強くなりたい 源頼朝
私の父上は、とても強くて素敵な人だった。
そんな父上に憧れて、私は十三の時に初陣を果たした。
「どこ、どこにいるの? どこなのですか? 父上」
私の初陣は、完膚なきまでの負け戦だった。
逃げている途中に陣からはぐれてしまったようで、私は森の中で一人彷徨っていた。しがみついているこの馬も疲れている様子だし、私だって疲れている。
眠気にも襲われて、馬を走らせることさえもままならない状態だった。
もっと遠くへ逃げないといけない。
見つかったら捕まる。捕まったら殺される。
そうは思っているけれど、遂に私は眠りへと落ちてしまった。
眠ってしまったことに気が付き、私は目を開く。
そこはもう森の中ではなかった。
戸惑いながらも起き上がると、私の部屋よりもいくらか立派な部屋であった。
森に倒れていた私を見つけ、だれかが匿ってくれているってわけではなさそうだ。
「お目覚めですか? 源氏のお坊ちゃん」
どうにか逃げ出せないかと私は部屋を出ようとしたけれど、大人の男たちが道を阻んで部屋を出ることも叶わなかった。
意地悪く笑った男の一人は、そう言って私の頬を撫でた。
「源氏の大将の息子が、ひ弱そうじゃないか。それに、女のように綺麗な顔をしている」
今度は別の男が、耳元で気持ち悪くそう言って、そのまま息を吹き掛けてきた。
身震いする。
私は危険を感じて逃げ出そうとしたけれど、男たちを薙ぎ倒していく以外に、この部屋から逃げ出す手段はなかった。
一か八か下を潜って逃げ出そうと試してみたが、そんなことができるわけがなく、呆気なく捕まってしまった。
私よりずっと大きな体を持つ男たちは、抵抗する私を嗤っていた。
それが悔しかったから、抵抗することを諦めて逆に大人しくなってやった。
どうせ私が何をしたところで、逃げ出すことなどできない。時を待とう、と。
「細くて肌も白い。予想以上にいいモンかもしれないな」
そんな声が聞こえてくると、私は服を剥ぎ取られていた。
何をするというのだろうか。
殺さないでおいてくれるのだろうか。
裸の私をその場に寝かせると、一人の男が私の上に跨った。
その時になって、私はやっと彼らが何をしようとしているのかに気が付いた。
「ひゃっ」
目の前の男の恐怖に気を取られていると、太ももを撫でられるような感触がし、私は情けない声を上げてしまった。
このような声を聞いて、彼らは気分を良くするのだろう。
それだったら、声を殺してせめてもの抵抗としよう。
「なんだ? その眼は。啼けよ、もっと啼けよ!」
どんなに躰を弄ばれても、私は唇をかみしめて耐えていた。
するとその態度に気分を害したらしく、私に跨るその男が、怒鳴りつけると思い切り私の頬を叩いた。
痛い。恥ずかしい。
私は立派な武士の子であるはずなのに、どうしてこのような辱めを受けなければならないのだろうか。
「強がったって、こっちはもっと正直なようだぞ」
きつく局部を握られて、私は痛みに涙が零れる。下半身でも液体が流れ出していて、私はもう死にたいとも思った。
父上の志のために、弟たちのために、源家のために、私は生き延びなければならない。
どのようなことをしてでも、命だけは損ねないようにしよう。
そうは思いたいんだけど、私はどうしても耐えることができなかった。
「私は武士の子にございます! こ、このようっ」
男たちの視線に怯みながらも、私は勇気を振り絞って、死さえも覚悟して反対を唱えようとした。
しかしその思いが届くことなど当然なく、最後まで言葉を綴ることさえできなかった。
再び頬を叩いたのだ。
何か気に入らない態度をとれば、跨るこの男が私の頬を叩くということなのだろう。
少しの手加減もないそれには、もう二度と叩かれたくなんてない、と思わせる力や威圧も含まれていた。
「源家を守るんじゃなかったんですか? お坊ちゃん」
まるで抵抗している私を楽しんでいるようにも見える。
どうすればいいのだろうか。
この男たちに媚を売り玩具になることしか、私に生き延びる道はないのだろうか。
武士としての誇りをとるか。それとも、命をとるか。
どちらをとったとしても、この男たちを笑わせてしまう。何か、私に何かできることはないのだろうか。
「随分と余裕があるようだな。何を考えることもできないほど、楽しませてやろうじゃないか」
遠くそんな言葉が聞こえてくると、下半身への刺激が急に激しくなる。
喘ぐ声を止めることもできず、どんどん気持ち良くなっていってしまった。
焦点も合わず汚らしく涎をたらし、もう何をしても武士の誇りを語ることなど私にはできないと思った。
だから私は気持ち良くなるまま、微睡みへと落ちていった。
「頼朝、源家を守ってくれ。源氏の運命はお前に懸かっている」
その夜、目が覚めた私。その枕元には父上が立っていた。
「父上、逝かないで下さい。私はまだ半人前にございます。父上がいないと、駄目なのでございます」
声は届かず父上は微笑むのみ。淡い姿は闇へ溶けていった。