続く明日へ
①は最後です、長らくありがとうございました。
復活した魔王軍による王都強襲の知らせは一日で王都中に広まった。まだ記憶に新しい
魔王軍の恐怖からか噂はまたたく間に伝播し、王都に住む人の心に暗い影を落とした。無惨に破壊された町並みや、あちこちに飛び散る血の跡、町中を歩く物々しい様子の兵士たちは人々の心から平穏の二文字を奪い去るには十分すぎるほどだった。
「……死者百七十名、負傷者三百名超、破壊された建物は今確認できているだけでも二百を越えます……外敵の侵攻を一度も許したことの無かったこの王都史上最悪の被害ですわ」
「……だろうね……」
「……」
厳戒態勢を敷く王城、その中の一室の会議室にレストたちは集められていた。マーゴットがおらず、代わりにノーシアと文官一人がいる以外は前回の会議と同じ様相を呈していた。しかし集まった顔触れの半分近くは何らかの負傷を堪えての参加だった。
「襲撃を実行したのは6体の魔物……人間の剣士風の魔物、魔術師風の魔物、全身から刃を生やした魔物、大きな翼の魔物、蜘蛛のような下半身を持つ魔物……そして竜人化した私たちによく似た魔物……うち全身刃の魔物は死亡が確認されていますが残りは全て撤退したようですわ、全く忌々しい!」
少し目を赤くしたミルアーグが語気を荒くし言う。会議室にいたワッティらは口数少なくミルアーグの言葉を静かに聞いていたが、怒れるミルアーグを無理になだめようとはしなかった。それは真っ当な怒りだった、その場にいた全員が感情の規模に差異はあれど同じく抱いていた感情だった。
「……レスト、あの剣士か魔術師か、どちらかでも捕えることはできませんでしたの?どちらも満身創痍だったのでしょう?そばにいたカナン様と協力すれば可能だったのではないかしら?」
「まあ確かにバモット、剣士の方はもう剣を振ることすらできない位には弱ってたけどよ、魔術師の方はまだ手のウチが知れねえ、余力がないみたいなことも言ってけど実際どうだかな……おまけに翼の魔物まで来やがったんじゃあの時の俺たちの手には余る……状況判断としては妥当なとこだろうが」
「どうだか、最後の最後で臆したのではなくて?」
「……テメエが翼の魔人をきっちり仕留めてりゃ、一人くらいはとっ捕まえられてたかもしれなかったんだけどな?ビビリとマヌケはどっちがマシなんだミルアーグ?」
「っ!言うに事欠いて私をマヌケですって!」
レストがミルアーグに威圧的に言い、即座にミルアーグが反射的に声を上げる。またか、と言いたげな表情のノーシアがレストをじっと見るがレストは意に介さず、同じくギーフから冷たい視線を投げられているミルアーグと視線をぶつけ合った。
「いやミルアーグちゃんの言うこともわかるけれども、おじさんには足止めが精いっぱいだったあの剣士を倒すなんてさ、レスト君は本当よくやってくれたと思うよ。何より刃の魔人を倒したのはレスト君な訳だしさ……仮にレスト君に失策があったとしても今回は功績でおつりが来ると思うんだけどね、どうかな?」
ワッティが穏やかな口調でミルアーグに語りかける。ミルアーグは怒りと悔しさを混ぜ込んだような表情で一瞬レストを睨んだが、観念したように息を吐いた。
「……わかりました、私も今は時間を無駄にしたくはありません……レストの諸行動の是非ついてはこれ以上問いません……話を中断してしまい申し訳ありません、王都守護隊についてですが、大規模な再編成が必要となります、シュカさん、説明をお願い」
「は、はいっ、では守護隊についてですが……」
気圧され縮こまっていた文官の女官らしき女が指名を受け慌てて説明を開始する。レストはむくれ面のまま椅子に座り、心底不快そうに腕組みをした。
「チッ、俺はテメエが喧嘩吹っ掛けてこなけりゃ何もしないっての」
「……レストが喧嘩ごしで喧嘩買うから無駄にヒートアップするんだよ、後でワッティさんに一言言っときなよ」
「……礼は言うっての、後でちゃんとよ……」
ひそひそ声で語りかけるノーシアにレストはバツが悪そうにひそひそ声で返す。昔もさほど中が良かったわけではないものの、最近は特にミルアーグとは相性が悪い、そう思いながらレストは兵士の振分けを説明するシュカを見つめた。
「……わ、私から以上です、ギーフ様からは何か?」
「……うむ……やはり現状には一刻の猶予もない……対抗策は打てるだけ打っておかねばなるまい……」
じっと話を聞いていたギーフが唸るように言う。ミルアーグらの話の大半は集約すると、全容の知れない強大な敵に少ない戦力でどう対処しようか、ということであり王国軍の余裕の無さを露呈しているに他ならなかった。
「ではギーフ様」
「うむ……やはり野に下った荊兜たちを呼びもどす、軍備の増強と並行しそちらも行わねば、あの魔人どもには太刀打ちできまい、一騎当千の化け物どもにはこちらも相応の戦士をあてがわねばなるまい」
レストは前回の会議を思い出す、何もかもが足りない王都軍、ただ平和でありさえすればどうにかなっていたかもしれない現状の課題が、今どうしようもない問題として立ちはだかっていた。復活した魔王軍、精強な魔人たち。敵の姿を思い浮かべながら戦いの最中から燻っていたレストの疑念が首をもたげる。
「魔人たち……か……あいつらは何なんだろうな……」
誰もが思っていたが答えの見つけ出せない疑問、存在するはずのない敵とその正体、事件から三日経った今現在でも明確な答えは存在しなかった。レストが倒した魔人の死体も当然調べられたが、死体に施された過剰ともいえる防腐処理・魔術的処理により本来得られるはずの諸情報を何も得ることができずにいた。
「……汚れ翼の魔人、策謀を好んだという魔王軍四大魔人の一角……容姿に魔術、よく似ていましたわね……しかしあの魔人は魔王城で勇者に討たれ死んだはず……」
「俺が戦ったのも多分そうなんだろうな、兵たちは束ね刃の魔人の再来って言ってたけど……間違いじゃあねえんだろうな」
レストは人づてに聞いた束ね刃の魔人の情報を思い出す。無尽蔵に黒い刃を生み出す魔人、一度はテルキオールを死に追いやった魔人、復活したテルキオールに敗北し死んだ魔人。レスト自身はその魔人を見たことはなかったが自分が戦った魔人と同じ存在という確信があった。容姿に能力が似ていたというのも根拠だった、しかしレストはそれを差し置いて、強さの一点だけであの魔人を四大魔人の一角と断定していいと思っていた。
(……理性が殆どない状態であの強さ……あれがただの魔物なわけあるか……)
「……あの剣士は大剣の二刀流だったね、しかも一本の大剣は二本の剣に分離する機構が備わってた……似てるよね」
「……報告によれば、竜人によく似た姿をとる魔物もいたそうだな……」
誰に似ているかワッティは言わなかったが、誰も問わなかった。その場にいた誰もが同じ人物を連想していた。
「……偶然で片付けていいのか?」
「レスト、お前は前大戦で死んだ魔人が蘇り、さらにテルキオールの力の一部を得た魔人が生み出されたと、そう言いたいのか?」
ギーフが自分の一言一句を確かめるようにゆっくりとしかし強い語調で言った。レストはギーフの威圧に少し気おされながらも、真剣な表情でゆっくりと頷いた。
「馬鹿げてるかもしれないですが……そう考えた方がいいと俺は思います」
「……そもそも魔王軍がたった一年で再び動き出すということがまずありえないことですわ……何らかの異常が発生しているのは、間違いないですわね」
顎に手をやりながらミルアーグが言う。先ほどまでと打って変わってレストの言を全て真実と、考慮に値する重要事項と考えているかのような口調だった。他の面々も言葉を発しはしなかったが、レストの発言を妄言とは考えていない様子でじっとレストを見つめていた。唯一、シュカと呼ばれていた文官だけが、動揺をむき出しに、落ち着かない様子でせわしなく視線を動かしていた。
「……そ、そんな、皆さん……どうかしていますよ、死んだ魔人が生き返っただけじゃなく勇者様の力まで持った魔人まで……今の私たちに何を出来るって言うんですか!」
「落ち着きなさい、貴方の立場でそのような物言いが許されると思いまして!」
ミルアーグが叱責するが、シュカと呼ばれていた文官の物言いは的外れではなかった。味方があと一人足りなければ、敵があと一人多ければ、国王の命さえ危うかったことをレストは知っていた。
「……ワッティ、お前次第ではすぐにでも発ってもらいたい、重ねて言うが重要かつ火急の任務なのだ、危険な任務だがお前なら成し遂げられると信じておる」
「その話なんですがね、王国の今後を左右する重要な任務のお話いただいたことはありがたいんですが……俺は辞退したいと思います、他に適任がいます」
ギーフの目が一際鋭いものになり、ワッティを見据える。怒りこそ無かったが疑念に満ちた視線だった。しかしワッティは口元に微かに笑みを浮かべたままギーフの視線を受け止める。
「……誰だ?」
「レスト君です、彼が一番ふさわしいと思います」
「……はっ?」
レストが驚き思わずに声を上げる、ギーフがじろりとレストを一瞥するが、レストに声をかけずに険しい表情のまま再びワッティに視線を戻した。
「……お前のことだ、訳なくレストを推したわけではないのだろうが、どういう理由でレストが適任だと考えるのだ?」
ギーフの低い声を受けワッティがゆらりと立ち上がる、会議室の面々、戸惑いや驚きを持って見つめる面々を見渡し、落ち着いた調子で口を開いた。
「……僕が推薦されたのは僕が自由に動ける立場だったからですよね?レスト君の任地だった北方砦は全壊してレスト君は今や職なし、本当なら砦の奪還と再建に兵士を率いて行かないといけないわけだけど……ミルアーグちゃん、実際レスト君の司令官としての評価はどんなもんだったの?」
「……最悪ですわ、実務はロッケンに任せきり、普段の態度もだらしなく、トップが規律を一番乱していると私の耳にも届いていましたわ」
「……最低限のことはやってる、必要以上に出しゃばらねえんだ、俺は」
「あら、最低限のことしかやらない上司は部下からは役立たずと言われますのよ、そんなこともわからないのかしら?将としてそれはどうなのかしら、レスト?」
「ぐっ……」
あきれ果てたような口調でミルアーグが言う。レストは何か言い返そうと口を開くが意味のある言葉は紡がれることはなかった。
「……まあそんな人の上に立ったり人を導くことに関してはからきしなレスト君ですけど、個人の武勇に関しては疑いようがない、それが僕がレスト君を推す一番の理由です」
「……というと?」
「情けない話ですが僕はあの剣士に勝てませんでした……平和で悠々自適の生活が長かったせいか腕も大分錆びついていたようで……しかしレスト君は違いました、死体とはいえおそらく本物の束ね刃の魔人はおろかあの剣士さえも切り伏せてしまいました、剣技の冴えも意気込みも僕とは段違いです……秘密裡にそして単独で行う荊兜の探索、単身であの魔人たちを退けられる力が求められると僕は思います」
「……確かに、お前の言には一理ある」
「というわけでどうでしょうか、危険度の高い荊兜探索の任務をレスト君に任せて俺が北方砦の奪還と復旧を請け負うというのは?人材も少ないので適材適所の配置が今は必要かと?」
ワッティは言い切り、ギーフに返答を求める、しかしギーフが口を開く前にレストが立ち上がり激情を抑えられない様子で口を開いた。
「俺にやらせてください、あの魔人どもにもう後れは取りません。俺は確かに少々粗忽者のきらいはありますが、何よりバモットとか魔人とか、あんな奴らにこの国を滅茶苦茶にされたくはありません!どうかお願いします!」
「……まだそのような世迷言を!貴方に任せられるとでもお思い?」
「待てミルアーグ……レスト、各地で援助は受けられるように取り図るが、お前は単独で任務をこなさねばならん、所在の知れない者たちばかりだそして魔人どもの横槍も十分あり得る、過酷な任務だ……」
「俺の意志は変わりません、必ずやり遂げてみせます」
レストは力強く言い放った。単なる虚勢でもなく、怒りにかられた言葉でもなく、心の奥底から発せられた言葉だった。宣誓にも似たその言葉を聞きながらワッティが満足げに微笑む横で、ミルアーグは動揺したようにわななき、苛立った視線をレストに向けていた。
「武勇を理由にしたところで、貴方のような男に……貴方のような男に……単独でしかも重要度の高い任務を任せるというのは……」
「レスト一人じゃ不安だって言うなら私も志願します、いくら人手を割けないとはいってもまるきり一人でやらせていい類の任務ではないでしょうし?」
震えながら言葉を紡ぐミルアーグを遮るようにぴんと背筋を伸ばしノーシアが手を上げる。会議室にいる面々の中で一番傷が深く、今でも体のあちこちに包帯を巻いている有様だったが、レストと同じように心の奥底から、確固たる意志の込められた言葉を述べた。
「……確かにレストの任務に同行するにはお前が適任かもしれぬな、荊兜ではないが腕は立つ、社交性もレストとは比べものにはならん。ミルアーグこれでお前が懸念していた問題も無くなったな?どうだ?」
「っ!異論は……ありません……」
表情こそ険しいままだが声色を少し柔らかくし、どこか満足した様子でギーフがミルアーグに語りかける。ギーフの言葉を聞いてもなお歯ぎしりし何か言いたげなミルアーグだったが数秒の逡巡の後諦めたように首を縦に振った。
「ではレスト、ノーシア、お前達には荊兜探索の任務を与える、こちらで掴んでいる在野の荊兜たちの情報をこの後提示しよう、存分に活用するのだ……ワッティ、お前は兵を率い北方砦の奪還をしてもらう、こちらも容易くはないだろうが存分に力を発揮して欲しい」
「承りました……まあ僕が望んだ任務ですからね、しんどくってもきっちりこなしてみせますよ、お任せください……僕も若者には負けちゃいられませんからね」
ワッティが軽い調子で言いながらレストを見つめる、視線に気づいたレストも頬をかきながらワッティを見つめ返し、おずおずと口を開いた。
「……色々世話になっちまったな……その……ありがとな」
「いいよ、僕は事実を言っただけさ、頑張ってね」
ギーフがミルアーグに視線を送る、未だ表情でレストたちを凝視していたミルアーグは我に返ったように平時の表情を作り出し、円卓の面々を見渡しながら口を開いた。
「今後の指針を共有できたところでこの場は一旦終了します、これからは個別に任務・指令を与えていきます、ワッティだけ残って残りは解散とします……今さら言うまでもないことですが、これからが正念場ですわ、各々の本分を全身全霊で全うしてくださいませ……今この世界に勇者はいないのですから」
「……ああ確かにいねえな、今はな」
誰に聞かせるでもなくレストは呟き、レストは自分の荊文様の兜に手を伸ばした。戦いの度傷つきレストを守ってきたその兜にはバモットの一撃を受け止めた時にできた新しい一筋の傷がついていた。これからもっと多くの傷がつけられるだろう、そしてきっと壊れるまで世話になるだろう、そんなことを思いながらレストはゆらり立ち上がり会議室を後にした。
「なあ……」
「何?」
「何でお前も志願したんだ?」
普段より幾分活気の少ない大通りを歩きながらレストがノーシアに尋ねる。普段なら大声で話さなければ互いの声を聞き取れないくらいの喧騒で溢れた大通りだが、今では人の営み、動的なものを大きく欠いていたため、呟き程度の声でやり取りできるほどになっていた。人通りも少なくレストたちの歩みも幾分早い。
「何よ、私じゃ不満?」
「いや、実際……それなりに助かる、全く知らねえ奴が相棒になるくらいだったら、知り会いの方がずっといいってか、まあそんな感じだ……つーか怪我はもういいのか?」
「今回早急に任務に行かなきゃいけないってことで薬と治癒魔術を優先的に回してもらいましたよ、オカゲサマで日常生活を送れるくらいには治りました、後は自分で治してってさ、治癒魔術はあんまり得意じゃないけどまあここまでしてもらった以上は自分で何とかするよ」
「薬くらいならやるぜ、貸しにはするけどな」
「冷たいじゃん、本当にヤバかったときは本気で心配してくれてたのにさ」
「……気のせいだろ」
自分の肩を軽くたたきながら言うノーシアに適当な相槌を打ちながらレストは歩き続けた。失意に暮れた様子で街角に座り込む人や街並みの中に偶に現れる破壊された建物・構造物を一瞥しながらもレストは足を止めず王都正門に向かって黙々と歩き続けた。
「それにしても、大分マシな顔になったじゃん」
不意にノーシアがレストに顔を近づけ顔を覗き込みながら言った。近づく二人の顔、消毒液と清潔な包帯の香りにまじってかすかに香る甘い香りがレストの鼻腔をくすぐる。レストは唐突にわいてきたむず痒い気持ちを振り払うようにノーシアから慌てて顔を逸らした。
「別に……ただ、やるだけやってやろうって思っただけだ……あとお前のことは結構アテにしてるんだぜ、まあ、よろしくな」
「こっち見ていいなよ、こちらこそよろしく」
相変わらずノーシアを視界に入れないまま素っ気ない口調でレストが言いノーシアに向かって右手を差し出した、気の抜けたような表情でノーシアも右手を差出し、互いに力強く握手を交わした。
「あ、レストさんにノーシアさん、お疲れ様です、もう出発ですか?」
握手を解きつつあったレストたちに、正門の前で武器を片手に立っていたマーゴットが声をかける。気づいたレストたちが軽く手を振ると、身の丈よりも大きいハルバートを肩に担ぎながらマーゴットがレストたちに駆け寄った。
「マーゴットちゃんはずっとこっち出てたの?戦い終わってから殆ど休んでないんじゃないの?かなり激しくやり会ったって聞いたけど?」
「あはは、やりあったっていうか、結構一方的にやられたって言うか、あの竜の人にでっかいハンマーで何回もぶたれましたし、墜落もそれなりにしましたけど、私体は丈夫ですから!あの人が逃げるまでは戦いきりましたとも、ええ」
「……ああ、はは、そうだよな」
得意げにマーゴットが言う、薄手の肌着のみを纏った上半身のあちこちには包帯が巻かれていたが、特に気にすることも痛がるそぶりもレストたちに見せなかった。判断に困ったレストが曖昧な笑いで誤魔化す。
(やせ我慢なのか、本気で痛くねえのか判断つかねえ……元気っ子め)
「まあ無事ならいいかー、ああそう、私たちは早速任務よ、東方砦のさらに東の大森林地帯に行くよ、魔物よりも土着の巨大生物のがおっかないとこだけどね」
「もしかして最初はフォークランドさんですか?」
腕組みし首を傾げながら、困ったようにノーシアにが言うとマーゴットが考えるそぶりを見せずに即答する。レストは内心少し意外に思いながら、マーゴットに問いかけた。
「誰かから俺らの行先聞いてたのか?そんな噂好きだったか?」
「フォークランドさんは王都でも噂だけは嫌というほど聞きますからね、森の中に謎生物の牧場を勝手に作ったとか、東方砦に研究資材をたかりにいったとか、大笑いしながら木を登って行ったとか……本当に困った人です、レストさん、フォークランドさんに会ったら私の代わりにきつく言っといてくださいね、周りの人との和を大事にして暮らしてくださいって」
少し眉間にしわを寄せながらマーゴットが諭すように言う。同い年のレストと話すその姿は兄妹ともすれば親子に見えるほど外見年齢はかけ離れていたが、レストはマーゴットの言葉を素直に聞きいれ、ため息交じりに一度軽く頷いた。
「わかったよ、あの間違ったインテリにはきつく言っといてやるよ、しかしつくづく真面目な奴だなお前は、休みゃいいんだ、そんぐらいのケガなら俺なら3日は自宅療養してるってのに」
「こうしている方が調子いいんです、いつ魔人がまた来るかわかりませんし……今回はもたついて決着をつけられませんでしたが次会うときは最初の一撃で決着をつけるくらいで相手してやりますよ、先手必勝、一撃必殺です!」
熱の入った様子でマーゴットが担いだハルバートを勢いよく振り下す。仮想敵を両断するように振るわれたハルバートは風圧だけで道の小石をころがし、行き交う通行人をぎょっとさせた。苦笑いを浮かべるレストたちと戦々恐々する通行人を尻目に、マーゴットは得意げにハルバートを再び肩に担ぎあげた。
「おっとっと、長く引き留めてしまって申し訳ないです、長旅になるとは思いますがどうかお達者で、健康には気を付けてください、またお会いしましょう」
「ああ、またな、そっちも怪我だけはさせないようにな」
きりりとした表情で敬礼をするマーゴットに見送られながらレストたちは城門をくぐり抜けた。きちんと石畳が敷き詰められた城門前の一帯には、商隊や兵士たちの他に大型の馬車が何台か鎮座し、目当ての目的地へ向かう旅人をぽつりぽつりと乗せていた。レストたちも東方砦へ向かう馬車を見つけると、旅人と同じように馬車に乗り込んだ。
「全然変わってなくて面食らったの?子供っぽい所はあるけど慕われてるのよ」
「いい意味で若えな、同じ年とは思えねえよ、こっちが色んなことに疲れたりしてる」
「そう?レストと同じよ、基本的なとこは昔から全然変わってないのよ」
「……そうかよ」
レストたちが空いた座席に腰かけ一息ついたころ、丁度馬車が動き出した。大雑把に整えられた街道を穏やかに特に何事もなく馬車は進み、ことりことりと馬と車輪が作り出す規則正しい震動と揺れがレストたちにも伝播する。今まで疲労など意識していなかったレストだったが次第にまぶたが重くなり、意識も霞かかったようにぼんやりとし出した。
「早速寝るの?いきなり寝られると私結構退屈しちゃうんだけど」
「……ちょっとだけだ、すぐ……起きるからよ、これからしんどいんだ……今くらい……」
「もう……寝かせないようにひたすらガヤガヤ話しかけてもよかったんだけど、そんな気持ちよさそうにされたんじゃ、起こすのも気が引けるじゃん」
困り眉のまま穏やかに笑うノーシアの顔を見ることなくレストはまぶたを閉じきった。
いつも見ていた悪夢を今回ばかりは見ないだろうという予感をもって、レストは久方振りの安らぎを感じながら眠りに落ちた。
取りあえず①は終わりです、ちょっと間は空くでしょうが②もやります。
初めての投稿でしたが、やっててとても楽しかったので、今度はもうちょっと技術的なほうでも
今よりうまくやれたらなあと思います。
見てくれた人には感謝しかないです、コメント・評価等下さった方には特にです。
本当にありがとうございました!




