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勇者不完全  作者: まきびし
7/22

決着、そして始まり

前書きに何を書いたらいいのか、未だによくわかっていません。

バモットは大剣を横に振りかぶり、石壁に叩き付けるとそのまま振り切った。大剣こそレストには到底届かなかったが、この一撃で同時に発生した石壁の破片がレストに迫った。レストは瞬時に斧を十字槍に持ち替え破片を弾き防ぐも、その隙にバモットは大剣の投擲で空いた壁の大穴へ至っていた、挑発するような表情を浮かべバモットは壁の大穴をくぐった。


「上等だ、広いとこなら俺も得意だっての」


 足元の斧の一本を背中に仕舞い一本を右手で握りしめるとレストはバモットの後を追い壁の大穴をくぐり城の二階層部分、有事には防衛用の石弓や投石器を置くためのようになっている場所にレストは足を踏み入れた。


「中々の景色だな、お前にとっては見慣れた景色なのかもしれないが、死ぬ前に見る景色としては贅沢すぎるだろう」


「いや、俺もここに来るのは初めてだ、ここに来ることあんのなんて弓兵と魔導兵くらいなもんだ」


 バモットはレストに落ち着いた口調で語りかけ、レストはバモットにゆっくりと近づきながら答えた。王都一帯は青天で風も穏やかだったが、町と城門付近の喧騒は未だ途絶えず、平穏とは程遠い怒声、轟音、破壊音がひっきりなしに鳴り渡っていた。


(久方ぶりの竜人化……結構持っちゃいるが……正直いつ終わるかわからねえ、ギリギリだな……)


 レストは斧を持つ右手と十字槍を持つ左手を交互に見た。竜の鱗で覆われた両手は未だ淡い緑色の光を放っていたが、時折星が瞬くように不意に光が弱くなる時があった。


「ああ……そういえばお前に聞いておきたいことがあった、お前は本気で自分が勇者になれるとでも思っていたのか?」


「……ああ?どういう意味だ?」


 バモットが真剣な表情でレストに尋ねた。突拍子のない質問に苛立ち混じりの返答をしたレストだったが、バモットは真剣な表情を崩さずレストを見据えていた。竜人化が解けるまでの時間稼ぎとも考えられる行動だったが、そうではないだろうとレストはすぐに断じた、事実バモットにそのような意図は無かった、純粋な好奇があった。


「俺は……死霊魔術の応用によって勇者テルキオールの死体から作られた、剣士としての勇者の側面をだけを抽出して生み出された魔人とも人間とも言えない存在だ、俺達を作った奴は英雄残片と呼ぶ」


「……何で俺に言う?結構な秘密じゃねえのかよ、それ」


 武器を握る手から力を抜かず、レストはバモットを見据えながら話し続ける。


「何ただの気まぐれだ、それにお前達も遅かれ早かれ察することだろう……俺が剣を振るうたびに思うのは俺のオリジナルは間違いなく貴様ら人間の中では最上位の剣士だということだ、この男に剣で勝てる奴がいたのか?剣技だけではない、全てに面において人類の最高峰だったというこの男に勝てると思っていたのか?お前の全身全霊でさえ、剣士としての勇者、この俺に敵わないだろう?平気でいられたのか?お前はっ!」


「っ!」


 爆発的な勢いでレスト目がけ突進してきたバモットが右の大剣で勢いよく突きを繰り出す。レストは両腕の武器で大剣の軌道を逸らし回避するもバモットは攻撃の手を緩めず、右大剣による苛烈な乱れ突きを敢行する。


「戦場における最善の太刀筋を瞬時に導き出す才覚!それらすべてを実行に移すことの出来る完璧な肉体!生み出された時から敵はいなかった!獰猛な魔物でさえ大戦を乗り越えた人間の戦士でさえ俺に傷一つつけることはできなかった!この世界の一切は脆すぎる!」


 防戦一方のレストに間髪入れずバモットは左の大剣を振り下す。右大剣の突きを受けながらレストは身を捻り直撃を避けるが、完全には躱しきれずレストの脇腹からは血が滴った。レストの表情が苦痛にゆがむ。


「どうした?見慣れた太刀筋だろう!容易く避けられるだろう!」


「つくづく、癇に障る野郎だなお前は!」


強い語調で叫びながらレストは後ろに跳躍しながら右手の斧を力強く投げ放った。緑色の光と暴風を纏い、高速回転しながら迫る斧をバモットは撃ち落とそうと大剣を振り抜いた。バモットは斧の軌道を読み、軌道を塞ぐように大剣を振り抜いていたが斧を捉えることは出来なかった。斧は燕のように俊敏に大剣を避けると再びバモットへ向け軌道を変え、バモットの肩を切り裂いた。


(いいとこ飛んだけど、浅え!)


 着地したレストはすぐさまもう一本の斧を背から引き抜くとバモットに投げつけた。渾身の力で投げられた斧は旋回し戻ってきた最初の斧とともにバモットを挟み込むように飛んだ。軌道を変えながら迫る斧による二方向からの同時攻撃、風の魔術を惜しみなく使ったこの攻勢でバモットに致命傷を与える、そのはずだった。


「はっ、面白い技だが一度見ればどうとでも出来る!」


バモットの言に偽りは無かった。バモットは大剣の一本を手放し、大剣のもう一本を二本の片刃剣に分割し、両手に持つと、身に触れる寸前まで接近した斧を素早い振り抜きで打ち落とした。大剣で対応できないものを速く緻密に動かせる片刃剣で迎え撃つ、バモットの導き出した答えはレストの攻め手をものの見事に踏破した。


「本命貰っとけよ!いい加減くたばれ!」


 焦りを感じながらもレストをひるまなかった。レストは尻尾にからめ持っていた十字槍を手で持ち中腰の姿勢で十字槍を構えると、全身の力をを一気に解き放つように、十字槍をバモット目がけ突きだし、風の魔法を伴った衝撃波を発生させた。ロッシの胸に大穴を空けたものと同等の一撃、レストが持てる力を総動員し放たれる至高の一撃、しかし戦いの中とぎ済まされていくバモットの戦士の勘はこの一撃にすら対応する。バモットは体の前で交差するように両片刃剣を振り抜き音速で迫る衝撃波を迎え撃った。本来ならこの戦いに決着をもたらすはずの一撃は著しく弱められ、バモットの顔に幾筋かの切り傷を付けるにとどまった。レストの背に冷たいものが走る。単純な死の恐怖とは違う、人知を超えたものを見た感じる戦慄にも似た恐怖だった。


「ったくよ……今のを防ぐかよ……」


「……まともに受けていれば、俺もただでは済まなかっただろうがな……」


 顔を血でにじませながらバモットが不気味に笑う、右の片刃剣を手放し、地面に落ちている大剣を蹴り上げ右手で掴むと、片刃剣と大剣の二刀で構えをとった。レストもバモットの傍らに落ちている斧を風の魔術で引き寄せ右手で指と指の間に挟み込むように二本とも掴んだ。


「さて改めて聞こう、お前は自分が勇者になれると本当に思っていたのか?本当はなれるはずがないと思っていたのではないか?」


「……」


 レストは思いを巡らせた、何度でも見る夢、魔王と相打った勇者が、倒すべき相手を越えるべき相手を同時に失った喪失感、苦悩、今までは思い返す度にやるせない気持ちになっていたそれら、絶望でしかなかったそれらをポニーテールの女の笑顔とともに思い返しながらレストはゆっくりと口を開いた。


「確かに……テルキオールは強かった、敵わないと思ったことも一度や二度じゃない、それでも俺はもう迷わない、どれだけ思い知らされても、消えちゃくれねえんだ……消えない思いを押さえつけて生きるくらいなら……死ぬ気で足掻くことにしたんだよ。それに、まるっきり叶わねえ願いってわけでもねえさ、俺はまだ生きてんだ、なるようになるさ」


 レストが穏やかだがゆるぎない口調でバモットに語りかける、レストは自嘲気味だがどこか楽しそうに微笑んでいたが、バモットは先ほどとは打って変わってどこか不快そうに視線を落とした。


「……そうか、どうやらとんだ見込違いだったようだな……まあいい、どのみちお前の新しい夢とやらもここで潰える、竜人の力とやらは長く使えるものではないのだろう?ところで、お前の体を覆う鱗も随分色あせたな?」


 再び残忍で好戦的な笑みを浮かべバモットはレストに言葉を投げかける、レストは答えなかったが、レストを覆う鱗はバモットの言った通り光彩を失い、発せられる光も少し前とは比べ物にならないほど弱弱しいものになっていた。


「……決着つけるか、防ぎ切ったらお前の勝ちだ、先手取ろうとしても無駄だぜ……この距離なら今すぐでも攻撃に移れる……こっからが正念場だ、お前くらい倒せなきゃ俺の今後が思いやられるっての、勝たせてもらうぜ」


「いい意気込みだが……なにせ相手は俺だ、俺はここでお前を倒し更なる戦いに臨むとしよう、さっきの男以外にもこの王都には荊兜はいるのだろう?好敵手には事欠かないだろう、心躍る!」


「俺を……荊兜をなめんじゃねえぜ!」


 ひと際大きな声で叫びレストは腕を後ろに振ると下手投げの形で斧を二本同時にバモットに投げつけた。二本の斧は地面を削りレストとバモットの互いが互いを視認できなくなるほどの砂塵を上げながらバモットに迫った。バモットは大剣で自分の急所を覆い隠しながら斧の接近を待ち構えたが、斧はバモット目がけ軌道を変えることはなく、砂塵を巻き上げながらバモットの両脇を通り過ぎた。


「っ!らあっ!」


土煙の中からレストが雷のごとき速さで十字槍を突きだす。土煙や空気を少しも揺らがせることのない奇襲、攻撃の予兆を全く感じさせない奇襲であったが、直線的なその攻撃はバモットには届かなかった。バモットは体を捻り迫りくる十字槍を回避すると十字槍を握る腕のその奥、土煙にかすむレストの体に狙いを定めた。


「存外下らない幕引きではあるが……随分と楽しませてもらった」


目を細めバモットは大剣をレスト目がけ振り下す、頭を割り砕く軌道、体を多少捻り躱そうとしたところで避けられない一撃にバモットは勝利を、ひいてはレストを殺したことを確信する。


「っ!馬鹿なっ!」


「……言っただろ……荊兜を……舐めるなってな……飾りじゃねえんだよ!」


 バモットは確かな手ごたえを感じていた、振り下された大剣は思い描いた通りにレストを捉え、しかしレストの頭より下には動かなかった。土煙の向こう、バモットは予想さえしなかったものを見る。未だに戦う意志とを保ったまま立ち続けるレストの姿、歯を食いしばり全身にありたけの力を込めかろうじて堪えている様相ではあったが大剣の一撃を淡く緑色に光る兜ひとつでうけとめているレストの姿だった、バモットの目が驚愕に見開かれる。


「ぐっ、兜に魔術付与っ!出来ぬ道理はないが、やってくれる!」


 バモットが唸り声を上げるとほぼ同時に周囲に立ち込めていた砂煙が突如に掻き消える。異常を察知したバモットが周囲に目を凝らすと、レストの背後に先ほど投擲され自分の脇を通り過ぎていった斧、未だ速度も回転も衰えぬまま再び主人の元に戻ろうとする斧を視認する。飛来する斧は確かにバモットの目には映っていた、しかしバモットには予想外の方法で大剣を防がれたという動揺があった、そのためレストの次撃への対応を何一つ間に合わせることが出来なかった。レストは背後から飛ぶ斧を後ろ手で握るとその勢いをそのまま乗せ逆手で斧を振り上げると同時に跳躍、バモットを斬りつけた。まともに受けたバモットの胸から肩にかけておびただしい量の血がほとばしる。


「ぐっ、がっ……」


 遅れてやってきた激痛を堪えながらバモットは頭上のレストを見た。即座の止血が必要なほどの深手、凡百の兵士なら失神するほどの深手だったが、バモットは意識を保ち続け、宙を舞うレストを突き貫こうと残りの力を振り絞り大剣を構えた。


「この程度で……俺に勝ったつもりか!」


「まさか、言っただろ!お前には絶対勝つってな!」


 着地を待たずレストは逆手に持ち替えた斧を順手に持ち替え、眼下のバモット目がけ振り下した。ただ重力に従うだけの攻撃だったならバモットの迎撃に撃ち落とされるだけだったが、斧に纏わった風を解き放ち、爆発的な加速とともに振り下されるレストの両斧をバモットは迎撃することも躱すことも出来なかった。爆風の追い風を受け急降下するレストはバモットを容赦なく切り裂いた。


「荊兜……飾りではなかったか……よくよく……俺は見誤る……」


 両肩を斧で引き裂かれ剣をにぎることさえできなくなったバモットは、苦悶の表情とともに地面に膝を付き、そのまま前のめりに倒れた。体のあちこちから血を流し、殆ど竜人化の解けた満身創痍の状態ではあったがレストは未だ立ち続けバモットを見下ろしていた。激闘がついに終わりを迎えた。


「……流石にもう動けねえだろ」


 バモットは力の抜けた、しかしどこか安心したような表情を浮かべ笑った。


「……与えられた任務を……ただ果たすだけの生だと思っていた……多少手こずることはあるにしても、最後には俺が勝つ、精々過程が楽しめればいいと……思っていたのだがな……まさか敗れるとはな……」


「おい、てめえには聞きてえことがいくらでもあるんだ。もうちょっと死ぬな、人生の締めに入ろうとしてんじゃねえよ」


「……死ぬつもりはないが……捕虜になるつもりもない……手を貸してくれミザク……」


「……これは予想外よ、といってもまだ挽回はいくらでもできるのだけど」


 レストは声のした方角、壁の大穴を見やった。ミザクが無表情で佇み、じっとレストを見つめていた。レストはすぐに十字槍を構えた、バモットと同格だろう相手と戦うだけの力はとうに尽きていたが、闘志は未だ盛っていた。


「バモット……貴方が負けるなんて……」


「ああ……初めて負けた……だがまだ生きている……」


「……まあいいのだけど……さて、レストだったかしら?私も万全とは言えないけれど、今の貴方を倒すくらいは出来るでしょうね、その証拠にほら、足は動かないでしょう?」


 レストは自分の足元を見た、先刻まではどこにも無かった水たまりが足元に広がっていた。異様を悟りすぐにその場から退避しようとしたものの、水たまりに浸された両足はその場から動くことは無かった。くるぶしほどの深さもない水たまりはまるで泥沼のようにレストの両足を捉え離さなかった。


「っ!随分狡すっからい小技使う魔術師だな!」


「こちらには貴方に聞きたい事、何もないから……さっさと死んで」


 ミザクが三叉槍の先端をレストに向ける、先端から胡桃ほどの大きさの水球が生じ、瞬く間に砲弾ほどの大きさに膨れ上がった。内部で電光がちりちりとほとばしるその水球をミザクはレスト目がけ解き放った。速さこそさほどではなかったが足を完全に固定されているレストに避ける手段は無かった。無意味と知りつつもレストは顔を腕で覆い目を閉じた。


「レストさん!どうにか間に合ったっ!おりゃっ!」


 腕と腕の向こう今まさに水球が迫りくる空間にレストは人の気配を感じ取った。鎖の音と桶の水を一気にこぼしたような水音の後、レストが恐る恐る目を開くと、レストとミザクの間に男が立っていた。鎖鎌を持った少年と青年の間くらいの男はレストの無事を確認するとにこやかにレストに笑いかけた。


「カナン……か?」


「話は後!どうすんだ根暗そうな姉ちゃん?ちょこっと聞こえたけど万全じゃあないんだよな?女の人をいたぶる趣味はないもんでね、引いてくれねえかな?」


「王弟カナン、北の都にいるはずのあなたがここにいるということは援軍がもう王都についているということ、全く予想外のことが多いわ……そうね、貴方の言う通り私も大分くたびれてる……ジマ、来て」


 目を伏しながらミザクが呟くと階下から黒いローブの人物、王城前でミルアーグと戦っていた黒い翼を羽ばたかせながら姿を現し、バモットのすぐそばに着地した、ぎくしゃくした動きをしながらも。敵意を誇示するように不気味に唸り声を上げ、顔をレストの方へ向けた。


「ギルウウウッ!」


「……撤退ね、ここは私もバモットも命をかける場所じゃない、なのにバモットは無駄にやられて、自業自得としか言いようがない」


「……全くだ、返す言葉もない」


 バモットのそばまで歩き寄ったミザクに、ジマの肩を借りながら無理矢理に立ち上がったバモットが言う。バモットらにもはや戦う意志はなく、それはレストたちにも見て取れた。ミザクが撤退を指示するようジマに目配せすると、冥途の土産と言わんばかりにバモットがレストたちを睨み狂笑とともに口を開いた。


「ぐっ、短い平和は堪能したか?今日から再び魔王軍は人類滅亡に向け活動を開始する!もう勇者はいない!貴様らは無惨に縊り殺されるのを待つだけだ!そしてレスト・コールフロント!今日の敗北は忘れん!お前だけは俺が殺す!」


 レストのみでなく、城門付近で戦うミルアーグら、ひいては王都に住まう全ての人々に向け告げるように、バモットは大声で叫んだ。叫んだ後、ジマの翼がバモットらの姿を覆い隠すように閉じられ、一瞬後に羽根が内側から弾けるように一気に飛散した時には中にいたはずの3人の姿は消え失せていた。


「魔人じみたのも入れると三人……捨て身でかかって来られてたら不味かったですね……無理に仕留めにかからなくて正解……ということにしてください」


「いやお前の判断は間違っちゃいねえよ、よくやってくれた……しかし最後まで……やかましいヤツだった……次会うときはもっとやかましくなってそうだな……」


 言い終わらぬうちにレストは尻餅をつくように地面に腰を下ろし、長く息を吐いた。今さら痛みを感じだした体のあちこちをさすりながら、生き残ったことへの実感を深める。


「……それにしてもお前はどうして来た?里帰りの時期でもねえだろうに?」


「……レストさんの砦から俺の砦に使いが来てね、王都が危険だから戦力を派遣してくれって、半信半疑だったけど、ロッケンさん?って人は嘘をついてるようには見えなかったから、ひとまず俺とすぐ動ける奴らだけで来たんすよ、ロッケンさんて人の采配がよかったのか北方砦の兵に死人はいないみたいですよ、大した人ですね」


「……そうか……あいつら無事か……全員やられちまったとばかり……」


 安堵した表情を浮かべレストは額に手をやる。気づけば王都の方角から聞こえていた破壊音も消え、今回の騒乱は一応の鎮静を迎えた様子だった。一方で王都を見つめるカナンの表情は暗かった。整った顔立ちが怒りで歪み、野犬や狼を思わせる凶暴なものに変わっていた。


「……王都がここまで破壊されるなんて……俺がもう少し早くついていたら……先の大戦でさえここまで攻め込まれたことは無かったのに!」


「……」


 怒りをあらわに両こぶしを強く握りしめるカナンをレストは見上げる、カナンの憤りは正しいものだとレスト自身も感じていた、しかし、とレストは心で唱え口を開いた。


「犠牲はあったけどよ……今だけは守れたものを噛みしめようぜ……まだ戦いは続くんだ、俺達の戦いはな」


「……はい……」


 レストは被ったままの兜に手を伸ばした。バモットの一撃は兜を変形させていたが、まだ被ることは可能な程度には形状を保っていた。しかしもう一度攻撃を受け止められるのか、被る者の体を守ることは出来るのか。それは誰にもわからなかった。レストは夕日が照らす王都を眺めながら、ゆらゆらと立ち上がり、下で戦っていた仲間と合流するため歩き出した。


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