把握する俺
「なあ、彼奴等から何故逃げたんだ?」
軍からの追跡を振り切り、木がほとんど生えていないガレた尾根を歩きながらサーリムに聞く。
「……この国はもう死に体だ。5年前に飢饉が起こった。国王はそれを放置して享楽的に過ごしてきた。教会は倉庫を開き飢餓に苦しんでいる民衆を救った。民衆が教会に救いを求めて集まったことに危機感が募った国が教会を弾圧し始めた……」
ふんふん。なるほどね。
教会目線で見ると、自堕落な国王が勢力を伸ばす教会を掣肘できずに国体を維持できなくなったと。で、隣国のハトラを引き込んで教会を弾圧するが、ハトラはこの国を乗っ取ろうと考えているってことか。
でも同じ教会内部でも強硬派と穏健派があるって言ってたよね。あの俺の家を襲ったジャッバールも強硬派でサーリムは穏健派なのかね?
「強硬派からも逃げてるってことはサーリムは穏健派なのか?」
「強硬派のトップは司教枢機卿だな。神権政治を主張している。そして教皇が教会を導き、司教枢機卿が国家を統治すべきだとな」
他国が介入してくるのはこの国の民としても教会としても排除したい考えは統一されているようだが、その後が違うと。教皇は政教分離を主導しているが、教皇は5年前に就任したばかりで長くその座についている司教枢機卿との後ろ盾が少なく苦労しているようだ。
「教会のことは知らんが、教皇になるのは年功序列でなるんじゃないの?」
「教皇になるには枢機卿の満場一致が必要だ。現教皇の祝福に預言者が現出し、数々の知恵を表され我々を飢饉からお救いになられた。それを認められ現在の地位に就かれた」
教皇は神輿ってことね。
俺を呼び出してなにさせようと考えてるんだ?
イマイチ理解出来ないけどね。
どうでも良いけど、既にドロドロとした所に足が嵌ってしまった感じがする。こうなったら平和に一人で暮らすことも出来ないし、どこかの勢力のトップに会って俺の要求を認めさせて保護してもらわないと。
……一人が好きなわけじゃないぞ。緩やかな繋がりがないと不便だし寂しいからね。
山から降りると小さな村についた。村の定義が良くわからないが家が20軒無いので集落といったほうがいいのか。
その中の1軒に隠れるように泊まらせてもらえることになった。
ここ最近、追われたり野宿したりで俺も疲れていたのでここでちょっと休ませてもらいたい。
「なあサーリム。ここで数日体を休めないか?」
「……ああ。迎えをここに呼ぶつもりだから当分動けないから丁度良い」
「そうか。助かった。……でもこの家の住人を追い出すようになっちゃうな」
「この家は無人の家だから気にしなくて良い。つい最近まで住んでいたようだが疫病で無くなったらしい」
――この家を除菌しないと俺まで病気に掛かるんじゃね?
最近この世界の医療水準がとんでもなく低いことは薄々感じた。サーリムに聞いても病気の時は薬草を煎じて飲むか教会の伝で病気を癒す祝福持ちに治してもらう程度らしい。
――俺は過去を振り返らない。
色々とやってしまった感は半端ないが俺の手を離れたことをクヨクヨしてもしようがない。
でもこの家の疫病は関係ないと思うぞ。俺の家から相当離れているし。
ガルは俺たちを置いて、迎えを呼ぶために連絡をつけに一人で集落を離れていった。




