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白鴉の免罪符  作者: 蓮野刃
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代償、そして東部へ

「ぐっ……ごぁ…………!」

死神ノ鎌を使った後、突如想像を超えた痛みが俺の身体を襲う。

頭痛や吐き気、そして足腰が異様に重くなり立てない。


死神ノ鎌……コイツに原因がありそうだ。


おそらくだが、死神ノ鎌は複雑な形状をしているから生成に力を使い過ぎて、体力を枯渇させているのだろう。


送り込む風も尋常では無かった。

投げる力もフルパワー。

よって、酸欠もある。


死神ノ鎌は……そんな代償がある。乱発は……おそらく、命の危険もあるだろう。


「だ、大丈夫?水飲む?」

見上げると金髪の少女がいた。言わずもがな、シャムだ。

「いや、大丈夫。それよりも……過激な場面を見せたな……」

脚を全て切り落とされたバイリスの死体がそこら中転がっている。

小さい子に見せるものじゃない。


しかし、シャムは何故か顔を赤らめた。

「そ、そんな……別に誠くんの半裸見ても……」

「は?……なにいって」

俺は自分の身体を見下ろす。おぅ……脱いだつもりもないのに上半身の服が破けていらっしゃる。

力を開放しすぎると服がたまにはじけ飛ぶってのは本当だったのか……。

あの伝説の超サ○ヤ人みたいに。


「誠くん、結構女の子みたいな顔立ちしてるのにそんな逞しい身体は……反則だと……」

「おい、待て、その変な解説まじやめて!」

顔を火照らしてモジモジしている彼女に、泣きそうになりながら謝る半裸の俺。誰得だよ、この構図。


「はぁ……確か東部って、都会だよな……。だったら服屋の一軒や二軒すぐに見つかるよな」

「えー……」

「おい、なんでそこで残念そうな顔をする」

俺がそう言うと不満な顔をするシャム。なんなんだよ……。

「だって、誠くんの半裸なんか激レアじゃ……」

「レアじゃなかったら俺はただの露出狂ですよね!?」


まったく……最近の女の子は小さくても男の身体に興味があるのか……。あー、あれだ。おっさん風にいえば、けしからん……か。


「お前も東部行くのか?」

俺は立ち上がり砂を払う。裸だと砂が付きやすいな……。

「うーん……そーだね。まだ仕入れたい情報あるし」

コイツはコイツで仕事熱心だ。

仕事のためならどんな所でもいく。

たとえ、それが魔物の出現率が凄まじい東部だろうと。


俺はバイリスの死体に歩み寄り、肉をカットしながら提案する。

「んじゃ、俺に乗ってくか?」

「え?」

シャムの良く分からないと言いたげな声が聞こえる。

俺はカットした肉を大きめの麻袋に詰めながら声を出す。

「俺も東部に向かうけど、そろそろまどろっこしいから飛行能力使う。だから俺の背中に乗ってけばすぐに着くぞ〜」

「……え、いいの?」

「そのかわり、着いたらこの肉分けてくれ」

俺は詰め終わった肉入り麻袋をプラプラと振った。

「う、うん……むしろわたしの方が利益が多い気がするよ?」

「気にすんな、良心で受け取っとけよ」

そう言い、俺はしゃがんで自分の背中を指さす。

「ほら、乗んなよ」

「う、うん……」

そろそろと俺に乗ってくる彼女の手付きが……何と言うかとてもイヤらしい気がするのは気のせいだろうか。


「うわぁ……すごい綺麗な肩甲骨と上腕二頭筋……」

「うるせぇ、降ろすぞ」


こうして、俺と子猫の空の旅は始まりましたとさ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「うわぁ……すごい高くて気持ちいい!」

風切り音に紛れて俺の背中から少女の声が聞こえる。言わずもがな、乗せている子猫ことシャムだ。


「猫って高いところ大丈夫なんだっけ?」

飛行音に負けないように少し声を張り上げて聞く。この環境だったら、こんな会話しかない。

今度トランシーバーみたいの見つけたら買っておこう。

「飛び降りても平気だから大丈夫だよ!流石にこの高さはキツいけどね」

まぁ、そりゃそうだ。

生物にとっての安全というものは「可能なこと」だ。だってそうだろ?

紐なしバンジーは命を失わず出来ないから「不可能」だ。

対して、頑丈なロープにくくりつけられたバンジーは命の保証があって「可能」になる。


にしても、空を飛ぶことはいつまで経っても気持ちいい……。

力を使って少し汗をかいても、冷たい風が乾かしてくれる。あれだ、感覚的には春先のジョギングみたいなもんだ。

東部は建物が多くて道が入り組んでるから、同じスピードでもそれらを無視できる飛行の方が断然早いんだよね。


……まぁ、問題はこの少々いたずらがすぎる子猫ちゃんなんだが……。お触りがすぎませんかね?


「あぁ……ホントに気持ちいい……この背筋のくぼみがなんとも言えないよぉ…」

「………」

まことに残念な言動が目立ちます。

俗に言うコイツは筋肉フェチなのか。初めてしった。


飛行の仕組みは風で身体を浮かせることではあるが、バカ正直に異能力だけに頼ってちゃガス欠する。

そこで俺は工夫したわけだ。

身体の軸をぶらさなければ、どんな姿勢をとっても消費を抑えられることがわかったんだ。

身体の軸……つまり、体幹。

体幹は背筋や腹筋が重要な部分であり、言いかえれば飛行最中は背筋、腹筋をフルに使っているのだ。


だからそこが逞しいのわかるんだが……。

おい、やめろくすぐったい!背筋の間の窪みを指でなぞるんじゃない!

うん?待てよ……案外気持ちいい……。

……はっ!

だめだ、危うく変な世界に行くところだった!

シャムは恐ろしい才能を秘めておる……。


スースー……


離陸から20分くらいたっただろうか。シャムの寝息が聞こえてきた。

はしゃぎすぎて疲れたんだろう。

いや、案外違うのかもな。

風ってのは当たるだけでも人の体力を奪う。つまり、疲れるんだ。

現に俺も少しだるい。


「ん…………」

俺の肩に乗っかる小さい頭。そこから垂れ下がった一房の金髪は、水道設備が行き通ってない状態の世界に反旗を翻すかのように綺麗な光を放っている。

どうやって手入れしてんだか。

多少筋肉フェチなのが玉に瑕だが、ロリコンではないはずの俺も可愛いと思わせるほどに整っている顔立ち。


だけど、悲しいかな……。

夜弥とは比べたらいけないと思うのだが……女性特有の膨らみがない。

つまり、胸がちいさ……ゴスッ!

「いって!」

なんだこいつ、眠ってる筈なのに俺の即頭部に頭突きしてきたぞ!?

もしや、意識があるんじゃ……いや、ねぇな。


明るい表情も好きだ。

思えば、情報屋には明るいやつがいないと聞く。

俺も別の情報屋を多少知っているが、そいつらは全員機械のようで、まるで心が死んでるかのようだった。


情報屋というのは、常に危険との隣り合わせだ。

大事な人を無くしたり、暴行などの行為を行われたりして、心がすり減っていくのだろうか。

コイツはコイツで苦労してんだろうな……。でも、それでも俺に笑顔を向けてくれるのは感謝だ。


俺がバイリスを討伐した時に、その惨状を見てお前が青ざめてたこと、俺は知ってんだぜ?

それでも冗談を言ってくれたのに、感謝してます。


「無理すんなよな」


そう言うと、彼女の規則的な寝息から声が紡ぎだされた。


「……り……し…で…」


その言葉は俺に言ったのか……はたまた誰に言ったのか。

それでも俺は返事をしようとした。


だが、そのとき


ヴォンッッ!!!


「くッ…………!!」

俺は横を通り過ぎた火球をギリギリでよけた。


狙撃だ!


あぁ!これだから東部は嫌なんだよ!

魔物だけじゃなく、建物が多いから遠距離能力による狙撃が多いんだ。


くそ……シャムを背負ってる分戦闘に集中出来ない。

こっちが不利だ。


そう考えてるうちにも、どこからか火球が飛んでくる。

小さい。ちょうどソフトボールくらいの大きさだろう。

ただ、その大きさに惑わされてはいけない。火に大きさは関係ない。その熱こそ威力へとつながるからだ。


シャムはまだ寝てる……。よく起きてられるな……こいつも。


火球は間近で迫っている。早く対処しなければ……だが!


「これは実験で使わせてもらう!」


そう叫ぶと俺は火球目掛けて、生成したナイフを投げる。

流星のようにナイフは火球に当たる。

どうだ……?


ボフッ!


と少々気の抜けたような音がなり、火球は何事もなく消えた。

実験成功だ。

俺は熱を奪うようにナイフを投げたのだ。

熱の塊である火球は、ソレを投げつけられたらたまるまい。

見事に沈下した。


そして、今ので相手の居場所がわかった。


「そこだ!」

電柱(もう役割は果たしていないが)の影に隠れている奴にナイフを投げる。

「くっ!」

こちらのナイフに気づいたらしく、すぐに電柱を盾にする。

今の声……男だな。

まぁ、どちらにせよ回避されるのはわかってたさ。

これは時間稼ぎだ。


「ここなら……大丈夫だろう」

静かに地面に降り立って、俺は彼女をビルの中の物陰にそっと座らせた。

これでアイツには見られないし、安全だ。


さてと……。

身の程知らずを倒してやるよ。

こちとら、フラストレーション上がってんだ。


『一人にしないで』


シャムの、通常ならば聞こえないあの声に答えるように俺は一人、言い放つ。


「俺がついてる」


東部。


別名:『東京』


ここが、俺の舞台せんじょう



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