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チィちゃんのお葬式が終わって一週間が経った。
僕は・・・一週間経ってもまだ涙が止まらないでいた・・・。
だけど・・・チィちゃんのお母さんは僕に意外な事実を教えてくれた。
一時帰宅は主治医の先生が最期にチィちゃんの好きな様にさせてあげる為に
許可したものだった事。
そしてそれはチィちゃんが望んだ事。
・・・僕には内緒だった事。
チィちゃんは僕に言うと絶対気を使うから言わないでと言ったらしい。
手術をする事が体力的に無理になって、強い薬に変えても
良くはならないとわかった時・・・それなら、
最期にもう一度、僕と過ごしたいと言って一時帰宅した・・・。
チィちゃんはわかっていた・・・
だから、観覧車であんな事言ったんだ・・・。
そして、チィちゃんのお母さんは、
「これね、千夏が書いた手紙とね、ショウくんにって千夏が一生懸命作ってた物。
自分が死んだらショウくんに渡してって預かってたの。」
そう言って、チィちゃんが好きそうな可愛い封筒と
リボンがかかった小箱を僕に差し出した。
僕は恐る恐るチィちゃんのお母さんから封筒と小箱を受け取った。
手紙の中には、いろんな事が書いてあった。
幼稚園の時、入院して寂しくて仕方がなかった時、
僕が毎日お見舞いに来てくれたのがすごく嬉しかった事。
幼稚園で習ったお遊戯や歌を僕から教わった事。
小学校の頃、体が小さくて運動ができないってだけで
イジメられて泣いてた時、僕に庇ってもらった事。
遠足の時もずっと手を繋いで歩いた事。
中学校の頃も入院中は僕がノートをとって毎日病室で一緒に勉強した事。
学園祭の時も・・・体育祭の時も・・・ずっと一緒にいてくれた事。
その他にもいっぱい、いっぱいチィちゃんは書いていた。
ものすごく些細な事まで憶えていて、全部嬉しかった・・・と。
そして、最後の一行には・・・
“ショウちゃん大好き。”・・・と書いてあった・・・。
チィちゃん・・・
・・・チィちゃんも僕の事、好きでいてくれたの?
チィちゃんは赤ん坊の頃に初めて手術を受けた。
その時、チィちゃんの小さな体に大きな傷跡が残った。
そして、その事で幼稚園の友達にからかわれた事があって、
心にも大きな傷を受けた・・・。
僕はチィちゃんをからかった子が許せなくて、
チィちゃんに謝れって怒鳴ったらケンカになった。
いつもは怒鳴ったりケンカなんかしない僕だったけど、
チィちゃんを傷つけた事がどうしても許せなかったんだ。
チィちゃんはそれからずっと僕の事が好きだった・・・
だけど、自分が長く生きられない事がわかっていたから、
言えなかった・・・と書いてあった・・・。
それから僕は何度も、何度も・・・手紙を読み返した。
何度も・・・何度も・・・。
だけど・・・今は、涙が溢れてきてどうしても
途中で読めなくなって最後の一行しか読めなかった。
“ショウちゃん大好き。”
そして・・・チィちゃんが僕に残したもう一つのもの・・・。
僕はリボンを解いて小箱を開けてみた。
中には・・・たくさんミサンガが入っていた。
「これ・・・」
赤やオレンジ、青、黄色、緑・・・その他いろんな色のミサンガ。
その全部に丁寧にビーズが編みこまれている。
「千夏がね、今までショウくんにはいっぱいいろんな物貰ったし、
いっぱい自分の願い事を叶えてくれたから・・・、
今度は自分がショウくんの願い事を叶えるんだって言ってね・・・。
自分が死んでも、ショウくんの願い事が叶えられるようにって・・・。」
「こんなにたくさん・・・いつの間に?」
「ショウくんが学校に行ってる時よ。」
チィちゃんのお母さんはクスッと笑った。
僕が学校にいる間、チィちゃんは僕の為にずっとこれを作ってくれてたんだ・・・。
「・・・すごい・・・これだけあれば・・・これからの
僕の願い事が、全部、叶うよ・・・。」
「・・・そうね・・・。」
でも・・・一つだけ・・・
どうしても叶わない願い事があるんだ・・・。
それは・・・
この青いミサンガにかけた願い事・・・
チィちゃんが病室で結んでくれた時に心の中で願った事・・・。
“チィちゃんの病気が早く治りますように・・・。”
僕の願い事はいつも同じ・・・
唯一つ・・・。
どれだけミサンガがあっても・・・もう叶わない・・・。
・・・でも、
これからは・・・チィちゃんがずっとそばにいてくれる。
声が聞けなくても・・・
顔が見えなくても・・・
ずっと・・・ずっと・・・
僕と一緒・・・。