その後 その2
「こんなもんか」
俺は土木人形、樵人形、大工人形達、総勢21体を総動員させて急遽小屋掛けをした。
土木人形は主に土いじり、樵人形が切り拓いた森を掘り返し基礎を作るお仕事だ。
森を切り拓く時の障害は木の根と大きな岩だ。岩は地味に掘り返していくしかない。そして露出した岩を地味に砕いていく。今回の場合には家を建てるためなので基礎にしてしまっているが。
木の根の掘り起こしの方法は最近効率の良い方法を気付いた。根腐れを起こせばいいと。木の根の周りにじゃんじゃん水を撒いて水浸しにさせ、地中を酸欠状態にまで持っていく。そして、俺の祝福で地中にいる嫌気性菌や通性嫌気性菌群達を爆発的に増やしていく。そうすると短期間のうちに腐り、根がボロボロになる。
基礎だが、地下水面より少し深めに掘り、2mの長さで腕の太さ程度の木杭を数本打ち込む、その上に割栗を敷き、平で大きな岩を置く。これでかなりの耐荷重量を保つはずだ。
大工人形はかなり細かい細工まで出来るようになった。問題は道具類が追いついてこない点だ。
街に行っても職人である男たちが戦争や徴用で殆どいなくなってしまったせいで老人達が細々と作っているだけらしい。
ハンマーなどの大雑把なものは俺でもできるが、さすがに鋸の目立ては出来ない。継ぎ手を細工して木組みを出来るまでの技術は身についたのだが……
まあ、そんなこんなで家を1軒建てるだけでも大変ではある。俺の場合には主命に忠実な国民である人形達がいるから楽ちんだが。
家は俺達の家と畑を挟んだ反対側に建てた。近からず遠からずってところだ。塀の外側に位置しているが警護の人形達も周辺にいるので危険は少ない。
「ありがとう! オジちゃん」
オ、オジちゃん?
俺は君とたいして年齢は変わらんぞ!
物件の引渡しの時である。
難民である親子の末女のリノンが俺に抱きついてくる。リノンは10才らしい。
「リノン。シンゴ様に失礼よ」
長女のユーリンがたしなめる。ユーリンは俺のひとつ下の19才。
リノンは気にせずに俺の周りをまとわりついている。それはそれで可愛いとも思うが釈然としない。
「……セレン。俺って年寄りに見えるか?」
セレンは次女で16才でちょっとおどおどしている。
「シンゴ様は……」
俺の頭をチラッと見る。
そういうことか。
俺の広々としたおでこを見ているのか。皮のヘルメットを冠って作業をしていると蒸れるんだよ。それが原因か分からないがずんどこ額の面積が増大している気がする。
「……気のせいじゃないですよ」
セレンは俺の心の声を覗いていたかのようにボソッと呟いた。おどおどとしているが、その実、口は悪い。
「シンゴ様。ありがとうございます。これで落ち着いて過ごせます。何か命ぜられることがあればなんなりと」
三人娘の母親であるシリンが取り繕うように俺の手をとり膝づいてきた。
「そうだな。それぞれ何が得意なんだ」
「私は編み物とかを生業としてまいりました」と母親のシリン。
「うふふ。おかーさんの手伝いしてるよ」と末女のリノン。
「……いつも家の料理してる」と次女のセレン。
「わ、私は……何かしら?」と長女のユーリン。
「そうか」
俺は考えた。俺は自分の服を見た。俺の服もアルマの服もボロボロだ。難民であるシリン達の方がよっぽど良い物を身に纏っている。
麻もあるし綿の種も少量ある。これを機に畑を広げて織布、服飾を手がけても良いかもしれない。
今までの俺には考えもつかなかったが。
「では、シリンとリノンは織布を研究してくれ。麻草から麻布を仕上げられるように。そして綿花の面倒もみてくれ」
「畏まりました」
「うふふ。オジちゃん任せて」
……オジちゃん
リノンは日本で言う小学5年生ぐらいか。130cm程度の身長でコロコロと笑い明るい性格で見てて嬉しくなってくるが、これだけはなんとかならんもんか。
気を取り直してと。
アルマはお腹が大きくなり身の回りのことはできるが、見ている俺がハラハラするし、料理の腕は……
「セレンは俺の家の家事手伝いな」
「……分かった。しょうがない」
セレンは背も低く黒髪で大人しくて可愛い。胸も大きい。妊娠して少し大きくなってきたアルマの胸よりも大きい。
黙っていれば可愛い。黙っていれば。
「それと、畑にあるものだけじゃなくて周辺で食べられそうなものも採取してくるんだぞ?」
「……か弱い私にそんな汚れ仕事を」
セレンは両手で顔を覆い、泣き真似をしてくる。
「護衛の人形を付かせるから大丈夫だろ!」
「……はぁ。冗談が通じないんですね」
構っていたら負けだ。
次だ。次。
「ユーリンはどうするか。何か希望はあるか?」
「私はなんでも一通り出来るんと思いますが……これってものはありません」
ユーリンは落着いた性格で物事に動じない冷静さがある。姉妹たちのリーダーシップを常に取ってバランス感覚に長けている。そんなことよりも、長身でナイスバデーなところにまず目を惹かれる。母親よりも次女よりも大きくてウエストは引き締まっている。
貫頭衣のようなものを着ているのだがベルトで締められたウエストから隆起してくる感じがまたたまらない。そして長い足がスリットからちらちら見えてるのが目の保養に、いや目の毒に。
「では、俺の手伝いをしてくれ」
「わかりました」
そんなやりとりを見ていた次女のセレンがうがった目つきで俺を見ている。
「……また姉さんをイヤラシイ目で見てる。手伝いってどんなことをするのやら」
また、ぼそぼそと独り言を言っている。
見かねたユーリンがまたセレンをたしなめていた。
俺達と4人の親子の共同生活の始まりになった。