表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ハマナスの独白

作者: 高光亜季

言いたいことがある。伝えたいことがある。だけど私は何一つ言葉にしたことがない。

私の言いたいことは、誰かを傷つける。

傷つくのは私かもしれないし、伝えたいあなたかもしれないし、全く関係のない誰かかもしれない。

そうやって考えてると、話すということが恐ろしくて仕方ない。

決して消えないもの。

無かった事に出来ないこと。

話すって、それだと思う。吐き出した言葉は消せない。忘れてしまうと言うけれど、きいた人の心に、言われた人の脆いトコロに、確実に入り込んで中途半端な形を保ち続けるでしょう。

私の言った何気ない一言が誰かを傷つけたり、赤の他人が誰かに言った言葉に私が傷つく時だってあるでしょう。

無自覚な悪意。理由なき悪事。

タチの悪いものだ。

悪意ある行動。理解した上での暴言。

これだって悪いもの。

他人の考えるマナーとか礼儀を無視して天秤にかけてみれば、きっと同等の重さだ。


私は言いたいことがある。

だけど言いたいことは、痛いこと。

私はそれを言葉にして、苦しいと藻掻くだろう。

言いたいことを伝えた人は、やめて、悲しいって頭を抱えるかもしれない。


だから私は言えない。


家族にだって、友達だって。

古くからの知人だって。関わりない人にだって。

例えネット越しの名前さえ分からない人にだって言えない。


私じゃない誰かが、私の言いたいことを知ってしまったら、何故か呼吸が止まる。

それは単純だけど重い恐怖なのかもしれない。


何年でも、何十年でも、言いたいことを心の奥に、喉の奥に仕舞い込んでいます。

余りに重たいそれが、時間を掛けて痺れを伝えるのです。

心の奥から苦い何かがじわりと滲み、それはやがて息苦しさとなって胸や喉を蝕み、ついに舌の根に鈍い痛みとなって蔓延してしまった。

痺れが体の中を支配してしまえば、残るは重たいなにかと、音にしたい言葉だけ。

痛くて苦しくて、消えてしまいたくなるけれど、それでもわたしは言えないの。

声がなくなってしまえと願う。

唇を噛み締める。私の知ってる、考えた痛みを思い出せと握った手に力を籠めるのだ。

頭の奥まで痺れが伝わり、それでも私は言えないのだ。

耐えきれなくなったら、私は発狂するかもしれない。


ただ、私の言いたいことを言葉にすればいいだけなのに。

たったそれだけが出来ずに、痛みや苦しみに藻掻く私を、人は愚かだと言うだろうか。

何故我慢する必要があると問うだろうか。

愚かで間抜けで、そして思慮深い私は、恐ろしくてたまらない。


話すということが。

言葉にして私の言いたいこと伝えることが。

言うことで誰かが傷つくと知っていて、言った言葉が消えないと分かっていて、それに気付き、畏れた私は相手に言うことが出来ない。


ならば口を閉じておけと人は言うだろうか。


口を閉じていようが、まるで私の生み出した言葉とは思えないほどに、それは重く苦く痛い何かを纏い、私のなかを這いずり回る。

自分が可愛い私はだから何度も伝えてしまいたいと思うのだ。



それでも私は、言えないのです。





ハマナス 花言葉は、悲しくそして美しく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ