預言者を知る俺
ルクサーナの祝福【預言者】はこの世の森羅万象を覗ける能力のことらしい。
「元の世界でオカルト話でアカシックレコードとか生命の書とかが合ったの知ってる? そんな感じよ。教典では神とか大いなる意思とか呼んでるけど」
ルクサーナ自身がPC端末のようなものであり宇宙の過去から未来まで森羅万象を記録してあるサーバーにアクセスして様々な情報を得ることが出来るらしい。
――随分と便利な能力だな。
でも、それにしては俺がこの世界に飛ばされてきた4年間も存在を放置してたな。しかも、大事になってから呼び出すとか効率悪くないか?
「預言者も万能じゃないのよ。貴方もG◯ogleで興味が無いことやそもそも知らない事を検索しないでしょ? 貴方も顔形も違ってるし名前が変わってるかもしれないわ。 ……人間の脳のキャパシティじゃ大いなる意思のほんの一部のデータしか入らないし、理解も出来ないわ。例えば貴方の名前を検索したとしたら情報を制限しないと同姓同名の人物は勿論DNA情報とか貴方に踏まれた蟻の情報も並列に脳に流れ込んでくるのよ」
俺のことも俺が色々とやらかした結果、その原因を掘り下げていくと俺のことがわかったようだ。
「勿論この世界に私が産まれてから貴方に会いたいと思って色々と手を尽くしたのは確かよ。そして貴方がまた私の目の前に表れた。それでいいじゃない」
――でも未来のことも分かるなら最適解もすぐにでるんじゃないのかな。無駄が多いような気もしないでもないけど。
秘密裏に俺を連れてこようとした割には強硬派にとっ捕まるは国王派にも漏れまくってるし。
「未来のことも大きな川の流れのようには分かるのよ。ただ、枝分かれが非常に多いくて読み難いの。 ……バタフライエフェクトって知ってる? 蝶が羽ばたく風の揺らぎで気象の影響を与えるかも知れないって寓話。日本風で表すと風が吹いて桶屋が儲かるって例えね」
――つまりは未来予測も出来ないと同意義ってことだよね。
でも大きな川の流れって俺は今後どうなるんだ?
「ふふ。未来のことは知らない方が楽しいわよ。ただこの国と民にとっては楽しくないことになるの。それを食い止めるために協力して欲しいの。本当は教会を離れて貴方と静かに暮らせればいいのかもしれないのだけど……」
「じゃあ、俺と一緒にここから逃げ出そう。俺とあの高校時代の続きを」
「……残念ね。私が祝福を授かってそれを教会が知り祀り上げられた。不幸に陥ることが見えている状況で私だけが逃げることは出来ません。もうあの頃の私でも貴方でもないのよ」
ルクサーナは寂しそうに笑い。俺の頬をなでた。
「……その、不幸な状況ってなんなんだ?」
「死ぬわ。皆」
「死ぬ? 一人残らず死ぬの? 相当な労力が必要だな」
「貴方がね殺すの。現に貴方が前に流行させた病気で街が4つ消えたわ。手を打ったからそれ以上は蔓延しなかったけど、小さな集落だとまだ広がってる」
「……」
「その力を司教枢機卿や国王も狙ってるわ。危険性も分からずに。」
ルクサーナは俺の手を取り両手で包み込むように訴える。
「だから私に力を貸して。貴方と私が組めばそんなことにはならない。私が知識を引き出し、貴方が力を振るう。この世界は私と貴方が救うのよ」
俺はルクサーナの目を見た。透き通った目で俺を見ている。
優子の意識が亡くなる前に見た瞳と一緒の輝きがあった。
俺には何が正しいか分からない。……でも騙されたとしても良いだろ。独りで逃げまわることも辛い。だったら昔惚れた女に一杯食わされても諦めがつくってもんだ。
「……わかった。ルクサーナに協力するよ」
「優子よ。優子。ルクサーナって言わないで」
真面目な顔が一転してほっぺたを膨らまして拗ねてくる。
「信吾ありがとう。あまり時間がないからこれから動かないといけないのだけど良い? 明日だと司教枢機卿が動いて後手に回っちゃうから」
「わかった。何をすればいい?」
ここまで来たら腹を据えてやることやるしか無いな。
「じゃあ、準備してくるからアルマと一緒に少し待ってて、迎えを寄越すわ」
そう言うとルクサーナは扉から出て行った。
残ったアルマは俺の顔を見ながら物言いたげな顔をしている。
「どうしたアルマ。何か文句があるのか?」
「……いいえ。普段見せない教皇様の態度と、教皇様とシンゴ様の関係が分かり少し……」
「少し、なんだ?」
「複雑な感じです」
アルマはそう言ったっきり口を噤んでしまった。
間に耐え切れずにベッドに倒れ込む。
――まあ、俺もやっとぼっちから抜け出せたのかも。




