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日の出とともにある俺

 幼馴染の優子が今日眠るように息を引き取った。

 死因はすい臓がんだった。

 最後は痛み止めのモルヒネを点滴されていて意識が混濁していたが、浮腫んだ手を握っているとグッと俺の手を握り返してくれた。そしてそのまま力が抜けて二度と俺の手を握ってはくれなかった。

 寂しいといえば寂しいが、優子のことを思い出せば幸せな気持ちになれたし、ぼっちでも常に隣には優子がいてくれると信じているからね。


 最後に交わした言葉は何だったかな。

 私の分まで長生きして欲しいだったか。

 それとも好い人見つけて結婚して子供と一緒に幸せになって欲しいだったか。

 体の調子が良い時は面会時間いっぱいまでずっと喋っていたので覚えていない。

 好い人見つけてって約束は未だに果たせないが、長生きはしているつもりだ。

 変な世界に飛ばされて虎とも追いかけっこした。


 とら……トラ……虎?




 急に目が覚めた。

 辺りはまだ暗い。どれぐらい寝ていたんだろうか。

 周囲にはまだ焦げ臭ささとハッカの臭いが漂っている。俺の体もハッカ臭い。汗臭さも多分に混じっているが。

 虫の鳴き声が喧しく響き渡っている。特に危険が近づいているってことはなさそうだ。

 月明かりが差し込んできているのでなんとなく見渡せる。

 虎の死骸が黒く横たわっている。


 ――どうなってるか様子を見に行くか。


 少し寝たからか元気を取り戻したので様子を窺い、可能であれば山頂近くにある砦に行き立て篭もるつもりだ。


 ――兵糧もなさそうだから撤退してるかもしれないし。


 猪は昼行性なはずなので夜はあまり活動していと思われる。なので、ここまで来た道のりを逆に伝っていっても猪に襲われる確率は低そうだ。


 足元が暗いので少し危ないが灯りを持つと、見張りがいたらすぐに見つかってしまうため慎重に歩いて行く。月明かりが差し込まない所では枯れ枝に火を灯し、手で覆いながらなるべく光を漏らさないようにする。


 猪の巣に差し掛かっても猪の気配はしない。多分、兵士達との格闘があったと思うが地面に残った跡を見るほどの光量はないので素通りしていく。

 トラバサミを仕掛けた場所も罠ごと無くなっている。


 家の近所まできたがここまでは見張りもいない。途中で運良く猿飛人形1体だけを見つけた。武器は無く、片腕ももげていて木には登れないが歩くことはできるようだ。


 畑の外れまできた。ここから家までは約300m。

 畑の植物は全て刈り取られ、掘り起こされている。


 ――苦労したのに。もうここを拠点とすることは出来ないのかも。


 刈り取られたことで見晴しが良くなり燃え落ちた家の跡も見える。

 そこには人が残っているようで焚火が確認できた。


 ――腹が立ってきたぞ! 食べるなら対価を払ってから食べてほしい。それが出来ないなら……食い物の恨みを思い知れ!



 家の近くまで来るが警戒は緩んでいる。全員で30人程度か? 殆どは寝ていて見張りも1人しかいない。身動(みじろ)ぎせずに立っているが寝てるんじゃなかろうか。


 猿飛人形に潜入させ鍋を持ってこさせる。近くの川で水を汲み、俺の祝福の微生物学者マイクロバイオロジストの真言を唱える。


 自粛中だったが解禁しよう。濁った川で解析した時に判明した真正細菌を鍋の中の水に飽和するまで増殖させる。

 猿飛人形に焚火の側までもう一度潜入させ棒で鍋を叩かせる。

 兵士達が飛び起き、人形を捕まえようと近づいてくる。

 至近にきたら鍋の水をひっくり返し焚火の火を消す。


 ――よしっ! 成功だ!


 俺はゆっくりとその場を離れ、山を登っていく。

 この分だと山側には見張りもいなさそうだ。

 転ばないように足元に気をつけながら歩く。時々振り向きながら追手がいないか確認するが家のほうで騒がしく音が聞こえるだけでこちらに近づいてくる気配はない。


 ――猿飛人形は捕まって壊されただろうな。


 これも計画の内。あの水にはレジオネラ菌をたっぷりと仕込んでおいた。焚火を消した時に発生するエアゾルにより飛散し、近づいてきた兵士達の肺に到達する。

 2〜3日後には熱がでたり咳がでて寝込むだろうね。

 少し昔、サウナ風呂で感染者が出てたはずだ。たしかヒトヒト感染はしないってニュースでは言ってたっけな。

 少し苦しむがよい。

 俺の安全と財産を奪ったんだから俺が仕返ししてもバチは当たらんだろ?


 空が白んできた。このまま砦に辿りつけば安全は確保出来るだろう。

 そして周辺を調べてまた開拓できるところを探せばいい。


 山の中腹で登ってきた朝日を見ながらそう思った。

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