強くなりたい 弐
源氏の運命は私に懸かっているんだ。源家は、私が守らなければならないんだ。
改めて父上にそう言われ、私はその意識が強くなった。
父上や兄上たちはもう殺されているだろうが、弟たちならば生かされているかもしれない。私を生かしているくらいなんだから。
しかし私よりも幼い弟たちにまで、このようなことをしているのだろうか。
それとも私くらいの年齢がちょうどよく、私にのみ狙いを定めたということなのだろうか。
兄上はもう男らしい身体つきだし、弟はまだ幼すぎる、と。
不運だったと思うべきか、幸運だったと思うべきか。
ここで関わっていられるのならば、最も情報を得ることができている可能性も、源氏の復活を企てることができる可能性も高い。
つまり、本格的に私が源氏の棟梁となる可能性が上がるわけだ。
ただここでの辱めや苦痛は本当に辛いもので、これならば死んだ方が良いと思えることもある。
これからの自分に希望や不安を抱いていたが、いつの間にか私は再び眠りについていた。
意外にも待遇は良く、私は気持ちの良い布団に寝かして貰っていた。
いつまでも眠っていられるような心地だったが、空腹には耐えられず、私は目を覚ました。
日がもう高くまで昇っているから、正確にはわからないけれど昼くらいなのではないだろうか。
丸一日以上、もう何も食べていないことになる。
「腹が減った」
ため息とともに声が零れるけれど、料理が運ばれてきたりということはない。
「そうか。腹が減ったのか」
驚きながら声が聞こえた方を見ると、そこには一人の男が座っていた。
物思いに耽っていたせいか、その存在には全く気が付かなかった。
立ち上がってその男は一度去り、少しすると戻ってきた。料理の代わりに数人の男を引き連れて――。
そこまで自信はないけれど、昨日とは違う人なんじゃないかと思う。
ということは、やはり私に狙いを定めたということなのか。
兄弟の中でも私だけが選ばれた、私を選んだということなのか。
「生意気に俺らと同じ飯を喰おうと思っているんじゃないだろうな。お前はこれでもしゃぶってろ」
一人の男がそう言うと、私の口に大きなモノが挿し込まれた。
力いっぱいかんでやろうとも思ったけれど、そんなことをしたら私はどうされてしまうのか想像もできない。
今は気持ち良くさせていろんな情報を吐かせて、旗挙げに絶好の機会を待とう。
自分にそう言い聞かせて、滑らかに優しく舌で舐めてあげた。
吐き出された液も、むせることもなくすべて飲み込んだ。
「昨日とずいぶん違うじゃないか。おとなしく俺らのお人形さんになるって決めたのか?」
「武士の子だとかほざいてたくせに」
何を言われたとしても、私は聞き入れないようにした。
なんとか我慢をして気持ち良くしてあげられれば、私は気に入ってもらえるはず。気に入ってもらえれば、殴られることもない。少しくらいは優しくしてもらえるはず。
そう信じて私は我慢をした。
「……あっ、あぁっ」
私は武士の男だ。なんて、そんな思いは捨て去った。
やれと言われれば素直にうなずいたし、恥ずかしいことだって進んでやった。できるだけ興奮させるように、いっぱい啼いたしいっぱい泣いた。
大変なだけではなくて、私だって気持ち良くもなった。
いい子にしていたら普通の食事だって食べさせてくれたし、時には剣の稽古だってつけてくれた。
半年もすれば夜の関係にも慣れたし、敵対心もあまり抱かず幸せな生活を送りつつあった。
そうなってしまうといつも、私はお守りを握った。父上が私にくれた、小さいけれどとても美しい水晶玉を。
すると誇りや闘志が奮い起こされるようで、私はまたやる気が出てくるのだ。
源氏の運命は私に懸かっているんだ。私が源氏を背負って立つ男、源頼朝なんだ、と。
「あなたは本当に可愛らしい人だね。でもわかるよ。ここであなたを殺さなければ、いずれあなたは平家の脅威となる。ただ、それもまた楽しみに思える。頑張れ」
私の躰を犯し、気に入らないことがあれば暴力暴力。
どうやら私は憤りや苛立ちを発散するための道具のようで、ほとんどがそんな扱いばかりだった。
私のこと自体を悪く思っている、なんて感じはしないからそういう馬鹿の方が簡単に吐いてくれていいんだけど。
中には、そんなことを言ってきたような人がいた。
優しくしてくれるけれど、私の核心を突くような厄介な人だった。
そして彼は意図的に情報を私に与えているように思えた。
「何を望むのですか? 私に何をさせようとしておられるのか、さっぱりわけがわかりません」
一度そう問ってみたのだが、彼はただ優しく微笑むだけだった。
さまざまな人を知り、さまざまな経験をし、私は源氏の身でありながら、平家に守られながら成長した。
私の知らないうちに、平家の勢力は相当大きくなっていたらしい。
何年か経つと、私は外出をも許されるようになった。
平家にあらずんば人にあらず、なんて。
私にもっと力があれば。
――強くなりたい。