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愛の理由  作者: 桜井雛乃
出会い
8/46

出会い 弐

「教えよ。自分が何を恐れている様に見えるか。お主の眼に自分はどの様に映るのか、教えよ」

 彼は不安げにしていたが、それを悟られまいとはしているように思える。

 でも感情を隠すのが下手すぎる。そんな不器用さがあるから、人との係わりを彼は恐れているのだろうね。

「教えよと言っておろう!」

 私がどう答えようか迷っていると、弁慶は私の両肩を握り怒鳴るように問い掛けてきた。

「……痛いっ。痛いです」

 彼の大きな手で強く握られた肩は、そのまま握り潰されてしまいそうなほどに痛かった。

 小さく悲鳴を上げる私に、彼は慌てて手を放してくれる。

「痛かったか、悪い。自分が恐れている等と言った人は、そんな言葉を掛けられた事は、初めてだから」

 どこが悪党なものか。

 手を放してくれたところや、悪いとすぐに言ってくれたところ。そこを見れば、悪とは言えないんじゃないだろうか。

 悪いことをすぐに悪いと言える人が、悪なんてことはないと私は思う。

「苦労なさったのでしょうね。寂しいのでしょう? 怖いのでしょう? いつか救ってくれる人が訪れるのを、待っているのでしょう? 貴殿が求めるような人に、私はなれません。悔しいけれど、私にそんな力はありませんから」

 周りで見ている人たちは、悪党とこのように話をしている私を、どう思っているのだろうか。

 それが少し不安にも思えたけれど、その気持ち以上に私は彼のことが心配だったのだ。

 彼はきっと弱い人だ。この先も理解されない日々が続き、その中で苦悩し孤独に苛まれていくのであろう。

 そんな彼が、私は心配だった。

 見張りがいるからこの場では言えないけれど、私の気持ちが届けばいいと思う。

 私が旗揚げをしたときには、私が彼を救う力を手にしたそのときには、きっと私はここに迎えに来るだろう。

 しかしそれは、そのときまで彼が私を待っていた場合のみだ。

 「待っていて」と口にすることさえできないなんて、もどかしいよ。私はどうしたらいいんだろうか。

 どうしたらこの気持ちを、彼へ届けることができるのだろうか。

「有難う。お主の言葉を信じ、愚かな者が現れるのを此処で待つとしよう。あと少しで終わるだろうけれど、な」

 意味深な言葉を残し、彼は私に離れるよう促した。

 突き放されてしまったようで少し寂しかったけれど、それだって彼の優しさのせいだって私はわかっている。

 私のためにしてくれたことなんだって、私はそう思うんだ。

 だからこそ彼と離れたくないと思った。離れたくなんてなかった。

「もう帰れと怒られてしまいました。肩も痛いし、やはり恐ろしい方です。でも本当にお強いのでしょうね。仲間にできればかなりの力となるのではありませんかね」

 連れてきてくれた見張りの元へと戻り、私は私の方からそう言った。

 先手を打っておかなければ、立場が危うくなってしまうことくらいわかっているからね。

 彼に悪いと思いはするんだけど、私が生き延びるためにはこう言うしかなかったんだ。ごめんね。

 代わりに殺されはしないように、仲間にしてはと言っておいたから。余計なお世話かもしれないけれど、それで許してほしい。

 でもあの男が仲間になってくれたら、どれほどの力になってくれることか。

 ご機嫌取りくらいしかできない私のこの状況も、彼がいたら変えられるのだろうか。覆すこともできるのだろうか。

 淡い期待を悪党と呼ばれる寂しげな男へと向け、私は歩いた。

「お前らしくないんじゃないのか? 怖がって近寄れもしないかと思ったわ」

 私を臆病者と嘲笑っているつもりなのだろうが、自分でもそう思っていたので、対等な立場にあったとしても何も言えなかっただろう。

 怖がって近寄ることさえできない。私自身もそんなものだろうと思っていたさ。

 遠くから眺めて、それで終わりだろうと思っていたさ。

 それでも吸い込まれそうなほどに黒く、寂しそうな彼の瞳を見たら、そのつもりがなくても傍まで行ってしまったんだ。

「怖かった、怖かったけれど今しかないと思ったんです。あのままでは、彼はきっと間違った道へと進んでしまいます。純粋な方だと思うから、それは避けさせてあげたかったのです」

 帰ってから彼のことについて聞かれたとき、私は勇気を出してそう答えた。

 大勢の男に囲まれながらも、顔色を窺うだけではなく私は自分の意見をそう告げてみせた。

 ひどく臆病だった私も、彼と会話をして少しだけ変わったような気がする。少しだけど、変われたような気がする。

 彼に相応しいくらい立派な男に、いつか私はならないといけない。

 自分でそう思うと、それだけでなんだか強くなれたような気がしたんだ。

 それに急がないと彼は壊れてしまうと思うから。


 だけど変だよ。

 私は彼に対して憧れという感情を抱いていた。

 強い彼に憧れていたんだ。強い彼を欲していたんだ。

 それだけのはずだったのに、私は彼に別の想いも寄せているような気がして。

 私はやっとわかった。答えを知ることができた。

 それは愛しい人との、


 ――出会い。

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