喋る俺
それからガルと少し話をした。
若い女はガルの孫でアルマというらしい。
ただ、用事を果たすと、砂糖を持ってさっさと帰って行ってしまった。
アルマのことはさておき。
この国は都市国家ウルクと言い、国王はギルガメシュ。
そして話題に出てきたラタール教。ウルクの国教だが5〜6年前に教皇の代替わりが起こりそれから国との関係性が急速に悪くなっていったそうだ。
塩や砂糖の専売化。成人前後の男子の徴用。辺境地での徴税の開始など。
これは働き盛りの年代の労働人口の減少、二重課税、物品の値上がりで地方の経済基盤が壊滅的な打撃を受けているようだ。
ラタール教自体が武装組織を持ち、反抗勢力を抑えに掛かっているし、国教に逆らうことは国に逆らうと同意義と取られ、民衆からの支持も得られなくなるようだ。
憂いた国王も打開をしようとあれこれしてみたけど上手く対処できないようで、益々国教の力を増す結果になったと。
廃村の話やこの村のことはあまり喋ってくれなかったが、ここに隠れるように住んでいるってことは色々理由があるんだろう。初対面でデリケートな部分まで手を突っ込んで聞くのは憚られた。
「そういえばお前さんは祝福の徴用には行かなかったのか?」ガルが問いかけてきた。
「よく分からんね。どうやら親に捨てられたっぽい。捨てられる前のことは良く知らないんだよ」
「そうか。悪いこと聞いてしまったな」
「いや。今の話を聞くと捨てられて良かった気がするな
これからもここに立ち寄ってもいいか?」
「あまり歓迎できん。長も外部の者と交流するのを良とせん」
「わかった。俺も無理強いするつもりはないよ」
「砂糖を」ボソッとガルが呟く。
「ん?」
「砂糖をたまに持ってきてもらえんかの?
孫があれで村の子供達になにか作ってやるみたいじゃ。
親なし子がいるからの」
俺が手慰みに持っている首飾りを眺めながら言う。
「この首飾りは貰っちゃっていいのか?大事そうだったけど」
「いいんじゃ。あの子がそう考えるなら。
次回は交換できるものを用意しておく」
そろそろ話題も一区切りしたのであまり暗くならない内にここを引き払ってビバークポイントを探さなくてはいけない。
俺の後を追ってきて襲う奴らもいるかもしれないし。
「ところでこの辺の森で少人数で暮らしている人の話を聞いたことがあるか?」
別れ際、ガルに聞いてみた。
「……昔はこの森の山奥で芥子畑を栽培していることがあったらしい。もうずっとまえのことじゃ。あとはラタール教に追われて隠れ住んでいるやつらかの」
「ふ〜ん。それじゃまた」
俺は足早に村を立ち去った。
俺が住んでいる家はかつての芥子畑を作ってる奴らだったのかも。
芥子って阿片戦争の原因になった麻薬だよな。麻酔薬として作ってたのかもしれんが、交通の便が悪いあんな所に家を作っているってことは、密栽培ってことなのかな。
つらつらとこの世界で初めて人と話をした興奮を噛み締めながら家路につくのであった。




