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呼びかける俺

 外から呼びかける声がする。


「ラタール教第2教区の司教アジーズ・サーダット・ムハン様の使者だ! 開門せよ!」


 家の中で新たな人形を量産している時に声が聞こえた。

 家に辿り着いてから5日目だ。

 追手がいると思うと出歩く気にならなかった。それに食料はゆとりがあるので外は巡視する程度しか歩いていなかったし、人形の研究もしていたので、気づくのが遅くなったようだ。


 俺は扉の隙間から覗いてみる。

 小太りな騎士が1人それと兵士が50人ぐらい?

 道に整列しているので奥が見づらい。道からそれると攻撃されるのを学習しているようだ。

 小太りな騎士が隊の先頭で従者に馬の轡を抑えられつつ叫んでいる。


「ラタール教第2教区の司教アジーズ・サーダット・ムハン様の使者だ! 開門せよ!」


 俺が反応しないので呼びかけを繰り返される。


「何用だ!」

 埒が明かないので答える。


「容疑人シンゴ。貴様の取調べを行う。出てくるように」


 そんな呼びかけでホイホイ出て行く奴がいるのかね。逃げてる泥棒に「待て!」と呼びかけるようなもんだろう。俺は泥棒じゃないが。


「何の容疑だ。俺には用事はない。帰っていただこう」

「司教様に歯向かうつもりか?」

「歯向かうも何も、容疑とやらの説明をしていただこう」

「貴様なんぞに説明する必要は無い。出てこないようであれば考えがあるぞ」


 何も考えてなさそうな使者の口上だ。地味にイラッとする。この世界はこんな奴らばっかりなのだろうか。それとも俺がぼっちの僻みでそう聞こえるのだろうか。少しは仲良くしようと考える奴はいないのか。

 それにしてももう少し上手いやり方があるだろうに。騙して出てきたところを捕らえるとか考えられないのかな。


「説明がないのであればお引取りいただこう。帰るときには道から外れないことをお勧めする」

「貴様! 教会に楯突くとはいい度胸だな。司教様がお呼びなのだぞ」

「楯突いてはないし、用があれば聞く。それを怠っているのはそちらだ」

「おのれ! 成敗してくれるわ」


 立ち去る音がすると遠くから声が聞こえ矢が降ってきた。慌てて身を隠すとザッザッザッと揃った足音が聞こえてきた。


 ……なんて直情的なおっさんですこと。


 弓人形に反撃するように合図をだす。

 教兵は塀を囲むように押し寄せてくるようだ。外の様子は塀に囲まれていて良くわからない。


 銃眼でも作れば良かったな。


 現状は扉の隙間から覗くほかない。

 なんと俺一人に100人近い兵隊を引き連れてきたようだ。

 教兵が横列に組み押し寄せてくるが、一人またひとりと弓人形に射抜かれて欠けていく。

 そして、落とし穴に嵌まり抜け出せない兵もそこかしこに出てきた。

 門に至る道の両際からゲリラ人形が吹き矢で狙う。ただ、即効性はないので射られてもすぐに動けなくなるわけではない。


 門に辿り着いた兵隊は門番として配している鉄人2体に叩きのめされている。

 鉄人には金棒を持たせているので当たったら痛そうだ。まあ、当たり所が悪ければ致命傷になる恐れもあるが……

 それでも潜り抜けた兵隊たちが塀をよじ登ろうとしていたり、門を叩き壊そうとしている。


 ……今後、門は鉄で補強しよう。すぐに壊れそうだ。


 俺は合図を出すと新兵器【火吹き人形】ダルシムを投入する。

 バイオエタノールを霧状に噴霧できるようにに皮袋を内蔵している。但し、火吹きと銘打っているが火は出せない。散布後、俺が火矢を撃ちこむだけだ。

 ダルシム達が塀の上に立ち、兵隊がよじ登ろうとしている所に散布する。兵隊達は驚いたり、液体に滑って転がり落ちる所に俺が火矢を打ち込む。


 あっという間に塀の周囲は劫火に包まれる。

 兵隊達の物凄い悲鳴とともに地面に転がり火を消そうとする。


 ……実はアルコールが燃えているだけなので人間本体には致命傷にはならないんだけどね。毛は燃えるから眉毛はなくなるだろうけど。


 門を叩き壊そうとする音もなくなり、火も消えると同時に士気も無くなった様子で兵隊達が三々五々逃げていく。

 逃げていくところを弓人形が射抜いたり、落とし穴に嵌ったり、ゲリラ人形に毒矢で狙われたり散々な目に会い逃げていく。


 小太りな騎士が呆然としている様子を扉の隙間から見ていると、轡を持った家来らしき兵に何やら怒鳴っている。

 兵隊たちは騎士のもとに留まろうとはせずに街道の方に逃げていき姿を消すと、騎士も慌てて後を追うように消えていった。


 ようやく俺は扉を開け、辺りを見渡すと、置いて行かれた兵隊が数人とと息が途絶えている兵隊が数体いた。


 直接俺が手を下した訳では無いが多少の罪悪感と、戦いの高揚感と、後片付けの大変さにため息をついた。

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