囲まれる俺
森を抜けると畑と粗末な小屋がある集落があった。
ドナドナに交易するための食料や道具を詰め込み、俺が切り拓いたルートで村に辿り着いたのだ。
家から出て10時間。太陽は傾き、そろそろ日が陰り始めてくる頃だ。
夜の食事の準備をしているものやあぜ道を歩いている人々がちらほらと見受けられた。余所者が珍しいのだろうか。俺を見つけた住人が叫び声を上げると、集落の中心地に走っていった。
「貴様の目的は何だ!」ガルが叫んだ。
俺の周りには男衆が手に得物を持ち取り囲んでいる。ただ、男衆と言っても青年壮年の年代は居ず、老人ばかりで迫力はない。前回交渉の窓口となってくれたガルはその中でも比較的若いようだ。
「目的はこの村との交流だ」俺は相手をこれ以上興奮させるつもりはないので、静かに受け答えするように心がける。
「俺達はここで静かに暮らしている。交流する気はない。帰れ!」
ガルはそう叫んでいるが他の老人たちはそうは思っていないようだ。「ここを知られた以上、ただで返すわけにはいかん」「彼奴等の手先か」「他に人影はないか」「殺すしかないようじゃな」と物騒な囁き声が聞こえる。
「俺の望んできるのは交流、交易だ。塩や砂糖、鉄器を持ってきた」
「塩じゃと」「やはりラタールの手先か」「領主の手者もかもしれんぞ」「殺すしかないようじゃな」「腹減ったの〜」老人たちはゴチャゴチャ騒ぐだけで態度を決めかねているようだ。
そこに前回現れた長老と言われているハサンが現れた。
「者共。静まれ。 ……お主。前も来られたな。名はなんと申されたかな?」
「俺はシンゴ。前回同様に物の交換をしてもらえると嬉しい」
「ふむ。ではなぜ森の中から現れた? この森は視界が利かず迷い易いはずじゃ。なぜここに通ずる道から来なんだ?」
「ここへ至る道は巧妙に偽装してあった。あんたらがあまり人の目に付くことを厭うてると感じた。だから人目に触れぬように別のルートを探してここまで来た。突然に来たのは悪いと思ってるが、なにせ俺一人で旅をしているし、礼儀なんて知らんからな」
ハサンは少しの間沈黙するように目を閉じた。
「……分かった。今日はもう遅い。お主はどうされる?」
辺りを見渡すと影が長くなって空が茜色に染まっている。
「俺は邪魔にならないところで野宿するつもりだ。許可を貰えるだろうか」
「……ガル。お前さんの家に客人を泊められるか?」ハサンはガルに振る。
「俺の家には若い女がいるからダメだ」慌てたようにガルが首を振るがハサンの強い視線に仕方なく頷いた。
つまりは俺の監視が必要だってことだな。夜に村をうろつかれても困るんだろう。
「ガル。迷惑をかけるが宜しく頼む」
「……孫に何かしたら明日の朝日が拝めないからな」
俺は安心させるべくにっこり笑ったのだが、ガルの視線は厳しい。
ハサンが解散するように伝え、俺はガルに連れられてガルの家に向かった。




