『来客』
それは、生臭い異物をゴミ袋にまとめているときだった。
『ピンポーン』
間の抜けたチャイムが来客を告げる。
しかし、今の現状では扉を開けることが気だるく感じた。せっかく一仕事終えた後だというのに。
義理程度の申し訳なさを覚えながら、そのまま居留守をすることに決めた。
『ピンポン。ピンポン』
今度は連続で鳴らされた。急用なのだろうか。
少し不安を覚え、玄関まで行くか行かないか迷う。このままだと行かないほうが面倒くさい結果に終わるかもしれない。
『ピンポーン。ピンポン。ピンポーン』
一人暮らしのアパートの一室。それもとてもじゃないが裕福には見えない外装だ。新聞勧誘者がこんなところにわざわざ足を運ぶとは思えない。きっと来客は顔見知りなのだろう。そうまで分かってなお、チャイムに答えようとは思わなかった。
造りが古いこの部屋には、来客を確認できるような便利な機械はない。扉に取り付けられた魚眼レンズを覗けばいいだけの話だが、私はそれがどうも好きになれなかった。人の歪んだ顔は嫌いだ。整った顔立ちこそ美しい。
『ピンポン。ピンポン。ピンポン』
一向に鳴り止む気配のないチャイムに、段々と腹が立ってきた。要件があるなら電話でもすればいい。いくら貧乏だといっても固定電話ぐらいならあるのだから。
とんとん。
何故かチャイムではなくノックが鳴らされた。
もしや―――考えたくない予想に手が汗ばむ。ぽたんと、一筋の汗が冷えた頬に落ちた。慌ててそれを拭う。
どんどんどん。
ノックが大きくなる。同時に焦りが募っていく。
顔を外に向け、カーテンが閉まっていることを確認した。
どんどんどんどん!!!
ボロアパートが壊れるんじゃないかと思うぐらいの勢いだった。
何か声のようなものも聞こえる。怒鳴っているのだろうか。しかしこの距離では、内容まで聞き取ることはできなかった。
「………!出て……!」
出て? なんとか一部分だけ聞き取れた。
火事でも起きたのだろうか。それならそれで好都合なのだが。後は外に出てしまえば終わりだ。
希望を胸に、玄関へと歩を進める。
どんどんどんどん!!!!!
今までで一番強いノックに、ハッと上体を仰け反らせる。
扉一枚隔てただけの距離に来たおかげで、来客の内容を聞き取ることができた。
………しくじった。
私は一人膝をついた。