追われる俺
もう相当遅い時間だ。
月は雲に覆われ視界はほぼ無い。
街道はたまに松明の明かりが移動している。
俺は街道から少し入った場所で動けなく、じっとしている。
追手もこの状況の中で無闇に森に入りたくない様子だ。
虫が集ってくる。蚊や蝿ぐらいであれば鬱陶しいで済むが毒虫が寄ってくるのはいただけない。
防虫剤を携帯しておくべきだった。街に出るってことで油断していた。即席で作ろうと思っても暗いのでどれが薬草だか分からない。音も出すのもはばかられるのでじっと耐えるしかない。
ようやく空が白んできた。だが今にも雨が振りそうだ。朝露だが汗だかで体がじっとりと濡れている。気持ちが悪い。
寝不足でボーっとしている。なんとか足元が見えるぐらいになると移動を開始する。
……街道からなるべく離れよう。北東に向かえば石灰石を採取している場所の近くに出るはずだ。
ゆっくり藪こぎしながら歩く。たまに立ち止まり、後を追ってくる音がしないかを確認する。
歩きやすいと思ったら獣道に出た。なにも考えずに獣道に沿って歩き出す。
ふっと視線がある場所に釘付けになる。
木に爪痕を見つけた。樹皮から樹液がでているのでかなり新しい。
地面をみる。
足跡がある。でかいな。俺の手のひらの倍はある。恐らく熊だろう。
足跡の方向と俺の進行方向が一緒なので遭遇する危険性があるな。しかも、一頭だけでは無く小さい足跡も見受けられる。
周辺の木々を見ると熊の体毛がなすりつけてあし、爪あともあるってことは、熊のテリトリーにバッチリ入っている。追手がこの辺にも入り込んでいたら熊はナーバスになっている可能性が高い。
多少の音を立てても速やかにこの場を離れないと……
獣道を離れ、藪こぎを再開する。
猿型人形の猿飛に周辺を偵察させながら先を急ぐ。
藪が途切れる。川に出た。
ホッとして。少し休憩しようと腰を降ろすと、上流の川岸に子連れの熊がこちらを窺っている。
……あの熊があの足跡の主かな。
それほど距離はないので熊が走り出したら一気に詰められてしまう。
腰を下ろしたばかりではあるが、今来た森のなかに戻る。
どうするか。
進行方向には熊。戻ると追手。
少し街道側に寄って進むか。
道なき道を歩くが全然進んでいない。
2時間歩いたが1km進んでないと思われる。
食料もあと一食分だし、体力も限界に近い。日が落ちたら一か八かで街道を進むか。
そう決めると、枝ぶりがいい木に登る。体を落ち着かせられるような場所に座り、木と体をロープで縛り、うっかり落ちても大丈夫なようにする。
しばし仮眠をとることにした。
何度目だろうか。船を漕いで落ちそうになり目を覚ます。山陰に日が落ち、辺りは急速に暗くなっていく。もう一眠りしようとしたが、違和感を覚える。
気のせいだろうか……
俺の培われた野生の勘が何かがおかしいと訴えかける。
目を凝らして木の下を見渡すが、葉が生い茂り視線は通らない。
風に揺れる木々のざわめきに紛れ、小枝を踏みしめる音がする。
弓矢を取り出し番える。
忍び寄る人影が見えた。
その影に向かって射る。
急いで木から飛び降りる。何人もの人影が飛び出してきて俺に剣を突き出してきた。俺も剣を抜くが、虚仮威しにしかならないことは俺がよく知っている。
サスケ人形が囲んでいる人の後ろから忍び寄りアキレス腱をナイフで斬りつけていく。囲みの一角が崩れたので、そこから間をすり抜け、来た道を戻り、川を目指し走って行く。
当然追手がやってくるが、猿飛とサスケが一人ひとりを無戦力化していく。新たな追手も加わり、数人いるようだ。
完全に日が落ち、俺も殆ど見えなくなってきた。追手の松明の明かりが唯一の光源ってのが情けないが、俺が火を焚くわけにもいかないしな。
獣道をコケるのを覚悟して走り引き離す。顔や腕に枝や植物の刺が当たり血が出ている。
川に出た。
追手の松明の明かりも見えないのでだいぶ引き離したと思う。
幸いなことに熊には出くわさなかった。
川を右手に見ながら川沿いを進んでいく。
追手も巻いたようだ。
空が白んできたころに見覚えのある洞窟が見えた。
家まではもう少しだ。




