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- After Story 章吾視点・3 -

「ごめんね……今まで、ずっと黙ったまま持ってて……」




「……」


彼女が僕に返してくれた物……それは……




「このビーズ……」


チィちゃんが僕に着けてくれたあの青いミサンガに編み込まれていた黄色いビーズだった。




「私と初めて会った合同実習の時に、並枝君のミサンガが切れたでしょ?」




「うん、その時、全部拾ったと思ってたけど……」




「実習が終わって並枝君が教室を出て行った後に、一つだけ残ってたのを私が拾ったの」




「そうだったんだ……」




「すぐに返そうと思ったんだけど……、結局今の今まで返せなかった……」




「……どうして?」


だって、もう十三年も経ってるし、黙っていれば僕は気が付かなかった。


それに彼女にとっては“ただの黄色いビーズ”だ。


“お守り”にする意味がない。




「並枝君、切れたミサンガと散らばったビーズをとても大事そうに拾ってたから、


 きっと何か特別な願い事を掛けてたんじゃないかな? って、思って……」




“特別な願い事”




確かに僕があの青いミサンガに掛けた願いは特別だった。




「それに、あの頃着けてたもう一本のミサンガも大切にしてたし」




有川さんの言う通り、僕は青いミサンガとは別に医大へ入学してからもう一本ミサンガを着けた。




“医師免許の国家試験に合格出来ますように……”




試験を受けるのはまだまだ先だったけれど、チィちゃんのミサンガを着けていれば


どんなに辛い勉強も頑張れる気がした。




(だけど、それにしても……)




「ねぇ……並枝君」




「うん?」




「並枝君が大切にしていたミサンガって……机の引き出しに仕舞ってある写真の女の子と


 関係があるの……?」




「っ」




「実は前にね……、患者さんの治療方法の事でドクタールームに相談に行った時に、


 蛍光ペンを借りようと思って並枝君のデスクの引き出しを開けちゃった事があるの」




(なるほど、それでその時にチィちゃんの写真を見たんだ)


「……有川さんの言う通り、僕がしてたミサンガは全部その子が作ってくれた物なんだ」




「その子って……」




「僕の家の隣に住んでいた同い年の女の子……て、もう十五年も前に亡くなったけど……」




「え……」




「“チィちゃん”って言って、生まれつき心臓に疾患があってね。


 ちょうどさっきオペをしたマナちゃんと同じ病気だった」




「それなら、どうして……? マナちゃんと同じ病気なら助かったはずじゃ……」




「うん、今ならね。でも、十五年前はそれが無理だったんだ。


 それで結局、チィちゃんは十七歳の誕生日を迎える前に亡くなって、


 その後にね、チィちゃんのお母さんが僕に手紙とプレゼントを持って来てくれたんだ」




「……手紙とプレゼント?」




「チィちゃんが死ぬ前に書いてくれた僕への手紙と、入院中ずっと作ってた


 たくさんのミサンガが入った小箱」




「並枝君の為に作ってたの……?」




「うん、これから先、自分が死んでも僕の願い事が全部叶うようにって……、


 僕が学校に行っている間に毎日少しずつ作ってたんだって」




「……その女の子、並枝君の事がとても大好きだったのね……、


 並枝君もその子の事が好きだったんでしょ?」




「うん、大好きだったよ」




「……それじゃあ、やっぱり私がどんなに並枝君の事を想ってても無駄だったのね」




「え……?」




「ビーズを拾った後、今度並枝君に会ったら、ちゃんと返さなきゃって思いながら、


 返せなくて……最初は話し掛ける切欠になると思って持ってたんだけど、


 合同実習で一緒のグループになったり、構内で会った時に話すようになったりして


 仲良くなって、そうしたらとうとう返しそびれちゃって……。


 でも、並枝君が大切にしてた物だから、私も持っていたくてずっと持ってたの」




「ど、どうして……?」




「……並枝君の事が、ずっと好きだったから」


有川さんの口から出た言葉に思わず耳を疑う。




「私、並枝君の事がずっと好きだったの。だから今まで病院も変わらずにいたのよ?


 並枝君の傍にいたかったから」




「だったら、どうして結婚なんか……」


お見合いは元から断るつもりでお世話をしてくれた方の顔を立てるつもりですると言っていた。


その相手と付き合う事になるとは思わなかったし、まさか結婚だなんて……。




「それは……お見合いをするって話をした時、並枝君、何も言ってくれなかったから、


 きっと私の事はなんとも思ってないんだと思って……だったら、私の事を気に入ってくれた彼と


 付き合ってみようと思ったの。そうしたら、彼が結婚しようって言ってくれて……。


 とても優しい人だし、大事にしてくれそうだから……それに、さっきの話でよくわかったわ……。


 並枝君の中には今でもずっとその人がいるって……」




「……」




「私の想いが並枝君に届く事はないってよくわかったの……だから結婚するのよ。


 結婚して、子供を生んで……幸せな家庭を作るの。


 そうすれば、すぐに並枝君の事なんて忘れられると思うの」




(そんな……)




「並枝君、元気でね。今までありがとう」


そして有川さんは笑顔を浮かべてそう言った後、踵を返して歩き始めた――。

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