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勇者不完全  作者: まきびし
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勇者不完全②-1 

二部として書きます、一定ペースでまた上げていきたいと思います。

その部屋には窓らしきものは一つもなく、天井から吊るされる蝋燭の明りが部屋の中を照らしているだけだった。薄明りに照らされるその部屋には簡素なベッドが一つあるだけで他に家具・調度品の類は何もなく、くすんだ灰色の石畳・石壁のせいもあって、廃墟のようだった。

その部屋の中に佇む人影は四つ。そのうちの一つ、ベッドに腰掛ける銀髪の男は、無言で自分の体のあちこちを見渡した後、前に立つ痩身の男を見上げた。


「……俺の体はいつ元通りに動くようになるんだ」


「バモット……そんなすぐに動くようになるわけないだろう、生きているだけでも奇跡なんだ、しばらくはじっとしていたまえ」


「俺のことを生き物でも死体でもないと言ったのはアンタのはずだがな、コーカフ」


「そうだったかね、まあ言葉のアヤというやつだよ、」


背中を丸めながらコーカフと呼ばれた男が笑う。外見は少年と青年の中間ほどだったが病的なほどやせた男で、頬はこけ、手足もまるで老人のように細かった。


「まあ君は死体から出来てはいるが肉体的にはほぼ生身の人間と同じだ、傷を負ったら治す必要があるし、深手を負えば死ぬこともある……下等な動死体と一緒にしてもらっては困るね、君たちは私の死霊魔術の集大成なのだから」


「初耳だな、コーカフ」


「教える必要はないと思ってたんだよ、ここまでの深手を負わされて帰ってくるとは思わなかったものでね、んん?」


「……知らなかったな、お前は死霊魔術以上に人を煽るのも得意なようだ」


「……それだけの殺気を出せるなら、すぐに前のように戦えるようになるだろうさ、そう思うわないかねサーガ君、オーギュロープ君?」


 にやつきながらコーカフは振り返り、壁にもたれ掛り話を聞いていた残り二人に声をかけた。半人半竜の小柄な少女と、神職のような装束に身を包んだ大柄な男。外見はまるで似つかない二人だったがその髪だけはバモットと同じく輝くような銀髪だった。


「ははっ、確かにすごいや。怪我が治ったら僕が相手をしてあげようか?」


竜人少女サーガは鋭く尖った牙をむき出しにして笑った。まだ幼さの残る顔つきの少女のその言葉を、しかしその場も誰一人として冗談と受け取らなかった。事実灰の竜の力を身に宿している彼女には負傷の無いバモットから真正面からやり合うことも容易いことだった。


「確かにお前との戦いはそそられるが、お前は手加減が出来るタチでもないだろう……またすぐ動く必要があるときに内輪で潰しあいをして何になるというのだ」


「その通りだバモット、そう我々は同胞!互いを利することはあっても、害しあうなどあってはならない!ましてや病み上がりのバモットを無理矢理戦わせようとするなど……サーガよ、君がかようなことをしでかしたなら勝敗の如何に関係なく恥辱の極みから逃れることは出来ぬだろう!」


 身振り手振りを折り混ぜながらオーギュロープがサーガに芝居がかった語調で言う。悦に入った様子のオーギュロープはバモットやサーガら戦闘者が発する威圧感とは別種の威圧感を発していたが、サーガは慣れた様子でオーギュロープの言葉を聞き流し、一瞥もすることもなく、壁から遠ざかるようにゆらゆらと歩き出した。


「うるっさいなあ……でもまあバモットとはいつでも戦えそうだし急ぐこともないのかな、今は荊兜の人達と遊ぶとするよ、そういう任務だしさ」


「わかっているではないか!以心伝心は非常に良好なようだ!我々が胸底合致すれば敵が何人いようと関係ない!悉く羽虫のように薙ぎ払われるだろう!何故ならば……」


「ところで任務に行くのはサーガとオーギュロープの二人だけか?」


悦に入った様子のオーギュロープを無視し、バモットはコーカフに問いかける。サーガも今やオーギュロープの近くにはおらず、バモットの隣に腰掛けていた。小柄な彼女はバモットと頭一つ以上身長差があった。


「いーや、もう一人いる、ここにはいないが彼女がおそらく要だ……彼女がいなければかの博士は揺らがないだろうね」


「あの卑しい女か……あのような女が使い物になるのか、いやあの女だけではない、あのようないつ裏切るともしれない奴らをよく信用できるな、お前は」


不快そうに眉根をしかめながらバモット短く舌うちをする。バモットのこのような態度は珍しく、サーガも少し驚いたような表情でバモットへ顔を向けた。


「少々の任務の変更があったのさ、何せ私たちも少数が、使える人員はできる限り使わないといけないのさ、ロッシがやられたのも痛いんだよ」


「レスト・コールフロント……」


「その人、強いんだよねバモット、僕も戦ってみたいなあ……」


サーガが尻尾を頭上でゆらゆらと揺らしながら舌なめずりをした。その表情は年相応の少女が浮かべるようなものではなく、妖艶で嗜虐的で、悪魔じみたものだった。


「レストという男は強いが、お前とオーギュロープの二人を相手にして勝つことはできないだろう、他に荊兜が一人二人いても同じだ、一方的な勝負になるだろう……しかし」


「しかし?」

 

「勝負に絶対はない、それだけは覚えておけ、一度みじめに負けた男からの助言だ」


「でもバモットは忘れてる、今回はその例の女の人と蹄の魔物たちもいる、万が一なんて起こりっこ無いよ」


ふふんと鼻を鳴らしサーガがすっと立ち上がる。バモットと同じく王都襲撃に加わっていたサーガの戦果は目覚ましいものだった。空中からの偵察、主要な建物の破壊、敵主力の足止め、全てを成し遂げそしてその体に一切の傷を負わなかった。実績に裏打ちされた自信がサーガにはあった、次も勝利するだろうという予感があった。


「さあ行こうオーギュロープ、僕たちの任務を果たしにさ」


 サーガは未だ調子のいい言葉を吐き続けるオーギュロープの肩を叩いた。互いの目に浮かぶのは残忍な光、互いの顔に浮かぶのは抑えきれない感情をわずかに滲み出させた薄ら笑い。サーガとオーギュロープ、どこまでも気の合わない二者も一皮むけば同じ魔の眷属、根源的な欲求は同一のものだった。


「おお、出陣か!では残されし君たちよ、我々の凱歌を心待ちにしているといい!いざ往かん!東方の大森林地帯、竜の力に飲まれた魔術師フォークランドの元へ!」


「クヒッ、期待しているよ」


コーカフとバモットに見送られながらサーガとオーギュロープは意気揚々と言った様子で部屋を後にした。バモットは考え込むようなに顎に手をやりながら部屋から立ち去る二人を見送った。


「……どういう心境なんだい?君のような男が随分仲間が気になるようじゃないか?人間をベースに作るとやはり感情豊かになるのかね?」


「何を言っている?俺も魔王軍なのだ、味方の勝利に貢献するのは当然だろう?それよりもコーカフ、魔王の変わりはいつ用意できるのだ?」


 悠然とベッドに寝そべりながらバモットがコーカフに問いかける。直後今までずっと不気味な笑みを浮かべていたコーカフの表情が変わり、苦々しげな表情に変わる。


「今やってるがね……コレが簡単じゃあないんだよ、中々面倒な手順を踏まないと成功しないものでね、説明してもいいけど大分長いし難しくなるよ、それでも聞きたいのかね?」


「いやいい、聞いたところで俺のすることは変わらん、お前は俺達を指揮し魔王軍の完全復活を果たせ……それが魔王軍最後の魔人であるお前の存在理由だろう?」


「クヒッ、君のそういうところは非常に好ましいよ……私の作り方がよかったんだろうね、何せ君にとっては私がパパでママだ、抱きしめてあげようか?」


「止せおぞましい、お前も気に障る言葉ばかりよく言えるものだな、時折縊り殺したくなる」


片頬を引きつらせながらバモットが吐き捨てるように言う。冗談として口にした言葉ではあったが殺意だけはバモットの中に確かに存在した。そんなバモットの内心を察してかコーカフは不自然におどけた様子で後ずさりバモットと距離をとった。


「おお怖い怖い、まあ今の君に出来ることは傷を癒すことぐらいだ、大人しく休養していたまえ……クックックッ」


 コーカフはバモットに背を向け、部屋を後にした。バモットの視界からコーカフが消えてからもコーカフ笑い声は部屋に響いていたが、それもやがては薄れ掻き消え、完全な静寂がバモットに訪れた。

一人きりになった部屋でバモットはゆっくりと瞳を閉じた。暗がりから完全な闇にバモットの視界は移り変わり、いつしかバモットは眠りに落ちた。


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