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それから一週間。
チィちゃんはずっと寝込んだままだった。
やっぱり明らかに以前より体力が落ちている。
前はこんなんじゃなかった・・・。
日曜日、僕はいつもの様にお昼過ぎからチィちゃんに会いに行った。
病室のドアを開けると、チィちゃんはベッドのリクライニングを
少しだけ起こして本を読んでいた。
寝ていない・・・という事は調子がいいのかな?
「あ、ショウちゃん。」
チィちゃんは僕に気がつくとにっこり微笑んだ。
「今日は寝てなくて平気?」
「うん。」
チィちゃんは読んでいた本をパタンと閉じた。
「新しい本買って来たよ。」
チィちゃんはファンタジー小説が大好きだ。
今読んでいたのもきっと、そう。
いろいろ自分で空想しながら物語に入り込めるから
読んでいて楽しいのだと言う。
ほとんどベッドの上からの眺めしか知らないから、
空想して楽しむ事を覚えたのだろう。
だから僕は時々、チィちゃんの好きそうな本を見つけると買ってくる。
「わぁっ、ありがとう。」
「後、おいしそうなゼリーもあったから買ってきた、一緒に食べよう。」
「うんっ。」
チィちゃんはゼリーも大好き。
どんなに食欲がなくても、しんどくてもゼリーなら食べられる。
「今日はフルーツがいっぱい入ってるゼリーだよ。」
僕はゼリーのフタを開けてチィちゃんに渡してあげた。
チィちゃんは力がとても弱いから、開けられない事が多いんだ。
「おいしーっ。」
ゼリーとフルーツを一緒に口に入れ、チィちゃんはにんまりと笑った。
僕はこの笑顔が見たくてゼリーを買ってくる・・・と言っても過言じゃない。
「ねぇ、ショウちゃん。」
「ん?」
「今、願い事ってある?」
「・・・あるよ。」
僕の願い事はいつも同じ・・・
唯一つ・・・。
「なぁに?」
「・・・内緒。」
だって・・・
「えー、教えてよー。」
「だめー。」
それを口にすると・・・
「ぶぅー、ショウちゃんのケチー。」
チィちゃんは少しだけ頬をふくらませた。
「ははは、チィちゃんがもっと元気になったら教えてあげる。」
叶わない気がするから・・・。
「ショウちゃん、腕出して。」
ゼリーを食べ終わった後、チィちゃんはベッドサイドにある引き出しの中から
何かを取り出して僕に腕を出せと言った。
「?」
「目、閉じて。」
何だろう・・・?と、思いながら腕を出すと、今度は目を閉じろと言った。
「???」
僕はチィちゃんの言うとおり、目を閉じた。
すると、手首のあたりに何かもぞもぞした感触がした。
「あはは、くすぐったい。」
「もうちょっとで終わるからー。」
チィちゃんはクスクス笑いながらなんだか楽しそうに言った。
「ショウちゃん、願い事・・・心の中で言って。」
「・・・今?」
「うん。」
僕はチィちゃんに言われたとおりに心の中で願い事を言った。
「・・・言ったよ。」
「はい、もういいよー。」
チィちゃんに言われ、僕は目を開けてみた。
すると、僕の手首に青いミサンガがつけてあった。
黄色いビーズが編みこんであって、とても綺麗なミサンガだ。
もぞもぞしたのはコレを巻いていたのか。
「綺麗なミサンガだね。どーしたの?これ。」
「えへへ、作ったの。」
「えっ!?チィちゃんが作ったの?」
「うん。」
いつの間に・・・?
ずっと寝込んでたのに・・・。
「・・・すごい、上手だね。」
「そ、そんな事ないよー。」
チィちゃんは少し顔を赤くした。
「ホントだってー。ありがと、チィちゃん。」
「・・・うん。」
チィちゃんは僕に時々こうしてプレゼントをくれる。
そしてそれはいつも僕を幸せな気持ちにしてくれるんだ。
小学3年生の時は病院の中庭で見つけた四葉のクローバー。
押し花にして栞を作ってくれた。
小学5年生の時はマフラーを編んでくれた。
中学3年生の時は僕が第一志望の高校に受かるようにとわざわざ
天満宮まで行ってお札とお守りを貰ってきてくれた。
バレンタインデーも毎年、手作りチョコをくれる。
今年は入院してるから無理かな?・・・と思っていたら、
調子がいい日に病院の食堂のキッチンを借りて作ったらしい。
いつものようにメッセージカードと一緒にくれた。
僕はチィちゃんのチョコが大好きだ。
口に入れると甘くて優しい味が広がってすごくおいしいから。
だけど、最近はあと何回チィちゃんのチョコが食べられるのかな?
と思ってしまう。
・・・来年も食べられるかな?
来年も・・・いや、これからもずっと
チィちゃんのチョコが食べたいな・・・。
僕の願い事・・・この青いミサンガが叶えてくれるかな?
叶えてくれるといいな・・・。
・・・て、ゆーか・・・叶えてください・・・。