レスト対バモット
まだ戦いは続きます。
(久しぶりの竜人化、でも体調は悪くねえ、間違いなく制限時間はあんだろうけど、しばらくは大丈夫だろうな)
レストは人間離れした速度で走り続けた、屋根から屋根へ飛び移りながら、途中途中で破壊と殺戮の痕跡を目撃し、そのたび怒りを滾らせながら、ひたすらに王城へと向かった。ロッシとの戦闘による負傷・疲労は殆どレストの体には残っていなかった。竜人化の効用の一つではあったが、竜人化の最中でなければ効き目の無い身体機能の活性であることはレストもよく知っていた。一瞬でも早くこの騒乱の大本を絶つ、その思いを胸にレストはついに王城前に至った。無惨に破壊された王城門がレストの目に映る。
「くそっ!狙いは王様かよ!」
レストは屋根から飛び降り、門をくぐり王城の敷地内に足を踏み入れた。踏み入れると同時に、門の横の石壁に鎧姿の人間が衝突し、がらがらと大音をたて石壁の一部を完全に瓦礫の山に変えた。レストは即座に瓦礫の山に視線を送った。鎧をまとった兵であろうと昏倒は免れない、打ち所が悪ければ即死するほどの勢いでの衝突だったが、瓦礫の下の人物は未だ戦う意志があることを示すように、勢いよく甲冑に包まれた腕を山から突き出した。
「いったぁ……中々すばしっこいですね、力も相当です……ですが王城内には絶対に入れません!貴方はここで阻止します!」
肉厚の甲冑を身に着けたマーゴットが自身の身長ほどもあるハルバートを支えにしながら瓦礫の山から立ち上がる。鎧の隙間から伸びた灰色の大きな羽を引き摺りながら歩き、上空を見上げた。
「おい、お前は……マーゴットか?敵はここにいるので全部か?中に入った奴はいるのか?」
「外敵粉砕!一意専心!飛べ私!勝利だ私!ここが勝負の分水嶺!行きますよー!」
「話聞けよ!」
翼を広げ、力強く扇ぎ、砲弾のように勢いよくマーゴットは王城庭園の上空に浮かぶ黒い影目がけ飛び立った。直線的だが高速度で飛ぶマーゴットは、数秒のうちにハルバートの射程に黒い影を捉え、ハルバートを振りかぶった。
「いいね、そうこなくっちゃ!殴りがいがあるよ!」
「はああああああっ!」
マーゴットの勢いを乗せたハルバートの一撃を黒い影は自身の背の丈に匹敵する大きさのハンマーの一撃で迎え撃った、一瞬の交錯の後、ミルアーグは空中で黒い影と空中で対峙する。
「あれも魔物か……?いやあれは魔物というより……」
レストは目を凝らし黒い影を観察し、その全容を把握する。簡素な皮鎧の隙間から覗く黒い鱗、両こめかみから生えた折れ曲がった角、蝙蝠のものとよく似た黒く巨大な翼、不敵な面構えをより強いものにしている赤い瞳、体の各位に竜を思わせる特徴のあるその銀髪の少女の姿は、あたかも竜人化した荊兜の騎士そのものだった。
「いやー、しこたま殴った後でもあんな動きが出来るなんておねーさんは随分頑丈だね」
「これも奇跡の賜物です、聖典の奇跡、私には過ぎた力です……あと何がおねーさんですか、ふざけないで下さい、第一貴方と私はそんなに年の差はないはずです!」
「いやーどうかな、私のがだいぶ年下だと思うんだけどな、まあ……いいか、おねーさんの名前教えてよ、僕はサーガ」
「貴方のようなこの王都の平和を脅かす輩に名乗る名前はありません。なるほどサーガさんとおっしゃるのですね、貴方の牢にはその名前の札を下げさせます、情報提供感謝です」
「もー、おねーさんは真面目だな」
不機嫌そうに頬を膨らませたサーガはそのまま不意打ち気味に口から赤々と燃える火の粉の嵐を吹いた。マーゴットはすぐさま真上に飛び、火の粉を回避するが火の粉は熱を保ったまま庭園に降り注いだ。火の粉が一片ふれただけで、木々は一瞬で燃え上がり、庭園は瞬く間に火の海と化した。
「あっは、よく避けたね、でもおねーさんじゃ僕には勝てないと思うよ、竜人の力と聖人の力の両方使えるみたいだけどどっちもそこまででもないんじゃないの!器用貧乏さんなんだねえ!ハハっ!」
「言ってなさい、王都守備隊を舐めない方がいいですよ、はあっ!」
マーゴットの急降下からの一撃を皮切りに、重武器のぶつけ合いが始まった。次第に速度と威力を増しながら、時には滑空からの一撃離脱を織り交ぜながらも二人は戦闘は続き、その舞台を次第に王城上空から市街地上空へ移していった。
(あの女はマーゴットに任せるか……それにしても……あいつも……似ていやがる)
燃える庭園の間をかけながらレストは竜人化したテルキオールの姿を思い出していた。黒い大きな翼にねじれた角、そして体を覆う黒い竜鱗、サーガと名乗る少女とテルキオールの姿の近似にレストは眉をしかめた。
「灰の竜……これも……偶然じゃねえんだろうな……」
呟き終えるころ、レストは王城入口に差しかかり、その破壊の痕跡を目の当たりにし足を止めた。勇壮な石造りの装飾のほどこされた王城入口も今ではあちこちが抉られ砕かれ普段の様相を保ってはいなかった。レストは内向きに倒された扉に見つめ、すでに侵入したものがいることを悟った。唇をかみしめ、走り出そうとしたレストの目に王城入口に陣取る額から角を生やした貴族服の女の姿とその女目がけ疾走する黒いローブの男の姿が映った。
「貴方ごときにっ!いつまでも構ってはいられないんですわ!倒れなさいっ!」
「ギッ!ギィィィッ!」
ミルアーグが苛立った様子で両手に持ったハンドベルを振り下す。ベルの音が鳴り渡り、黒いローブの男が真上から不可視の鉄槌に殴りつけられたかのようにがくんと体勢を崩し、片膝立ちになる。
「頑丈さが取り柄の様ですけど、体の中を直接揺さぶられて無事でいられまして!」
倒れた黒いローブの男に駆け寄りは両手のハンドベルを振りかぶり、左右から男の頭を挟み込むように殴打する。周囲にベルの音が鳴り渡り黒いローブの男の動きがぴたりと止まった。ベルの残響が鳴り終わるころ。男の周囲で空気が弾けるような快音とともに黒いローブの男は大きくのけぞり身を震わせ崩れ落ちた。
(随分と思い切りが良くなったというか……攻撃的になったというか……イケる戦いかたするようになったもんだぜ)
レストはミルアーグを見やった、服装こそ昨日王城で会った時と同じだったが、身体のあちこちの竜人化の特徴が表れていた。額から伸びる太い一本角、首元や袖口から覗く赤銅色の鱗、先端部分がささくれ立った鋭利な鱗で覆われた尻尾、そして所作・振る舞い・表情全てが戦士のそれで、もはや文官としての雰囲気はどこにもなかった。
「あら貴方、その姿……昨日女々しく王城を逃げ出したチンピラにも、多少は意地があったのかしら?」
レストに気付いたミルアーグが口に手を当て、意地悪気にくつくつと笑いながら言う。レストは感情をフラットに保ち、ミルアーグに打倒された黒いローブの男に警戒しながらミルアーグに駆け寄った。
「まあ、な……その男の同類をさっき蹴散らしてきたばっかだ、今は四の五の言ってる場合じゃねんだろ、俺に戦わせろ、中に大剣の男と三叉槍の女が入っていったんじゃねえのか?俺の砦を襲った奴らだ、お前が昨日言った今この世界で最高峰の剣技の持ち主なんだぜ、いいのか?」
覚悟を込めた瞳でレストはミルアーグを睨んだ。ミルアーグも目を細め、レストを睨み返す。
「……どうやら少しはマシになったようですわね、貴方の言う通りその二人が侵入していきましたわ、こちらの片が付いたことですし侵入した賊を追いますわよ、城内にはワッティがいるとはいえ王に万が一があっては王国兵士の名折れですわ」
「意気込みは立派だけどなそいつはまだ終わってねえ、効いてねえわけじゃねえだろうけどよ、致命傷にはほど遠いぜ、見ろよっ!」
レストは地面に倒れる黒いローブの男に向かい駆け、勢いよく十字槍を突き出した。咄嗟の行動ながら手加減のない、ともすればその体を両断してしまいかねないほど一突きだったが、男の周囲を覆うように瞬時に生えた無数の巨木がレストの十字槍を遮った。
「ギッ、ギギッ、ギルゥゥゥ……」
巨木の突然の発生から間髪入れず巨木の囲いの中から、烏の翼のような黒い羽根を生やし、黒いローブの男が飛び出した。ローブに土埃にまみれていたものの、ミルアーグの攻撃のダメージを感じさせない様子で翼をはためかせ、巨木の少し上、ミルアーグ達の遥か上に浮かび続けた。
「死に真似なんて、魔物とはいえ姑息ですわね!しかし、あの翼に樹木を操る魔術……どこかで……」
ミルアーグがいぶかしげな表情でベルを構え、黒いローブの男を注視する。レストはミルアーグと黒いローブの男を交互に見つめ、意を決したように巨木から槍を引き抜き、そのまま王城内目がけ走りだした。
「ミルアーグ!ここはお前に任せる!お前なら時間はかかってもまあ勝てるだろ、俺が中の奴を仕留める」
「なっ、レスト!待ちなさい!」
黒いローブの男をから視線を外さないまま、ミルアーグが少し慌てたように叫ぶも、レストは足を止めず、王城内へ駆け抜けていった。倒せない相手ではない、しかし一対一で相手をするには厄介な相手をミルアーグに押し付け、一人因縁の相手と決着をつけるため行った、ミルアーグにはそれが許せなかった、なまじ戦略として一理あるだけに真っ向から批判できないことがミルアーグの怒りを加速させていた。
「貴方は本当にっ!ああ、もうっ!」
巨木から急速に伸びる無数の蔓を鐘から発せられる衝撃波で薙ぎ払いながらミルアーグは悪態をついた。遠ざかるレストの足音を聞きながら、ミルアーグは黒いローブの男にレストに向けるはずだった怒りを向け、ベルを構えなおした。
「……ふっ、それほど多くの武具を使いこなすとは並大抵の修練では成し遂げられないだろう、お前も荊兜の一員か?」
「まあ一応ね……君らが急に来るもんだから全然準備できなかったけどね……そっちも相当だ、大剣の二刀使いなんて勇者君以来だ……」
王城内、王の間へ続く長い廊下、銀髪を逆立てた男がターバンの男に語りかける。お互いに致命傷という致命傷はないが、高揚した様子で両手に大剣を握りしめる銀髪の男に対し、疲弊した様子で湾曲した刃のナイフを一本だけ持つターバンの男、勝負の趨勢は明らかだった。二人の周囲に散らばる大型バトルアックス、長柄鎌、鉈、手槍はターバンの男の武器だったがどれも一部および全体が破壊され、まともに振るうことは出来なくなっていた。
「少し変則的ではあるが剣技のみで俺をここまで苦戦させるとはな、やはり王都ともなれば質のいい戦士がいる、あのレストという奴よりも楽しめた……まだ生きているようだが、どうだろうな、まだ俺を楽しませてくれるだろうか」
「なるほどね、君がレスト君をコテンパンにしたやつか、図らずとも彼は君の期待に応えるだろうね……彼はまた君の前に立ちはだかる、前よりもずっと強いはずだよ」
額の汗を拭いながらワッティはバモットに言い放ち、腰を深く落とした体勢で湾曲ナイフを構える。苦境を意識しながらも、ワッティの闘志はいささかも衰えてはいなかった。無数の武器を使いこなし予測不能の攻め手で仕留める、ワッティの得意とする戦術は実行不能に陥っていたが、ナイフ一本でも戦い方を模索し、最善を実行しようとしていた。
「それは楽しみだが、お前もまだ全てを出し尽くしてはいないだろう、お前との戦いもまだまだ楽しめそうだ……これは俺の勘だが、お前は胴体を両断されて死ぬだろうな、中身を汚らしくまき散らし息絶える、そんな惨たらしい死に方を遂げる気がしてならない」
不敵な笑みを浮かべ、大剣を握った両腕を大きく広げる。兵士が数人横並びになって歩けるほどの広さの廊下がバモットと二本の大剣で遮られる。おおよそ剣技を修めたものがとるとは思えない奇怪な構えだったが、ワッティはその構えから致命傷を狙える一撃が繰り出されることを知っていた。ワッティはバモットの一撃を防ぎ切断された長柄鎌を思い出しながら静かに慎重にバモットににじり寄った。笑みを浮かべワッティの次の一手を待ち構えるバモットとひたすら緊張した面持ちで迫るワッティ、死闘の第二幕が始まる、その時だった。
「……盛り上がってるみたいだけど横槍が入りそうよ。誰かがこちらに近づいてる、ロッシでもジマでもない、かなりの速度……」
バモットの後方から、ミザクが目を閉じたまま語りかける。一触即発の状況にあったバモットとワッティもミザクの方を見やった。
「……何、二つに別れた、違う……これは……攻撃!」
目を開いたミザクがワッティ達のいる方とは反対側の廊下の奥に掌を向けた。日の光がかすかに差し込むだけの薄暗い廊下の奥から高速回転する斧が飛び出しミザクに急接近する。
「っ!巻き起これ烈風!」
ミザクは詠唱を口にしながら掌を前から横に薙ぎ掌の軌道沿いに突風を発生させた。ミザクの発生させた突風は斧の勢いを少しも弱めはしなかったが、斧の軌道を逸らす事には成功した。突風の軌道に乗った斧はその場の誰にも命中することなく廊下の石壁に激突し、轟音と共に壁に大穴を開けた。
「何……風の付加された投げ斧……まさか!」
「……っ!」
斧に次いで廊下の奥からレストが飛び出す。駆けながら視界にバモットを捉えたレストは人間離れした脚力で左右の壁を蹴り渡り加速を得るとその勢いのままミザクの脇をすり抜けバモットに十字槍を突きだした。直後、激しい金属音が廊下に響きわたる。
「来たか!今しがたお前の話をしていたところだ!その姿!この一撃!いや予想以上だ!お前との闘争を楽しみにしていたぞレスト・コールフロント!」
「テメエの幸せなんざ知るか!」
レストの十字槍と風の衝撃波はバモットの大剣で受け止められたが、衝撃波は大剣で分散されながらもバモットに吹き寄せ、バモットの顔や腕を切り裂いた。奇襲の失敗を悟るとレストはすぐに後ずさりバモットと距離を取った。
「本当にいいタイミングで来る……どうやら加勢はいらなそうだね」
「ワッティさん……こいつは俺が倒します!ワッティさんは王様のところに!」
安心した様子のワッティにレストが力強く叫ぶ、レストの叫びを聞いたワッティは目を細め微笑み、レストたちに背を向け王の間へ走りさった。
「ミザク!お前はサーガの援護へ行け!サーガの相手をしている奴を倒した後、二人で王の間に攻め入れ!この男の相手は俺がする!」
「……あなたが負けるとは思わないけど……精々油断して足元をすくわれないようにね」
表情を変えに言い終えるとミザクもレストたちに背を向け、レストが走ってきた方向、王城入口に向け銀髪をなびかせながら走り出した。廊下にはレストとバモットの二人だけが残された。
「いいのかよ、二人でかかってきてもよかったんだぜ?」
「ミザクは魔力の殆どをあの忌々しい結界を解くために使い切った、それでも並みの魔術師以上だがお前の相手にするには不足だろう?何よりお前とは一対一で決着をつけたい!今度こそ確実に息の根を止めてやる」
バモットが両腕を広げた構えから大剣を交差させるようにレストに振り下す、レストは十字槍を手放し尻尾でからめ持つと、風を纏わせた斧を瞬時に手元に引き寄せ、それらで左右から迫る大剣を迎え撃った。激音とともにバモットの大剣がレストの斧に叩きつけられたがレストは腕を少し曲げた状態で両方の大剣を受け止めた。歯を食いしばり、全身を震わせながらもレストはバモットの大剣を押しのけ続けた。
「大した力だが、そんな斧で俺の剣を抑え続けられるとでも?」
「ぐっ、そんな事……欠片も思っちゃいねえよっ!」
「何だとっ!ぐあっ!」
鍔迫り合いを続けながらレストは少し頭を引きバモットの顔面に頭突きを見舞った。牽制もしくは陽動になればいいと放たれた頭突きはバモットの鼻先に激しく衝突しバモットの視界と大剣を押し込む力を一瞬完全に奪うことに成功した。この一撃より出来た隙をレストは見逃さなかった。鍔迫り合いを続けていた両斧を大剣からかわすと一息で頭の上まで斧を振り上げバモットの肩を狙う軌道で両斧を振り下した。
「ぐっ、調子に乗るな!」
レストの奇襲に文字通り面食らいながらもバモットは冷静にレストのこの攻撃に対応した。全身から一気に力を抜き、大剣に引かれるように体を急速に深く落としレストの斧を回避すると、少し怒りを露わにした表情で右腕の大剣を荒々しく振り上げた。廊下の床をたやすく抉り切り裂きながら大剣はレストに瞬時に肉薄する。
「馬鹿力が仇だ!そらぁ!」
レストは下から迫る大剣を交差させた両斧で受けた。竜人の腕力を以てすれば受け止められる一撃、しかしレストはあえてこの一撃を受け止めず、振り上げられる大剣に身を委ね、そのままバモットの頭上まで飛び上がった。
「いいぞ!もっと俺を楽しませろ!」
「遅え!」
バモットが真上に向け左の大剣の突きを放つが、右の大剣の一閃に乗りバモットの後方の空中へまで至っていたレストには掠りもしなかった。バモットの攻め手が時切れたこの時、レストはためらわず、間断なく動いた。宙を舞うレストは着地を待たず、逆さまの体勢のまま無防備なバモットの背中目がけ斧を放り投げた。バモットにはその二本を防ぐ手段も躱す手段も残されていなかった。
「ぐあっ!……これがお前の本領……荊兜の騎士の真の力か!」
弧を描き飛んだ斧はバモットの背を鎧ごと切り裂き、レストが体を反転させ地面に着地するころレストの手元に戻った。バモットは背中から血を流しながらレストに向き直った。決して浅くはない傷を負いながらもバモットはどこか嬉しそうに舌舐めずりをし、レストを睨んだ。
「これほどの傷を負わされたのは生まれて初めてだ……この昂揚感、やはり戦いが俺の全てだ……お前も気に入った、お前には死んだ後もどうにかして俺の相手をさせるとしよう、何、方法はいくらでもある」
「そんぐらいの傷も負わされたことがねえってか、腕の割に随分薄っぺらな人生だな、テメエにアイツを重ねて本気でビビってた俺が馬鹿みてえだぜ……」
恍惚とした口調で語るバモットにレストが吐き捨てるように言い返し、長い溜息を吐いた。バモットが怪訝そうな表情でレストを見つめる。見つめ返すレストの目に映るのは戦いがもたらす快楽に酔う凶暴な一人の男、その姿だけだった。
「……アイツはどれだけ傷つきながらも絶対に戦うのを止めなかった、だからアイツは……」
「はっ、余裕があるのか!俺にかすり傷を負わせた程度で!勝ったつもりか!レスト・コールフロント!」
バモットは肩に担ぐように右の大剣を構えそのままレストに投げつけた、レストの斧とは比べ物にならない大きさの大剣が回転し、空気を裂く音とともにレストに急接近する。
(やっぱコイツは強え……竜人化してようやく互角ってとこか……けど今は!)
レストは殆ど這うような姿勢になり飛来する大剣を躱した。大剣はレストの頭上を通り過ぎ、廊下の壁に衝突し、いともたやすく石で出来た壁を砕き大穴を空ける。バモットの攻撃は止まらなかった、バモットは手元の大剣を両手で持ち、袈裟懸けにレストに振り下した。レストはその場で右足を軸に体を一回転させ紙一重で大剣をやり過ごすと、回転の勢いのまま両手の斧を横振りにバモットへ叩き付けた。レストの斧がバモットの体に触れる刹那、バモットの大剣が遮り、二つの武器が激しくぶつかり合った。
「荊兜の騎士団!勇者になれなかった半端者たちの寄合いだと思っていたが……さっきの男にしろお前にしろ、中々粒ぞろいではないか!」
「そりゃどうも……お前みたいに戦うため戦ってるみたいなやつも騎士団に何人かいたけどよ……大戦中にみんな死んじまったよ、腕は確かだったんだけどな、お前も長生きできねえだろうな」
「お前の言う通りかもしれないな、俺も近い将来戦いの中死ぬのだろう……だがそれは今日ではない!俺の死に場所はここではない!まだまだ足りん!」
レストの斧を大剣で受けたバモットが力任せに斧を薙ぎ払う、レストもひるまずに再びバモットに振りかぶり、バモットがそれを大剣で受けその反動で大剣を振るい、レストがその身を捻り躱す。近距離での苛烈な打合いは速度を増しながら続いた。手数こそレストの方が多かったがバモットは一本の大剣を駆使しレストの攻撃を受け、攻撃の切れ目に広範囲に及ぶ大剣の一撃を見舞う、互いに一歩も引かない応酬はバモットが後ずさり、レストとの距離を空けるまで続いた。
「場所を変えさせてもらうぞ、俺の剣を存分に振るうにはここは狭すぎる!」
バモットは大剣を横に振りかぶり、石壁に叩き付けるとそのまま振り切った。大剣こそレストには到底届かなかったが、この一撃で同時に発生した石壁の破片がレストに迫った。レストは瞬時に斧を十字槍に持ち替え破片を弾き防ぐも、その隙にバモットは大剣の投擲で空いた壁の大穴へ至っていた、挑発するような表情を浮かべバモットは壁の大穴をくぐった。




