勇者不完全②-13
コツコツ頑張ります。
「くっ!」
「ぐううううっ、ああっ!」
レストの槍がサーガの右肩を貫き、サーガの拳がレストの鎧の胸部を貫いた。息の詰まったような呻き声を上げながらもレストは未だ健在だった。サーガほどの強度ではないとはいえ竜鱗に覆われたレストの体はサーガの一撃を致命傷から防いでいた。サーガも致命傷ではないものの、槍が体の反対側まで突き抜けるほどの一撃に体を縮こまらせていた。
サーガから戦う意志は少しも消え去ってはいなかったものの、生まれて初めての深手がもたらした不快な喪失感と痛みが闘志を曇らせ、ひたすらに凶暴なサーガをして身を守る行動をさせていた。
「惚けやがって、まだ終わってねえぞ!」
落下しながらレストは素早く斧を投擲した。サーガは斧が投げられてからもしばらくその場から動かなかった。視界に入っていても認識できていないかのようだった。やがて目前まで迫った斧に気付くと奥歯を噛みしめながら翼を羽ばたかせ回避行動をとった。しかし躱しきるにはいささか遅く、サーガの頬に一筋の傷がつけられた。
空中で回転し体勢を立て直し、レストは荒々しく着地しサーガを見上げた。手ごたえはあった、弱みも知れた、腕力と飛行能力は厄介だが今しがた負わせた傷で互角以上までは持ってこれたと、そう信じていた。事実サーガの肩から流れる血は夥しく、一向に止まる気配は無かった。
「酷いよお兄さんは……痛い、本当に痛くてたまんないよ」
「そんなに痛いなら逃げてもいいぜ?これからもっと痛え目に合わせるつもりだしな」
「大人げないなあ、恥ずかしくないの?」
「ガキしつけるのも大人の役目だ、骨が折れるのなんのって」
レストは戻ってきた斧を掴むとサーガに向け構えた。レストが受けた怪我はサーガのものとは比べようもないほど軽かったがレストに油断は無かった。負傷の無い左腕を主にした戦闘が始まる、そのはずだった。
「でもいい経験が出来たよ、初めてだよあんなの……傷がふさがるまでこんなにかかるなんて思わなかったよ」
そう言うとサーガは刺し貫かれた肩を軽く叩いた。流れ出る血の量は明らかに減ってはいたが虚勢を張っているとレストはすぐに思った。しかしサーガは右肩を軽く回すと、レストに向かって急降下を開始した。速いが直線的なサーガの突進をレストは躱し、サーガの右こぶしが地面に叩き付けられた。瞬間、地震のような震動がレストの体に伝播した、見るとサーガが拳を叩き付けた地面は爆ぜ、レストがすっぽり入れるほどの大穴が穿たれていた。それは槍で貫かれた腕でおよそ発生させるこの出来ない威力だった。レストは巻き上げられていた土や石くれの雨を身に受けながら一つの解を得た、それはこの戦いの中生じた違和感への解だった。
「ははっ、僕はもう万全だよ、驚いた?」
「いや、ようやく分かった、あのいけすかねえデカブツがテルキオールの聖釘の奇跡を使えんだな?テメエの傷の治りの早さで確信だ」
「正解正解、荊兜だった人は荊兜の人は知ってるかあ、疲れ知らずのケガ知らず!いつでも全力全開で戦えるって最高だよ!」
高揚した様子のサーガとは対照的にレストは無言で極めて冷静にサーガを仕留める方法に思い巡らせていた。再生の及ぶ余地のない一撃必殺、つまり首を切り飛ばす、心臓を突き破る、などがまず思い浮かんだ。しかしそれが容易く行えることではないことはこれまでの戦闘でいやというほど理解出来ていた、そもそも聖釘の奇跡の身体活性と竜人本来の高い生命力とを併せて一撃必殺さえも耐えきってしまう可能性もあった。
「言ってろ、どんな厄介な相手でもやりようはあんだよ、まあ見てな、っと!」
レストは下手投げで斧を放つと、サーガに背を向け砦門の方角へ向かって走り出した。斧が打ち落とされただろう音が聞こえたが振り返らず走った。サーガに上空を振り回されている最中にふと視界に入った、聖職風の大男の姿のあった場所を目指した。
「オーギュを先にやるつもり?させないよ!逃げる人を叩き潰すのは好きなんだよ、頑張って逃げてねお兄さん!」
サーガは再び上空に舞い上がると、一陣の風とでも呼ぶべき早さで駆けるレストを追った。サーガの高揚はこれまでにないほど高まっていたがかすかにレストに対する憐れみも生じさせていた。仮にオーギュロープを倒し奇跡を解除したにしても、残るのは疲弊しきったレストと治癒能力こそないが万全の状態のサーガ、おおよそレストに勝ち目のない状況は変わらないはずだった。得物の勢いがいいのは結構なことだが、意味もないのに必死に抗うレストはサーガにとって不可解であり、今まで殺してきた人間と同様に哀れな存在でしかなかった。
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