時空勇者ダメ、絶対!!
サイダー
「顎なんて外れないさ。第一、外れる顎なんて持ち合わせて無いからな! えーと……何処迄 話したっけな?」
ガッシャーン
「宇宙交番の事迄は聞いたぞ」
サイダー
「おお、そうだったな。──宇宙刑事は〈天の川銀河宇宙警察署〉を中心にして、〈島宇宙間〉を担当しているんだが……〈時空勇者〉は違うんだ」
ガッシャーン
「何が違うんだ?」
サイダー
「宇宙刑事とは担当している範囲の規模が〝 月と鼈〟並みに……いや、それ以上に違うんだ」
ガッシャーン
「そうなのか?」
サイダー
「ああ、〈時空勇者〉の管轄は──〈第三宇宙背景放射〉内部なんだ」
ガッシャーン
「ん? 〈第三宇宙背景放射〉内部……は?」
サイダー
「〈時空勇者〉の役目は、宇宙刑事とは役目が違っていてだな、大宇宙の秩序を守る為に存在しているんだ。それ故に〈時空勇者〉の活動範囲はとてつもないんだ。何せ〈第三宇宙背景放射〉内部の総てを、たったの二人で大宇宙の秩序を守らないといけないんだ」
ガッシャーン
「……たったの 二人で? ……おぃおぃ、〈時空勇者〉っていうのは沢山 居るんじゃないのか?」
サイダー
「これが居ないんだ。〈時空勇者〉は〈第三宇宙背景放射〉内部に男女 一名ずつの 二人しか存在しないんだ。これは何処の〈第三宇宙背景放射〉内部でも同じ事らしいんだ」
ガッシャーン
「……そ、そうなのか?」
サイダー
「〈時空勇者〉っていうのは誰もがなれるものじゃないんだ。ソーダは〈時空勇者〉に憧れているみたいだが、憧れているだけじゃあ、なれやしない」
ガッシャーン
「ほぅ? そりゃ、どうしてだ?」
サイダー
「うむ。〈神民〉と呼ばれる種族が、大宇宙の何処かに存在している〈神界〉と呼ばれる世界にいるらしいんだ」
ガッシャーン
「『 らしい 』って言うのが何とも頼りないなぁ」
サイダー
「〈神民〉を実際に見た事が有る者は少ないからな……。実際の目撃者の証言だと〈神民〉は全身が透けていて半透明らしい。酸素の存在しない真空の大宇宙空間でも生きられる存在なんだ。其処ら辺は俺達も同じだな」
ガッシャーン
「──で、〈時空勇者〉には〈神民〉が関係してるって事か?」
サイダー
「ああ、実は大いに関係しているんだ。〈神民〉は〈神界〉内部で働く内回り担当と〈神界〉外部で働く外回り担当と役割が 二つに分かれているそうなんだ。〈神界〉外部で働く外回り担当の〈神民〉が〈神の遣い〉と呼ばれている」
ガッシャーン
「〈神の遣い〉だと? ──聞いた事がないんだが……」
サイダー
「そりゃそうさ。宇宙刑事になってから新人研修先で教わる事だからな。知ってるのは宇宙刑事関係者だけだと思うが……」
ガッシャーン
「何はともあれ、〈神界〉だの〈神民〉だの〈神の遣い〉に関する情報は不明な点が多そうだな」
サイダー
「そうなんだ。新人研修先で教わる内容は現時点で判明されている事だけだからな。だからと言って何も知らないよりは、少ない知識でも知っている方が、意外な時に助けとなるものさ」
ガッシャーン
「そうかもな。それで? 〈時空勇者〉と〈神の遣い〉の関係ってのは?」
サイダー
「そうだったな。いゃあ、いかんな。ついつい脱線してしまって。ハハハハハッ!」
ガッシャーン
「慣れてるよ、そんなのは」
サイダー
「〈神の遣い〉から選ばれた者だけが〈時空勇者〉になれるんだ。〈神の遣い〉から選ばれる理由は俺達にも判らない。〈神の遣い〉から〈祝福〉を与えられると〈時空勇者〉となれるそうだ」
ガッシャーン
「へぇ。確かにそれなら憧れてるだけじゃあ、〈時空勇者〉にはなれないよな。因にソーダちゃんは知ってるのか?」
サイダー
「ん、あぁ……そりゃ、知ってるさ。ソーダもタンサンも新人研修を終えた宇宙刑事見習いだからな」
ガッシャーン
「そうかい。ソーダちゃん、〈神の遣い〉に会えるといいな……」
サイダー
「宝くじに当たる確率よりも低いけどな!」
ガッシャーン
「……何だ? ソーダちゃんが〈神の遣い〉と出会うのが嫌なのか? 過保護だなぁ」
サイダー
「過保護で何が悪い! 〈時空勇者〉になったら、俺達はもう家族では居られなくなるんだぞ! 〝 宇宙の秩序を守る 〟って事はだ、〈宇宙大自然の大いなるエネルギーの根元〉──〈SG〉に『与えられた天寿を全うする迄、人生を捧げる』という事なんだぞ! 〈時空勇者〉に自由は許されない。好き勝手には動けないんだ!! 宇宙の秩序を守る為、〈神の遣い〉から与えられた任務をひたすら果たすだけの日々……。〈SG〉の〈神力〉で寿命だって長命になる。〈時空勇者〉に任命されたら最後……解任される迄、普通の生活には戻れないんだ! ……〈第三宇宙背景放射〉内部の秩序は何が何でも守らなければならない最優先事項なんだ。その使命に身も心も命も……〈SG〉に捧げて〈第三宇宙背景放射〉内部を飛び回る〈時空勇者〉に誰がなって欲しいと思うんだ? 可愛い妹が〈時空勇者〉に任命されるなんて、そんな仕打ちに俺は耐えられたない!! 憧れるのはタダだ。穴が空く迄、好きなだけ憧れればいい。許せるのは其処迄だ。両親だって、二度とソーダに会えなくなったら悲しむに決まっている……」
ガッシャーン
「他の奴がなるのは構わないが、ソーダちゃんには何が何でもなって欲しくないってか? ……それもそうかもな。ソーダちゃんと会えなくなるんなら、オレも〈時空勇者〉にはなって欲しくないかもな」
サイダ「ん、そうか? ガッシャーンとは気が合うなぁ! 嬉しいぞ(ハァト)」
ガッシャーン
「いや……『ハァト』は気持ち悪いから止めてくれな?」