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白鴉の免罪符  作者: 蓮野刃
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そして現在

~橘誠視点~


あれから、三年の月日がたった現在。今日は八月の中盤あたりか……日付感覚がなくなっているのがわかる。


そう、人類を含める生物だけが激減したあの意味不明の災害から三年もたったのだ。これまた不思議なことに建物もそのまんまだ。

文明と法律がなくなり、世の中は凄まじいほどに荒れているが、俺はなんとか生きている。

人間は環境になれる生き物だからな。


なーんて、実はしみじみ思ってる暇はない。

俺は今現在、大量の『魔物』に囲まれているからだ。

「あー!!くっそ!数多過ぎるし、しつこい!」

俺は持っているナイフで魔物を蹴散らすが、いっこうに減らない。


魔物というのは……昔いた生物と違って異形な形をしたり、空想上の生物だったりした動物のことだ。

ファンタジー世界で有名なコブリンなどもいたりする。

ちなみに、俺が今けちらしているのは『ディラット』という人間大の黒いネズミみたいな魔物だ。

正直、前の世界にこんなものが大量発生していたら人類は滅びていただろうな。

コイツら、ライオンなんて目じゃないほど強い。それにおそらくは銃弾なんか通しやしない。というか、1回猟銃を見つけて撃ってみたことがあったんだ。うん、見事に効かない。人間が勝つためには兵器を持ち込むことになるだろう。


しかも、コイツらは魔物の中でもかなりのザコだ。いや、ほんとにまだまだ上がいるんだ。正直、考えるだけで嫌になるやつが。


これに対抗できるのは、『異能』って呼ばれ……

「うおっと……!危ないなぁ……」

あ、ごめん。今噛まれそうだった。ちょっと説明切れちゃったね。続けるよ。


人間はあの災害で異能力が体に備わったんだ。異能力……わかりやすく言えば『超能力』かな。

これはかなり便利でそれぞれ人によって特徴はあるけれど、生きるのに必要不可欠になっているだろう。


この異能力。実はルールがある。

それは、『動物に関する』ということ。

一つの異能力につき、一つの動物の、特徴や習性、伝承が備えられる。


え?なんでこんなことがわかるかって?

『わかる』からだよ。

俺の頭に喋ることと同じようにインプットされているんだ。

他の人に聞いても同じような答えを返してくれた。


とりあえずその話はここで置いておこう。

そろそろウザくなってきた。このネズミもどきに。


「異能発動∴『黒紅刃こっこうじん』」


俺の持っているナイフの刀身は赤黒い光を纏い始める。怪しく妖しいその光は鋭く……一瞬でその役割を果たす。


ザンッ!!!


ドサドサドサッ……と十数匹のディラットは一斉に倒れ、首筋からおびただしい量の血を噴出した。

俺のナイフは手から赤い霧となって霧散する。

ナイフ自体、俺の異能で作ったものだからだ。


「ふぅ……つかれた……」

俺はディラットの死体を見下ろしながら呟いた。倦怠感が凄まじい。眠くなってくる。

異能は凄まじい威力を誇るが、代償に大幅に精神力を削られる。

RPGでいうMPか。この場合マジックポイントではなく、マインドポイントだけどな。


「さて……用事済ませたらとっとと帰ろう。」


また俺は呟いて、ディラットの死体に歩み寄った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


俺は血のついた服のまま大きな麻袋を背中に回して持って、目的地についていた。


喫茶店『パルム』


ここは滅んだ世界での俺の『家』だ。

誰もかもが居なくなった世界で俺と一緒に、どんな時でもいてくれた人のいつもいる場所。


金属製の取っ手に手をかけると、冷たいはずのスチールは温かみを持っているように感じた。

ドラノブをひねり、引いて入る。

カランカラン……と来店を告げる心地いい鐘の音がが鳴り響く。

客は俺しかいないんだけどね。


「ただい「おっかえりぃ!!!」


ドンっ!!!と横からの凄まじい衝撃が俺を襲う。

敵かッ!んなわけない。ここに敵は入れない。


「……いって……いい加減にしてくれよ……夜弥よみねぇ……」

「あ、また『ねぇ』って付けた!ダメだよ、私はお姉ちゃんじゃないの、私も誠も大きくなったんだから、私のことは女の子としてあつかってよね!」


こんな風に俺に今現在馬乗りになっている女性。彼女は箕輪夜弥みのわよみ。俺を待ち伏せてドアの横に構えて突撃するほどのイタズラ好きで、天真爛漫な明るい性格。

ライトブラウンの明るい髪色をしており、その滑らかな毛先は俺の頬をくすぐる。

彼女は今年で18歳だ。そのせいか、成長しているのは背や髪の長さだけではないわけで。


「……わ、わかったから……夜弥……?ちょっと胸元隠そ?」

そう、彼女は三年前とは別人かと思うくらいに胸がご成長なさっているのだ。しかも今の服装はダボついているTシャツ。ブラに包まれている豊満な果実がわかってしまう。この体制ではなおさら。


夜弥は一瞬だけ何を言われたかわからないような顔をして、すぐにニヤリと笑った。あ、やべ。

「……へ?私に興奮するの?しちゃうの?」

ちょっとだけ頬を赤らめながら擦り寄ってくる夜弥。……やばい、股間に血が集まってきた。気付かれる。絶対このあと気まずくなる!なんとかしないと!


「こ、興奮なんかしてないし……てか、夜弥なんか顔赤いじゃん!恥ずかしいんだろ?」

「えぇ?それ、誠がいっちゃう?私、わかってるんだよ?我慢しなくていいよ?」

彼女はクスクスと笑いながら馬乗りになりながら体をスリスリと俺の体に体をこすりつけてくる。俺の股間には彼女の腰が当てられてる。

やばい……ほんとにそろそろ……


「くっ!……異能発動!!」


ブアァッ!と風の音とともに俺は通り抜けるように夜弥の高速から脱出して店の外へと駆け出した!

バタンッ!とドアを閉めてそれに寄りかかる。


「ふぅ……」

俺はため息をついてズルズルと寄りかかりながら座った。

夜弥は最近とても積極的になっている気がする。まるで何かを求めてるみたいに。……なにか欲しいのなら言ってくれればいいのに……。


それにしても……


「……きっついなぁ……これ」

俺は異能を使ったあとの倦怠感に耐えつつ、盛大なため息をついた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~箕輪夜弥視点~


三年前、私を助けてくれた彼を近くにあった喫茶店で看病した。それがここ、パルムだ。


パルムは手のひらの意味。手のひらで暖かく包み込むように守りたい。

だから私が付けたこの店の名前だ。


話を戻そう。


彼は丸一日眠ってから突然目を覚ました。目には怯えの表情を浮かべ、震えていた。私は違和感を覚えた。なぜか?


だって、私を助けてくれた時の彼はもっと鋭くて、感情が希薄で……そして、殺伐としてた。


こんな可愛らしささえも感じさせる容姿に合うような表情をするなんて考えてもいなかった。


……すみません、お姉さん、ショタコンに目覚めるかも。この潤んだ瞳がなんとも言えません。この怖いよぉって感じの表情が本当にそそられる……鼻血が……。


こほん。また脱線した。


彼は私に怯えるようにして訪ねた。

「ここはどこですか……?」

私は少し考えた。ここは実際どこでもない、ただの喫茶店だ。だから、少しだけ説明を省いてこういった。

「ここは……喫茶店よ。道端で倒れてたから私がここに運んだの」

「そう……ですか。じゃあ、あなたはぼくの親族ではないんですよね……?」

「え?……あったことないよね?」

私たちは初対面のはずだ。少なくとも、私は会ったことを知らない。

いや、だってこんな可愛らしい男子を覚えてないはず(以下略)


「へ、変なこと聞いても……いいですか?」

彼はやはり怯えるように瞳を潤わせ、上目遣いで聞いてくる。

こりゃ、男にも女にも需要ありそう、この子。

それは置いておいて、私はもちろん承諾した。

「いいよ。いうてみ?。」

少年はコクりと頷いて私に訪ねた。


「僕は……僕は、いったい誰なんですか……?」


…………。

……。…………。


そう、彼は私を助ける以前の記憶が抜け落ちていたのだ。

それはあの光の影響なのか……はたまた、別のなにかなのか……。

それは、三年間過ごしてきても一切わからなかった。


けれど、三年間の間に彼は記憶を取り戻す時があった。

いや、正確に言えばその時だけ『人格』が戻ると言った方がいいのか。


これは私の憶測だが……。

彼のその『人格』は絶体絶命のピンチの時に出てきた。彼はあの頃は今よりだいぶ弱く、絶体絶命になりやすかった。

だから結構な確率で見れたのだが、それは彼が成長するにつれ、鳴りを潜めた。

思えば私を助けてくれた、あの殺伐とした『彼』が彼なのかもしれない。


それとさっきの誘惑に関係があるか?

いや、ないに決まってるじゃない。反応がほんとに可愛いから癒されるためにしてるだけで。

ちょっと恥ずかしいけれど、あの子は変なことしないし。まだ、男子高校生特有の脂ぎった性欲ではなく、ピュアなのだ。うん、萌える。鼻血。


それはともかく。


彼は……可愛く、強く、不思議な安堵感がある少年で。

しかし、それは……いや、ここで言うのはやめておこう。悲しくなる。


しかし、一つ確信した。


彼にはもう一人『彼』がいることを




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