『大好きな妹』
僕の妹は誰よりも可愛い。
テレビに映る子役。学校一可愛いと噂の幼馴染。胸の大きな先輩。ツンデレ100%のクラスメイト。―――それらの頂点に立つのが『妹』だ。ラノベ中で一番好きな要素。それ以外で萌えることなどあってはならない。フラグが立ったら速攻へし折ってやる。僕が好きなのは妹だけだ。
―――生まれたその瞬間から、妹は僕の全てだった。
愛らしいぐらい小さな手。機嫌を知らせる泣き声。抱いた時にへにゃっと笑うその顔。
妹はものすごいスピードで成長していった。
小学校入学。ランドセルを背負って笑うその姿に思わず涙ぐんでしまった。
中学校入学。背丈も伸び、発育した彼女の姿に接し方を躊躇うようになった。
そして現在、高校入学。すっかり『女』になってしまった妹は、他より抜きん出て可愛かった。兄としては誇らしいが、変な虫が寄り付かないか心配になる。
「宵」
意を決して声をかけるが、返事はない。折れそうになる心を必死に保つ。
彼女は同じ表情でどこか遠くを見るだけだ。
―――君が生まれてからずっとずっと見てきたのに。
それからも、僕は彼女を見守り続けた。
たまに妹の周りに男が湧くと、電話でクレームをつけた。
妹が一人の男に恋をした時には本当に悲しかった。これが親離れならぬ兄離れというやつか。
ヘタレのくせに1本筋の通った少年に、妹はアタックし続け、周りのライバルと戦った。僕は妹が結ばれなかったら殺すと電話した。少しおせっかいしすぎたかな。それでも僕は妹が可愛い。幸せになってほしい。妹を振るような男は男じゃない。
「ごめん。宵の気持ちは嬉しいけど…好きな人がいるんだ」
そしてついに、物語が終焉を迎えた。妹の告白を、この世で一番憎い奴が断ったのだ。妹は泣いた。男は慰めた。――――何様のつもりだ。
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次の日、テレビでは一つのニュースが報道された。
【46歳男 独身が、今朝アニメ〇〇会社に押し入り、社員に危害を加えようとして取り押さえられました。男は、「僕の妹だぞ。ずっと僕が見てきたんだ。傷つける奴は許さない」と繰り返しており―――】