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旅路

第一章終了までストックがあるので、そこまでは毎日更新します。

三話までは7日中にアップします。

「……え? あ、はい?」


 私、なんでこんなところにいるんですか?


 薄暗い部屋。埃っぽいむせるような匂い。壁にずらりと並ぶさまざまな武具。


 おまけに目の前にいるのは……化け物ですよね?


 クモみたいな八本足の下半身がシャカシャカという耳障りな音を立てている。

 見上げた上半身の腕の数は五本!


 ほとんどの動物の腕の数は二つだって相場が決まってるから!


 空間を割るように剣が振り下ろされる。

 下がったところに岩に穴を穿つような鋭い槍の突き。

 軸をずらして前へ出ようとしたところに横凪ぎのメイス。

 飛び上がってかわしつつ上段から斬りつける。


 ガツンという鈍い音。


 剣の軌道に盾が差し挟まれていた。

 盾の表面を蹴って距離を取る。


「キョガガ!」


 着地した背後に灼熱の炎が生まれている。


「はぁっ!」


 気合を込めて剣を一閃することで方術(ほうじゅつ)の発動をかき消した。


「ふぅぅぅ……」


 大きく息を吐く。

 なんとかしのぎ切ることができた。

 学院に来る前の私だったら、今の攻防で3回は死んでた。

 ただ飛びのく方向は間違えてる。

 ああもう! 私ってば、どうして進む方向を間違えちゃうのよ!

 扉から離れて部屋の奥に逃げちゃってるし!


「もう、なんだっていうのよぉ……」


 泣きたい。

 なんでこんな目に私が遭わなくちゃいけないのよっ。

 ねぇ、神様! 私の話、聞いてますか!?


 なんてブーブー愚痴をたれていたら、体の内側から話しかけてくるものに気が付いた。


「そっか……そうだったよね」


 思わず口元がほころんだ。

 今の私は一人じゃない。


「来て、ザンヤ!」


 左の手のひらに握った右手を添えて、ゆっくりと両手を広げていく。

 広げきった時、右手には黒い刀身をした抜き身の剣があった。


 シャカシャカと嫌な音をさせながら化け物が距離を詰めてくる。

 この化け物は五本の腕に一本ずつ物騒な武器を握っている。


 剣、槍、メイス、盾、杖。


 それが混乱することなく、正確に私を傷つけようと襲い掛かる。


「シャシヤァ!」


 同時にゴゴゴゴという大気の渦巻く音。


 咄嗟にしゃがんでなかったら首と胴体がさよならをしてた。

 私の後ろにあった棚が音を立てながら崩れる。

 あそこに並んでた武具だって由緒あるものばっかりだよね。

 あとで先生に怒られないといいけど……。


 それにしても!

 複数の方術も使えるって、なんてずるい杖を持ってるのよぉ!

 チート! チートはよくないと思います!


 離れた距離では方術が、中間距離で槍が、懐に入ると剣とメイスが。そしてこちらの攻撃をきっちり防ぐ盾がある。


 ああもう!

 こっちは初めて手にした剣一本しかないのに!


 でも、この子じゃなければ化け物と戦えてないのも事実。

 まるで何十年もいっしょに過ごしているみいな安心感のおかげで五本腕の攻撃をしのげている。


「……あれ?」


 ザンヤを手にしてから右目が霞んでいる。

 精神に影響を及ぼす方術を受けていたらヤバい。

 どういう形であれ早く決着をつけないと。


 ブレイドユースは剣の力を何倍も引き出せる。そしてザンヤと私はすごく相性がいい。

 だから今はこの子に頼るしかない!


「たあああ!」


 守ってばかりではやがてジリ貧になる。

 相手はどの距離でも戦えるけど、こっちは近寄らないと刃を届かせることができないんだから。


 懐に入れば槍と杖は使えなくなる。

 二つも選択肢が減るのだから前に出るしかない!


 迎撃の槍を捌いて前へ。

 一瞬で相手の懐に入り込む。


「ええぇぃ!」


 大きな的であるお腹をわざと大げさに狙う。

 体の動きではかわしきれないと判断した化け物は盾で防ごうとする。

 大きな盾だ。その判断は間違いじゃない。


 姿勢を低くして盾の下に潜り込み、相手の視線から姿を隠す。

 その位置に盾を構えてたら私の動きはわからないはず!


「せぃ!」


 地面スレスレを剣で凪ぐ。


「ギガガガガガガガ!」


 クモっぽいからよくわかんないけど、足首っぽい位置で二本斬り飛ばした。


「うそっ」


 剣の切れ味にびっくりした。

 抵抗なんて感じなかった。

 スッと入ってスパッと抜けていた。


 化け物はメイスを地面に叩きつける勢いで振り下ろす。


「うわわっ」


 前にでんぐり返りをする要領で相手の脇をすり抜けて、そのまま出口へ向かって一直線!


「キョボウ!」


 その瞬間、首筋にチリリとした感覚が走った。


「やっ!」


 何も考えないで横っ飛び。

 杖が並んでいる棚に突っ込む。


 ゴォォォォ!


 扉の前の空間に炎の壁が立ちはだかっていた。


 あ、危なかったぁ。

 あのまま突っ込んでたら真っ黒焦げになるところだった……設置型の方術まで仕込んでいるとか性格悪ぅい!


 くんくん……あれ、なんか変なにおいが……。


「ああ! 前髪焦げてる……」


 どうしよう。ただでさえザンネンなのに前髪がこんなことになって……もう許さないんだから!


 私が立ち上がると、五本腕の化け物は残った足でこちらへ向かってくる。


「乙女の髪の毛にダメージ与えたこと、ずぅぇったいに後悔させてあげるんだからねぇぇぇぇ!」


「キシャアア!」


 私の絶叫に負けないぐらい大きくて奇怪な叫び声をあげながら五本腕の化け物が突っ込んでくる。


「きなさいっ!」


 私も負けじと気合いの声をあげ、ザンヤの剣を構えた。



        ※        ※        ※



 ゆらゆらと揺れている。

 なんだかとっても気持ちがいい。

 心も体もふわりふわりと浮いているみたいだ。


《…………》


 なんだろう?

 これは……声?

 私を呼んでるの?


《……して…………》


 ごめん、よく聞こえないよ。

 もっと大きな声で言って。


《………………い……》


 だから聞こえないんだってば。

 ねぇ、私になにか用があるの?

 教えてよ。ねぇ!


《……さが…………》


 声が遠くなっていく。

 待ってよ! なにか伝えたいことがあるんでしょ!


《…………》


 聞こえないよ、聞こえないってばぁ~。


 ガクンとなった。


「……ふにゃ?」


「目が覚めたのかな」


 ガタガタと揺れている。

 あれ? 私、どうしてたんだっけ?


「……ここは?」


「ははは。寝ぼけてるみたいだね。馬車の上だよ。王都まではまだあるから寝ていていいよ」


 ちょっとずつ意識がはっきりしてきた。

 そうだ。王都へ行くために行商に来ているおじさんの馬車に乗せてもらっているんだった。


「うぅ……お尻痛い……」


 ひっきりなしに揺れるのと固い座席のおかげでズキズキする。


「悪いねえ。なにしろ古い馬車だから。こいつとは長い付き合いで、おじさんはもう慣れちゃったよ」


 夢の中で揺られている時は気分がよかったのに現実はいつだって過酷だ。

 きっとお尻が真っ赤になってるよね。あとが残らないといいなぁ。


 街道を一頭立ての馬車でのんびりと進んでいく。

 お天気はとってもいい。

 空はずっと高いところにあった。


「んん~」


 大きく伸びをする。


「あとどれぐらいで王都に到着なんですか?」


「天気もいいし、このペースならあと4日ってところかな。今日はもう少し進んだところで野営をするからね」


「はぁい。王都って遠いんですね」


 お尻が痛いのはもうしばらく続きそうだ。

 痛いけど我慢がまん。


「王都かー。どんなところなのかなぁ」


「そりゃあ賑やかなところだよ。人も多いからね」


 私が王都へ向かうのは王立学院に入学するためだ。

 学院を無事に卒業できれば一人前のユースとして認められる。

 ユースなら就職先にも困らないし、お給料もいっぱいもらえるはず!


 第一希望はやっぱり騎士だよね♪

 王立学院を優秀な成績で卒業したら騎士への道が拓けるっていうし。


 武印(ぶいん)というアザを生まれ持つ人はユースという個性を持つ。

 実は私にもそのアザがあった。


 ユースっていうのは主に武具との相性がよい人のこと。

 いくつか種類があるんだけど、適した武具を使うと戦闘能力が大幅にアップする。


 例えばヒノキの棒を特性のあるユースが使うとヒノキの棒+10とかになる。相性が特によければ+20にもなったりするんだからすごいよね。


 普通の人が血のにじむような努力を何年も続けて+1の実力をつける一方で、ユースは最初から大幅な+補正が付いているって感じかな。おまけに成長の速度も速いんだって。


 央国ではユースを集めて教育する方針をとっている。それが王都にある王立学院だ。

 授業料は基本無料。しかも三食寝床付き!

 この話に一もにもなく私は飛びついた。

 一応、王立学院以外でもユース用の教育機関はあるんだけど、そっちは有料なんだよね。


 もっとも学院へ行かないで手っ取り早く冒険者として名を売ろうっていう人もいる。

 戦闘能力に優れるユースは冒険者にぴったりだという話もあるぐらいだしね。


 私は辺境の森で狩りをして生活していた。

 そんな私にユースの力があると知った行商のおじさんが王立学院へ進学することをすすめてくれたんだよね。


 正直、最初は悩んだ。王都でやっていけるかわからなかったし。

 でも学院を優秀な成績で卒業できれば騎士として採用されるかもしれないと聞いて決心した。

 時代は騎士だよね! 安定収入! これ大事!


「サダーシュちゃんが王立学院に入学するって言ってくれて、おじさんも嬉しいよ」


「不安はあるんですけどね。うまくやっていけるかなーとか、友達できるかなーとか」


「サダーシュちゃんは強いし大丈夫。魔獣と戦って負けたことは一度だってなかっただろう。だからきっと学院でも活躍できるさ。友達だってできる。なんの心配もいらないよ。おじさんが保証する」


 私はブレイドというユースだ。

 ブレイドは刃のある武具と相性のいい人のこと。

 普通のブレイドはどんな剣でも使いこなすらしいけど、私は昔から使っている剣以外はさっぱりなんだよね。そこがちょっと不安。


 腰に差している愛用の剣は何度も砥がれて小剣ぐらいの大きさしかない。

 でもこの剣ならどんな魔物や魔獣だって倒すことができた。こう見えて私って結構強いらしいよ?


「ん? 霧が出てきたね。こんなところで珍しいな」


 馬車の周りに白い霞のようなものがかかっている。


「おじさん、気をつけて……この霧、なんかおかしい」


 腰に差した剣をすらりと抜き放つ。

 この感覚は間違いないと思う。


 もう少しで王都だっていうのに、本当についてないんだから!


第二話 白い霧……2017/07/07 07:00更新

第三話 幻想蛇……2017/07/07 18:00更新


ブックマーク等、よろしくお願いします。


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