自業自得なやつを見る俺
家の門の前にまで辿り着いた。
……帰ってきた。この4〜5日で色々ありすぎだろ。
門番の鉄人と弓人形には声を掛け俺が連れてきた人間には攻撃しないように伝える。但し、俺以外が家に立ち入ることは納得いかない。少し助けてくれたアルマや百歩譲ってガルはともかく、フサインはこの中には入れたくない。
フサインには薪と藁をためてある場所に連れて行き。そこで寝かす。……屋根があるだけましだろう。
アルマとガルは体調が戻らないので部屋の隅に藁を敷き、寝転がしておく。簡易経口補水液をそばに置いておく。
どくだみ茶を飲みながら安堵感が胸に広がる。ただ、頭や体は痒いし臭い。ガルに染み付いた臭いもなんとかしたい。
……風呂に入りたいな。しかし、夜に風呂を沸かす作業はしんどいし、石を熱するのに時間が掛かるので湯で体を拭いておしまいにする。アルマ達はすでに寝てしまっている。
アルマの寝顔を覗きこむ。胸の底にジリジリとしたものがあるが、無視して俺も寝ることにした。
翌日。かなり疲れていたのか、昼前まで寝てしまったようだ。アルマ達はまだ寝ているが、顔色を見ると落ち着いたような顔をしていたので、ピークは越えたのだろう。経口補水液も役に経ったのかも。
外にでるとフサインの様子を見がてら敷地のパトロールをすることにした。ラタール教が武闘派なのか狂信的なのか分からないが問答無用で襲ってくるみたいなのでより一層の用心が必要だろう。
弓を持って薪を貯蔵所に行く。フサインがいない。
……彼奴。早速逃げたのか?
畑に行ってみる。外周部を歩くと何故か、動物の死体が多い。半腐れになっている。ネズミなどの小動物から大型の猪や鹿、狼までいる。首を傾げながら先に進むと、猿の大量虐殺現場があった。
「なんじゃこりゃ!」
松田優作ばり(ちょっと古い)に叫ぶ。
腐臭がすごくて近寄りがたい。何か恐ろしいことでも起こっているのか。
腕で鼻を塞ぎながら近寄り、猿の死体を検分していく。
……目立った外傷はない。目や端から体液が流れ出て、蛆が集っているぐらいだな。
直接触りたくは無いので枝で死体を回転させながら仔細に見ていくと、楊枝のようなものが尻に刺さっていた。
抜いて見てみると竹で出来た人工物に見える。どこかで見た記憶が……
他の死体も見ていくと大小個体差はあるが全てに竹で出来た楊枝のようなものが刺さっている。
……まさか。
辺りを見渡しても動くものは見当たらない。木々が風に吹かれてざわざわしている音と遠くのせせらぎしか聞こえない。
凝視せず視野を広くぼんやりと辺りを見渡す。
いた。
ゲリラ人形が木の上に潜んでいる。風景に同化しているので非常にわかりづらい。特性を知っている俺だから見つけられるようなもんだ。
つまり、勝手に決めた俺の敷地に入ろうとした動くものに反応して攻撃をしたんだな。猿や鹿、ネズミなんかは畑に植わっている大量の食料に目を奪われて越境しようとした。当然、ゲリラ人形が毒矢で攻撃する。死肉を肉食動物が漁ろうとして更に攻撃されると。
恐ろしい。
毒矢の毒は仮死する程度にしたはずなんだけどな。大型動物でも複数刺さったら死んじゃうのかも……
大量の動物の死体が放置してある道を一周して、畑の中心部に歩いて行くと、つい最近掘り出したような跡が見受けられた。
畑人形が掘り出したのか?
それにしては堀り跡が違う気がするが……
人間の大きさの足跡がついている。
辿って行くとあちこちを掘り返しながら畑の外に向かっていく。外周部に辿り着くと掘り出したものであろう大量の野菜が散乱していて足跡は俺の家に向かっている。
足跡を辿って家に戻ろうとすると塀の外周部にある落とし穴が露出している。
……動物でも落ちたのか?
中を除くとフサインが落っこちていた。
「おい。お前何やってんだ? 大丈夫か?」
フサインに呼びかけても全身が震えるだけで返事をしない。
エバを呼び出し、フサインを引っ張り上げる。太ももにブービートラップの竹串が突き刺さっている。
俺はフサインの頬を叩きながら呼びかける。
「おい。どうした。足が痛いのか?」
フサインの視線が合わないので目を見ると瞳孔が開いている。
……もしかしたら。
門番の鉄人と弓人形には攻撃するなと伝えたが、ゲリラ人形には伝わっていないのかも。ゆえに、フサインが畑を漁って境界を越えようとしたらゲリラ人形に襲われた。神経毒は10分立たないと行動不能にならない。何かに襲われたと思ったフサインは俺の家に向かおうとしたら、落とし穴に落ちたとそういう訳か。
なんか残念すぎて殺す気にも救う気にもなれない。放っておくか。運がよけりゃ神経毒も消えるだろう。竹串が刺さって時に、破傷風菌に侵されていると思うけど今後の心掛け次第で治してやるか。
家に戻るとアルマが起きていた。
「おはよう。調子はどう?」
「……おはようございます。調子は悪くはありません。お爺ちゃんももう少し休めば大丈夫だと思うます」
「そうか。良く手を洗ってから食事を作ってくれるか? 食材は好きに使ってくれ」
「わかりました」
アルマは浮かない顔をしていたが、特に何も言わずに竈に近づき食材や調理道具を物色している。
俺は風呂を沸かすために外に出た。




