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授業:スラスト

サダーシュの槍の腕前は素人以下です。

「ブレイドなのに他の授業も受けないといけないんだ」


 一応とはいえ私はブレイドだから、刃を持つ武具の訓練ばかりをするのだと思っていたけど違うらしい。


「同じ属性でも得手不得手があるんです。ですからまずは何が得意で何が不得意かを見つけていくのが普通ですよ」


「そうなんだ」


 過去に知り合った冒険者が使っていた片手剣やツーハンドソードを持たせてもらったことがあるけど、さっぱり使えなかったんだよね。

 ちなみに山に入る時に使うナタや料理に使う包丁だって上手に扱えないんだけど。


 料理では食材を切ることすらちゃんとできなくて……本当にブレイドユースなのかって疑われたこともあったっけ。

 あ、でもそれは料理のセンスであってブレイドユースの優劣って話じゃないのかな。それならセーフ!

 ……でも女の子としてはどう考えてもアウトだよねぇ。


「それはスラストもブロウなども同じです。あらゆる武具に触れておくと敵対する相手がどんな武具を持っていても対応できるでしょう? 相手はどう動き、どう攻撃してくるか。知識と経験は力なんですよ」


 そうなんだ。

 練習をしたら私も他の武具が使えるようなるのかな。だったらいいな。


「それに触ったことのない武具を扱うことで新たな可能性が見つかるかもしれませんよ。一年生の授業の主目的はそこにあるんです。

 サダーシュは騎士になるのが夢なのでしょう。それならまずあらゆる剣を扱えるようになっておかないといけませんからね」


「だよね」


 消灯時間から眠りにつくまでのわずかな時間にイーサとはいろんなことを話す。

 騎士になるっていう私の夢をイーサは応援してくれると言ってくれた。


「いろんな剣を扱えるようになったら私も騎士になれるよね?」


「ええ、もちろんです」


「お嬢。下手な夢は見せない方がいい。少なくとも、こいつの剣の腕はひどい。騎士なんて夢のまた夢の話だ」


「横から口を挟んでまぜっかえさないでくれるっ」


「俺は親切心で言ってやってるんだ。むしろ感謝をしてもらいたいな」


 むぅ。この前の夜は筋がいいって褒めてくれたのに!





 練習用の服に着替えて屋外へ移動する。

 要所にプロテクタが付いているこの服には防護の方術がかけられているので、よほどのことがなければ大ケガはしないんだって。


 訓練場には柔らかい土が敷き詰められていて、転がっても痛くなさそうだった。

 周囲は円形に柵で覆われている。広さは直径で30メートルぐらいかな。


「オレはスラストユース担当のシンゴラス=リースバリーだ」


 訓練場の中央には、すらりとした体つきのシンゴラス先生が腕組みをして待っていた。

 真ん中で分けた少し長めの髪のせいか遠目では女性に見えなくもない。

 もっとも近くで見ると目つきが鋭すぎてその印象は粉みじんに砕かれちゃうんだけどね。


「スラストは刺突属性とも言う。ブレイドほどではないとはいえ、スラストもかなり幅が広い属性だ。

 例えば剣ならばレイピアやエストックのような刺す動作が基本となるものも扱えるし、槍や弓もこの属性に含まれる。オレ自身も槍よりは弓が得意だ」


 腕組みをしたままシンゴラス先生が私たちを見渡す。


「スラストユースで弓を得意とする者はいるか?」


 イーサはフォーユースでスラストの属性もあったはずと思って見上げると、ふるふると横に首を振った。


「わたくしは弓よりもレイピア系が得意なんです」


「レフィが得意なのは槍だったな。そういえばスラストで弓が得意な奴の話はあまり聞かないように思うが……」


 すっと一人の手があがった。


「ハヤード=アンウィストです」


 長い髪を後ろで結わえた男の人だった。まるで馬の尻尾みたいに揺れてる。


「そうか。ハヤード、お前はこれからしばらく弓は使うな。それ以外の武具を試せ」


「何故ですか!? 俺は弓に絶対の自信があります。一昼夜の通し矢で一万本の矢を放ち、八千本を命中させたことだってあるんです。今ならもっと当てられます!

 俺は弓の力を高めるためにここへ来たんです。弓を使うなというのは納得がいきません!」


 ここまで言えるなんて、きっとすごく弓に自信があるんだろうね。


「ほう、命中率八割とはなかなかの腕前じゃないか」


 シンゴラス先生はニヤリと笑う。


「ねぇねぇ、通し矢ってなに?」


「はあ……」


 溜息をついたのが誰なのかは言及しないでおく。


「100メートルぐらい離れた場所にある目標を射抜く競技とでも言えばいいのかしら。

 通常、戦場で使う弓は斜め上に撃って攻撃をするのだけど、通し矢はなるべく真っ直ぐに飛ばす必要があるから難易度が高いの」


「ふーん……」


 弓は触ったことすらないんだよね。

 だからハヤード君のことは無条件で尊敬しちゃう。


「だがな、戦場でもお前は一人で一昼夜かけて弓を射るつもりなのか?」


「……いえ。ですが弓は戦場でも必須の武具だと思います!」


「たしかに弓兵による面攻撃は戦場において非常に有効な攻撃手段だな。だがそれには何人の兵士が必要になる? 5人や10人では足りないぞ。お前のような優秀な弓のユースをそれだけ揃えられると思うのか?」


「そ、それは……」


 ほほう。そこで言いよどむってことは自分と同じだけの技量を持つ人は少ないと思っているわけね。よっぽどの腕なんだ。

 あそこまで自分に自信が持てるのって、ちょっとうらやましいかも。


「それにだな、優秀な方術師が一人いれば面攻撃は可能だぞ。速射性は弓に劣るが、与える被害についてはそう大きく変わらんだろう」


「くっ……」


 ハヤード君は悔しそうに唇を噛んでいる。


「で、ですが弓ならピンポイントの狙撃ができます! 遠くからの一撃で敵の指揮官を討ち取ることができれば戦況を優位にすることだってできるはずですっ」


「そうだな。そういう働きは弓にしかできんだろう」


「だったら! 俺はもっと弓の腕を磨きたいんですっ」


 戦争とか物騒なお話はやめて欲しいんだけど騎士になったらそういうこともあるんだろうなぁ。

 はぁ、今から憂鬱になってきちゃう……。


「そのあとはどうするんだ?」


「そのあと、とは?」


「運よく敵の指揮官をお前の弓で倒せたとしよう。それで、お前はどうするんだ。他の兵士を狙撃し続けるのか?」


「もちろんです。俺なら何人でも射抜くことができますっ」


 味方にそんな弓がいたら、きっと頼りになるだろうね。


「弓の届く範囲にいなければ? お前はずっと弓を構えて標的を探し続けるつもりか?」


「それは……」


 ハヤード君の視線が泳ぐ。

 たしかに手持無沙汰になっちゃうかもしれない。


「だからオレは弓以外の武具も扱えるようになっておけと言っているわけだ。理解はできたか?」


「…………わかりました」


 不承不承って顔をしているけどハヤード君は納得したみたいだった。

 っていうか、今までのやり取りってそれをわからせるためのものだったんだ。

 むむむ、厳しい人なのかなと思ったけど、意外にシンゴラス先生っていい人なのかも。


「いいか。戦場ではひとつきりの武具で戦うということはない。騎兵であればランスを構えて突進をし、馬の足を止めたら剣を抜いて戦わなければならない。

 一つの武具にこだわり技量を磨いていくのもいいだろう。だがお前たちは一年生だ。今はなるべく多く、属性以外の武具にも触れ、自分の可能性を探していい時期だ」


 イーサと同じことをシンゴラス先生が言っている。

 やっぱりイーサはなんでもよく知っててすごいんだなぁ。


「まずはスラストの基本、槍から学べ!」


 各々が槍を持って一列に並んだ。

 前に立つ先生の構えを見て、同じように槍を構える。


「穂先が下がっている。ちゃんと相手に向けるようにしろ。

 お前は上に向けすぎだ。構えるのが辛いのは筋力が足りていない証拠だぞ。飯を食って筋肉をつけろ」


 先生は一人ひとりの構えを見ながら注意やアドバイスをしてくれる。


「ほう、なかなか堂にいった構えをするな。名前は」


「レフターナ=フィルパディ」


 背の高いたれ目の男の人は素人の私から見ても他の人とは違っていた。

 同じスラストユースのイーサよりも構えがしっかりしているし、当然、私なんかとは比べ物にならない。


「突いてみろ」


「――フッ」


 ボッて空気が鳴ったよ!?

 それでいて構えはまるで動いてないみたいだった。

 全然見えなかったけど突く動作をしたんだよね?


「お前に教えることは何もないかもしれんな。槍についてはそのまま精進を続けるといい。あとは他の武具にも触れるようにしておけ。己の可能性を狭めるなよ」


「ウス」


 すごいなぁ。手放しで褒められてる。


「ふむ、お前も悪くないな。やはりスラストユースといったところか」


 槍を構えるハヤード君を見て、先生が満足げに頷いている。

 同じ突く属性の武具ってことで応用が利きやすいのかな?

 でも私は斬る属性の武具なのに上手に扱えないし……センスの問題って言われたらそれまでだけどさー。


「お前……名前は?」


 先生が私の前に立つ。


「サダージュ=シュラインベースです」


「突く動作をしてみろ」


 右手と左手で槍を前に突き出す。


「斜め上じゃなくて水平に突き出すんだ。左手で突き出す方向をコントロールしろ。左手は添えるだけで力を入れて動かさなくていい。右手で突くんだ」


 先生に言われるまま、何度か槍を突いてみる。


「……よし。お前はこれからしばらく授業の後は居残り練習をしろ。基礎を身に着けるところからだ」


「は、はい」


 うぅ、そんなに下手なのかなぁ。

 ……下手くそなんだけどね。


「まったく、見るに堪えん……」


 トゥシスが心底呆れたという表情で私を見ている。

 うるさいわね!

 あんただってスラストじゃないんだからどうせ……。


「ええ!? なんでそんな様になってるのよ」


 トゥシスの構えはレフターナ君やハヤード君ほどではないにしろ、私とは比べ物にならないくらいしっかりしていた。


「トゥシスは努力家ですから」


 そう言って笑うイーサの構えを先生が褒めていたことも忘れちゃダメだ。

 だってイーサはスラストユースでもあるんだもんね。


 ああ、神様っていろいろ不公平だなぁ。


ブックマーク等、よろしくお願いします。

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