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勇者不完全  作者: まきびし
12/22

勇者不完全②-4

 その日、東方砦付近は雲一つない快晴だった。太陽の光が分け隔てなく地上の一切に降り注ぎ一帯は猛暑となった。砦の兵士達でさえ音を上げる暑さはしかし、大森林の中を進むレスト達には無関係のものだった。緑の葉の生い茂った巨大な木々は陽光を散らし和らげ森の中には直接届かせることはなく、加えて大森林の中には小川が多くあったことから、気温は一定以上になることは無かった。


「……あんまりそればっか見てると危ないわよ、ほらそこ、木の根っこの影が水たまりになってる」


「……見えてんだなこれが、よっと」


 額の汗を拭いながらレストは水たまりをひらりと躱す。大森林の中は涼しげとはいえ長時間歩き通しでレストの体にも疲労が蓄積されつつあった。手に持つ羅針盤の指し示す先を歩き続けるだけシンプルな散策ではあったが未だ終わりは見えずにいた。


 最初のころは大自然の織り成す風景に興奮しレストに仕切りに話しかけてきていたノーシアもどこまでも続く緑に飽きたのかめっきり無口になっていた。


「……そういえばフォークランドさんってどういう人なの?」


「何考えてんのかイマイチよくわからねえ野郎だったけどな、イイ奴じゃねえのは間違いねえ、学者系の魔術師で研究以外は知ったこっちゃねえって野郎だ、今も多分そのまんまだ」


 そう言うとレストは不意に足を止めた。レストの少し前の茂みががさがさと動き、中から子犬ほどの大きさの巨大なバッタが姿を現した。バッタはレストたちを意に介さない様子でレストたちの前を横切り、そのまま反対側の茂みの中に消えた。レストは再び歩き出した、もう五回は同じような虫に遭遇していた。


「学者さんねえ、ってことは殆ど前線には出なかったってこと?」


「いや他の団員と同じくらい前線には出てた、アイツにとっちゃ実験と研究材料の補充みたいなもんだったんだろうけどな、まあまあの戦果上げてたぜ」


「へーすごい人なのね、前線で活躍できる魔術師って動ける魔術師かソーウッドさんくらいの魔術師でないと使い物にならないと思ってたのに」


「まあ、アイツは竜人化もあっての……おい、聞こえるか?」


 レストが振り返り背中から斧を抜き放つ。ふと足元を見ると、小石が不規則な震動でカタカタとかすかに跳ねていた。


「虫ってことはないの?」


 願望を口にしながらノーシアも武器を抜き放ち身構えた、しかし既に森の奥に虫では持ちえない敵意を持った何者かの存在を感じ取っていた。無数の足音も聞こえ出し、それらはレストたちが目視できる距離まで近づいていた。


「もう見える距離にいるぜ、見慣れたバケモノだ!」


「っ!蹄の魔物!六頭も!」


 レストが両斧を勢いよく森の奥に投擲する、その方角にいたのは馬と人間を無理矢理繋げたような魔物だった。上半身が人間、下半身が馬の半人半馬のその魔物の目は真っ赤に血走り、鋭い牙がむき出しになった口からは理性の不在を証明するようにだらしなく涎が垂れていた。


 風切り音とともに先頭を走る蹄の魔物の頭部と脇腹をレストの斧が抉り飛ばす、致命傷となる傷を二カ所に受けしかし魔物は疾走を止めなかった。斧が戻ってくるより先に蹄の魔物に肉薄されることを悟り、レストは十字槍を構えた。


「ツイテないわね!でもこれで先ず一頭!」


 直後、ノーシアの小手から放たれた熱線が同じく先頭を走る蹄の魔物の胸部を貫いた。蹄の魔物は口から血を吐くと、疾走の勢いのまま転倒し地面を何度か転がった後二度と立ち上がることは無かった。


 一頭の撃墜、しかし蹄の魔物の一団は突進の勢いを緩めることは無かった。鎌槍を構えた残り五頭の突進はレストたちのすぐそばまで迫っていた。レストとノーシアはそれぞれ逆方向に前転し、蹄の魔物の一団の突進を回避した。先ほどまでレストとノーシアがいた場所を無数の蹄が地面を爆ぜ散らしながら通り過ぎていった。


「レスト!全部走り去っちゃいない!二頭残った!」


 ノーシアの言葉を背に受けながら振り返ったレストが見たのは、前足を高く上げ、鎌槍をレストに突き立てようと振りかぶった蹄の魔物の姿だった。レストは瞬時に迫る鎌槍に横から十字槍の柄を叩き付け鎌槍の軌道を逸らした。鎌槍は振り下され、振動とともに地面に大穴を空けるも、レストには傷を負わせることは無かった。この時、蹄の魔物に生じた大きな隙をレストは見逃さなかった。


 レストは魔物目がけ十字槍の一撃を繰り出した。十字槍は穂先が胴体を貫通するほど深く蹄の魔物に突き刺さった。しかし大量の血液を傷口から流しながらも魔物は決して膝をつかなかった。蹄の魔物は口の端から血泡を吹きながら鎌槍を再び構えた。その構えは致命傷を全く感じさせないほど力強いものだった。


「中々頑張るじゃねえか、だが時間切れだ、帰って来たぞ」


 短く持った鎌槍を振るおうとする蹄の魔物の背にレストの斧が突き刺さる。魔物がくぐもったうめき声を上げるが、内蔵の大部分を引き裂いた槍の一撃すら耐えた魔物を殺しきるにはいささか足りない攻撃だった、急所をとらえていた訳でもなかった。


 しかしレストの狙いは別にあった。レストは鎌槍を掴み蹄の魔物の手から奪い取ると、そばの木に突き立て、それを起点に魔物の頭よりも高く飛びあがった。高さを獲得したレストは蹄の魔物の体高から今まで届かなかった頭部を射程に納めた。自らの頭部に向かい振り下ろされる十字槍の刃を視界にしながらも蹄の魔物の目から狂気じみた輝きはついぞ消えることはなかった。レストの十字槍が魔物の頭部を切断し、蹄の魔物は力なく崩れ落ちた。


「チッ、無駄に手間取っちまった、ノーシア!そっちはどうだ!」


 レストは槍を袈裟懸けにふるい、槍についた血をはじきとばした。走り去った三頭が再び突撃してくるまでに、残った魔物を片付ける必要があった。レストはノーシアの方まで駆け出したがすぐに速度を緩めた、決着は既についていた。


「蹄の魔物は頑丈じゃないからわざわざ足を狙うことなんて無かったんだけどさ、防具で覆ってない馬の足なんて脆い脆い」


 呻きながら地面にひれ伏す蹄の魔物の首を切り落としながらノーシアが答える。ノーシアが相手取った蹄の魔物は足を重点的に焼かれ、立ち上がるどころか動かすこともできないように見えるほど破壊しつくされていた。膝をつけば当然頭も下がる、ノーシアはそこを狙い魔物を仕留めた。


「上々だな、残りの三頭を迎え撃つぜ」


「あたしに任せてくんない?残りをまとめてやっちゃう方法思いついた」


 血しぶきがかすかに飛んだ顔に好戦的な笑みを浮かべながら、ノーシアが手甲を打ち鳴らした。一度は走り去った蹄の魔物たちの足音も再び近づきつつあった。レストは黙って頷いた。


「よっし任された、じゃあちょっとした後始末だけお願いね」


 ノーシアは蹄の魔物の一団の中心に向かって走り出した。蹄の魔物たちもノーシアに気づき、鎌槍をノーシアへ構え速度を速めた、両者の距離は瞬く間に互いの武器が届く距離まで縮まった。魔物たちが振るう鎌槍をきりもみ回転を加えた飛び込み前転でこれを回避する。魔物たちは気付かない、ノーシアの手甲が赤い紋様を浮かべていたことを。


「ぶつ切りになりな!穿て、瞬炎!」


ノーシアは魔物の一団にすれ違いざまに熱線を放った。本来は一直線に飛んだ熱線が敵を貫くだけの魔術だったが魔物の一団の中で回転しながら放たれたことで攻撃範囲は格段に広められていた。結果、蹄の魔物の体は幾筋もの不規則な軌道で焼き切られ、突進の勢いをそのまま残した肉塊として地面にばらまかれた。湿った無数の落下音がレストの耳にも響いた。


「一頭こぼした!とどめをお願い!」


「いや、止めはいらねえ・・・・・・なんだこりゃ、運の悪い野郎だな」


 レストは大小入り交じった肉片のばらまかれた先、赤紫のキノコの群生地帯にうつぶせで倒れる蹄の魔物を見た。その一頭はノーシアの言う通り致命傷は負っていなかった、しかし白目をむき体を痙攣させるだけで意識が全く無く、やがて痙攣すら止んだ。


「ああ、そのキノコはこの密林の固有種でね、生き物の内臓の機能を過剰に増幅させる・・・・・・一欠片体内に入るだけでその魔物のように内臓を消耗し尽くし死に絶える、随分騒々しいね君たちは」


「その声は?お前フォークランドか?どこだ?」


 レストは声の出所は探ろうと辺りを探ったが見渡す木々の間には人影は無かった。


「君は、昔どこかであったことがあったかな?もう少し顔を近くで見せてくれるかな?」


「ん?えっ?もしかして貴方が?えっ、そうなの?」


 少し上擦った調子で声を上げるノーシアの方をレストは見た。ノーシアの指さす巨木の左には、魔物と見間違うほどの異形の存在がいた。レストの目に映ったのは巨木に巻き付く巨大な蛇の尾だった、そしてその尻尾の先にはてらてらと輝く鱗で体のあちこちを覆われた人間の胴体があった。無造作に伸びた頭髪と陰のある目尻の下がった瞳は不気味なものだったが、その存在は確かに人間だった、レスト自身が何よりもそれを知っていた。


「・・・・・・よおフォークランド、久しぶりだな、調子はどうだ?」


「レスト?ああそういえば君はそういう名前だったか、確かに久しぶりだね、近頃はだいぶいい、雨の竜との適合が高すぎて体が半ば竜になったときはどうなるかと思ったけれど、慣れれば悪くないね」


 長く細い舌をちろちろと出しながら、フォークランドが体をくゆらす。野生動物じみた所作にたじろぐノーシアを尻目にレストはフォークランドに歩み寄った。


「ちょっとばかし時間を割いちゃくれねえか?お前にも損はないはずだ」


「なんだか知らないけどいいよ、とりあえず僕の住まいまで行こうか、そこそこ歩くことになるけどね、そこの彼女?顔色がすぐれないようだけど疲れているのかな?僕に乗っていくかい?少し滑るが中々の乗り心地だそうだよ」


「い、いやー、私歩くのが、好きなんで、大丈夫ですよ」


 引きつった笑顔でノーシアは申し出を断った。レストはぼんやりとノーシアは蛇が苦手だったことを思いだしながら、まさしく蛇の様に胴体を波立たせながら移動するフォークランドの後を追った。



読んでくれてありがとうございました、今後はもう少しペース上げて投降するので次回もどうかよろしくお願いします。

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