表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白鴉の免罪符  作者: 蓮野刃
6/7

属性持ち

「おい!さっさと出てこい!」

俺はあたりに向かって叫んだ。あの電柱に潜んでいた男はどこか他の場所に隠れた可能性がある。


さっきの火球が示すもの……

『属性持ち』が来た。


属性持ちとは……

属性……つまり、火、水、電気などの自然に関連する『属性』を元から持っている異能力者だ。


例えば、俺が火を使えるとしたら「火属性の鴉」ということになる。


その扱い方にもよるが、とにかく火力が凄まじいのでどこの派閥でも重宝される。

使い勝手もいいから、多くの場合派閥のリーダーかそこに近いところに入れられる。


にしても、東部に入ったら襲撃はあると思ったけど……まさか、初っ端属性持ちかよ……。運ないな、俺。


けど、収穫はあった。

火は俺の剥奪で消せる。


まぁ、消せるだけで火を通り抜けてそのまま相手に当てることは出来ないがな……。


なぜか?


剥奪……奪うっていう言葉の定理からして、相手のものを自分の物にするってことだろ?

奪ったものは消えるんじゃなくて、自分の物になる。

盗んだ本とか、いきなり消えたりはしないだろ。つまりはそういことさ。


俺が火から奪ったのは熱量。

もちろん、そのまま自分の物にしたら熱さで死にかねない。

だから、ナイフで奪うんだ。


ナイフに俺の異能を乗せる。

そうすることで、熱量はナイフの物となる。

その異能の力に耐えられずにナイフは消滅してしまうがな。


結論からいうと、俺のナイフと敵の火球は相殺……つまり、相打ちに必ずなる。

相性は悪くはないが、良くはないな。

そのとき……


ザッ……


と音がなり例の電柱から男が歩いて出てきた。

男……俺と同い年か一つ上かだろう。茶髪に耳についたピアスが特徴的だ。

DQN的なお兄さんといえば分かり易いだろうか。ただ、爽やかさがこの人はあるけど。


それにしたって、気になるのはこの人の行動だ。

なぜ、電柱から移動しなかったのか。

なぜ、あっさり出てきたのか。

わからない。

もしかして、バカか?


「あんた、正気か?」

俺が聞くと、男は聞き返してきた。

「は?正気ってなにが」


うん?気づいてないの?

まず、電柱から動かないこと。

それは、俺に爆薬投げられたら即死を意味する。

場所が知られてて動かないのは、二種類の人間だろう。


1.怖いから動けない

2.バカ


そんであっさり出てきた。

これは怖いもの知らずということになる。

これで一番の可能性は消えたな。

残るは……バカか。


えー……


まじかい。この人……バカかぁ……


「なぁ、なんで初対面なのに哀れみの目で見られなきゃいけないの?」

男がげんなりしたような声で言った。あー、さすがに失礼か……。って、いきなり火球を見舞ってきたこの人の方が非常識じゃないか。


「初対面の人に火球ぶつけようとしてよく言えますね?」

俺が少々苛立ちを込めた声で返すと、意外な返答が返ってきた。


「え?だって、お前なら簡単によけられるだろう?」


……コイツ…なんなんだ?

俺の事を知っている?いや、会ったことは…………はっ!


コイツ、もしかしてホモかぁ!?


それだったら納得がいく……!今の俺を良く知ってる感じからして、俺のストーカーって可能性も十分ある!

そして遂に話しかけたと、いやー、こわいわぁー。


「言っとくが俺はノンケだ。」


ですよねー


んー、だとしたら俺の情報は……どこから聞いたのか……。

「もしかして、情報屋から聞きました?」

「おう、当たりだよ。その情報屋が『死神』の顔写真ゲットしたとか言うから、高額で買い取ったんだ。」


ほーう、俺の顔写真そんなに有名なの?

てか、レアなのに間違いはないけどさ、アイドルでもないんだからやめて欲しいですねぇ……。


「あー、そういえば名乗り忘れてた。俺の名前は火神かがみ飛鳥あすかだ。」

「おう、よろしく」

「そっちの名前は?」

「……え?敵かもしれないやつに名前は教えなくないよ」

「……そんな邪険に扱うことないじゃないか……。」

あ、凹んでるよ火神さん。けど、名乗るつもりなんて毛頭ないけどね。


「んで、俺にちょっかいをかけたご用事は?」

「あぁ、いや、簡単なことさ」

火神さんは俺に握手を求めるかのように手を出してきた。


「派閥、『エスナ』に入らないか?」

「嫌だけど?」

「いきなり拒否はねぇだろ!?」

俺はそんな手を一瞥しただけで握らなかった。

見ず知らずの奴に派閥に入れと言われても無理があるに決まってるだろ。

派閥は一生もののチームになる可能性があるんだ。

それに俺には夜弥もいるし、無理だ。


そんな俺の言動をどう考えたのか、指をポキポキと、鳴らし始める火神さん……いや、めんどくさいから火神で。

なんか、流れがわかってきてしまう自分が嫌になる。


「わかった……喧嘩売ってんだったら買ってやろうじゃねぇか……!」


コォッ……と手を光らせる火神。

やばい、来るッ!


「異能力発動∵『ヘルファイア』!」

「くッ!!『黒紅刃』!」


至近距離から放たれた両手打ちの火球にとっさにナイフを投げつける。


ボスッ!と鎮火音が響き、互いの異能は相殺され、

戦いの火蓋は切って落とされた。


……


「うぉらぁ!!」

火神が火球を片手ずつ二回に分けて射出してくる。

そうしてくると、俺も二つのナイフを作り出して相殺するしかない。

一発でも当たれば、命を落とすとは言わなくても戦いにおいては致命傷になるだろう。


一発も通らせはしない!


ただ、戦闘スタイルは確実にあっちは近接戦闘型。ともかく動きが直線的で、一発一発に力がこもっている。

俺は中距離戦闘型。飛んだり跳ねたり、ナイフを投げ、時に肉薄し攻撃。変幻自在が売りだ。


そんな風に言ってしまえば俺のスタイルは無敵に聞こえるかもしれないが、そういうわけではない。

言い換えると、押しに弱いということだから。


さらに言い換えると、今の状況は最悪だ。


至近距離から始まってしまった戦闘。無理矢理に近接戦闘に持ち込まれたようなものだ。


距離を取らなければ……確実に負ける…!


「距離を取らないと、負ける……とか考えるのかぁ?」

ゾクッ……。

背筋を冷たい水が這い上がるかのような感覚が全身を支配する。

今……コイツなんて……。


「くッ……!」

俺は気づいたらバックステップで後ろに下がっていた。


あ……やばい……


「やっぱり当たりか!」

火神はそれを見越したかのように一息に距離を詰めてくる。

とっさにナイフを、俺と火神の間に放った。そうしたら火球が来ても未然に防げるからだ。

だが、俺は最悪なことに気づいた。


コイツの手、光ってない!

くそ……徒手か!


思考を一気に切り替える。火球対策から徒手……拳を迎え撃つ。


ドスッ……

と重い衝撃が俺の全身に響く。

奴の拳は俺の胸の前で、手のひらによって止められている。


や、厄介な相手だ……。異能力に頼りきらずに自力も合わせてきやがる。


今の独特な重さ……空手か。


ますます距離がとりづらくなったな……。

だったら押してダメなら引いてみろ。

急激に攻めて崩れたところで距離をとる!


「押してダメなら引いてみろか?」

「な……!?」

俺が風を使い急加速し肉薄したところで、突然後ろに気配を感じた。

火神だ 。

当然前方には誰もいない。


やはり、このタイミングは俺の次の位置を把握している!


やばい……この大勢じゃなんの反応もできない!


「セイッ!」

背中の一点に衝撃が走る。その衝撃は全身へと伝わり、伝わり終えた頃には自分の体が中を浮いているのがわかった。

蹴り飛ばされた。


「ぐ……舐めるな!」

俺は振り返りざまにナイフを投げつける。

だが、そのナイフをも空を切る。


「舐めてんのはどっちだ……」


そんな声が……またしても後ろから聞こえた。

コウッ……とあの何かが灯るような音も同時に鳴り響く。


「それで本気なわけ……ねぇだろ!」

背中に柔らかい感触。おそらく人の手のひら。

だが、それは焼き篭手のように熱く、俺に牙を向いた!

「がはぁッ……!!!」


ガシャンッ!


俺が吹き飛ばされたのに気づいたのは、そんなビルのガラスを突き破っただろう音を聞いた時だった。

背中がとんでもなく痛い。

熱いも度を越すと、熱というものを感じなくなるのか。


全身の痛みに耐えつつ、フラフラと立ち上がる。

額に手をやると、血で濡れているのがわかる。ガラスかなんかで切ったか……。


カシャンッ!


もう一度ガラスが割れる音が響く。

火神が入ってきたのだ。

彼の姿は鬼神のごとく。

正しく炎のごとく。


まずいな……。

こっちは手負い。あっちは無傷。

状況的には不利だ。


でも、気づいてないだろうな。

俺を吹き飛ばしたことで距離が開いたことを……。

これならば、戦える。


さぁ、第2ラウンドだ。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ