが欠けてしまって見る影もない。でもよくこれで私の剣を防いだものだ。
「さすがはガードのダブル……なのかな。体に当たりそうな時は怪我をさせないように止めるつもりだったけど、まさか全部防がれるなんてね。イーサが言ってた通り、トゥシスってすごいんだ」
「お嬢が?」
「うん。トゥシスは努力家だって言ってたよ。実際、ブレイドにしろスラストにしろユースじゃないのに先生に褒められてたしさ」
それってすごいことだと思うんだよね。
この学院にいる以上はみんなそれぞれユースを持っている。
ということは特性のある武具についてはその道でもう何年も鍛錬を積んだ人と同じかそれ以上のレベルにあるってことだ。
そんな人たちに負けないところにトゥシスはいる。
該当するユースではないトゥシスがそのレベルにいるってことは、これまでにどれだけの鍛錬を積み重ねてきたのかって話になるわけで。
「……これまでずっと近くにお嬢がいたからな。あの人についていくために必死になって稽古を続けてきただけだ。別にたいしたことじゃない」
フォーユースのイーサはガード以外のすべてに優れる。
同じブロウはさておき、ブレイド、スラスト、マジックについていくのがどれだけ大変だったのか、私には想像もつかない。
「ふーん。もしかしてさ、トゥシスってイーサのことが好きなの?」
「いや」
あれ? 意外に冷静。
本当にイーサに対する恋愛感情はないのかな?
「じゃあ、これからみんなの特性を順番に見せてもらうわよ。ここに並びなさい。
ああ、もう、若い子たちってどうしてこんなにかわいいのかしら。先生、あそこが大変なことになっちゃうわ♪」
って、どこの話ですかっ!?
まだ感触が残っている気がしてお尻のあたりをタオルでゴシゴシこする。
「そんなにこすったら赤くなりますよ」
「だってぇ、ケントール先生がペタペタ触ったんだもん」
あの先生、口調がちょっと変わってるし、私たちのことジロジロと舐めるように見つめてくるし。
おまけに舌なめずりとかしてたんだからねっ。
「熱心なだけの先生だと思いましたけど」
「熱心なのは認めるよ。ちゃんとアドバイスもしてくれるし」
私のようなブレイドユースがガードの訓練をしたって素人とたいして違いがない。
そもそも私は剣だけで戦ってきたから盾なんか持ったことがないわけで。むしろ盾を持った立ち回りをすると動きが悪くなっちゃうぐらいだった。
おまけに私はブレイドユースでもその能力が不安定だから愛用の剣以外ではさっぱりなわけで、その剣も刃こぼれがひどいから砥ぎに出さないといけないし。
いつも以上に悲惨で情けない思いをした授業だったけど、そんな私相手でもケントール先生はちゃんと指導をしてくれた。
それは正直に言ってとてもうれしかったし、期待には応えたいと思った。
だって気にかけてくれる、指導してくれるってことは、私に期待してくれているってことだもんね。
「でも、お尻をペタペタ触りすぎだよぉ~」
湯船に入っている時も感触が残っている感じがしたので、お風呂上りにパンツ一枚でお尻を拭き続けているのだ。
「どのあたりなのかしら。わたくしでよければ拭いてあげますよ」
「え、悪いよそんなの。イーサには方術も教えてもらってて、もう完全におんぶにっ抱っこなんだし。これ以上の迷惑は……」
「こんなこと遠慮なんてしないでください。わたくしとサダーシュの仲ではありませんか」
ぴとっと背中からイーサに抱きしめられた。
お風呂上りだからまだ少し体が湿っている。
あと、大きくて柔らかいものが二つ背中に押し当てられてるんですけど。
首筋にイーサの吐息がかかってくすぐったい。
なんだかイーサっていい匂いがするんだよね。同じ石鹸を使ってるはずなのに、どうしてこんなに違うんだろう?
「――ひゃん!?」
なんてことを考えていたら、ぺろんとお尻をタオルで拭かれた。
「どうしたのですか、そんな声を出して」
「あ、いや……なんていうか、ちょっとびっくりしただけ。
でも、イーサのおかげで嫌な感触はとれたかな。あははは……」
「そうですか、それならよかったです。ところで、この後の予定は何か入ってますか?」
「ううん、特にはないよ。晩御飯を食べたらイーサに方術を教えてもらうのと、寝る前にやってる日課の訓練ぐらいかな」
「それはよかったです」
イーサはポンと手を打って微笑む。
「この学院に来てしばらく経ちますけど、サダーシュにわたくしのお友達をちゃんと紹介していなかったのがずっと気になっていたのです。ですからその機会を設けようと思ってお店を予約しておきました」
ケインズ君をはじめとして、イーサって同郷の知り合いが多いんだよね。
でもわざわざお店の予約なんて……そういうのってお高いんでしょう?
私、そんなに持ち合わせないんだよねぇ。
セッティングしておいてもらって悪いんだけど断るしかないかなぁ。
「お部屋に戻ったら着替えをしましょう。今夜は街に出ますからね。それなりの格好をしないといけませんよ」
「それはちょっと無理かな。余所行きの服なんて持ってないし……」
よし、これで角が立たない形で断れるはず。
ごめんね、イーサ。本当は私も行きたいんだよ。だってどんな料理が出るのか気になるし。
「そんなことはサダーシュが気にしなくても大丈夫です。ちゃんと貴方のための服だって用意してあるんですから」
「……へ?」
今、なんと?
私の服を用意?
またまたご冗談でしょう?
「さあ、部屋へ戻りましょう。きっと似合うと思いますよ」
「え、ちょっと本当に?」
イーサに背中を押されながら、私たちは浴室を後にした。
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