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3-18

「というわけで、どうする? イリス?」

「……どうするもなにもない」


 既に、遠くの空が白み始めてきた頃。

 クーデリカとイリス、共にルキエによって意識を刈り取られていた者達が向い合って相対する。


 二人は今、遊園地から少し離れた駅前の広場に来ていた。

 駅と言っても、走る電車自体が小型なので発展は少なく、人通りもまばらだ。


 二人がわざわざ、そうした場所を選んだのには理由がある。

 勿論、ルキエ出現のごたごたによってすっ飛んできた警備から逃げて来る為でもあが、本当の狙いは別にあった。

 つまり、いつ戦闘が始まっても邪魔されない為に、だ。


 風にたなびく、青と黒の髪。

 彼女達はそれまでと違い、敵を見るような目で互いを観察していた。


「……クーデリカ。……あなたは、ルキエのなかまだったの?」

「うん、言ってなかったかな?」

「……きいてない」

「そっか。まあ、ボクも君がアグレアスの仲間とは聞いてなかったから、おあいこだね」


 柔らかい口調とは裏腹に、クーデリカの目は冷たい。

 伊達に、ルキエと行動を共にしてきたわけではないのだろう。

 敵に対する態度は心得ているようだった。


 ……地上で、アグレアスがなにかやってるみたい。


 大きな魔力反応が一つ、二つ。

 片方はアグレアスだとして、もう片方は敵だろうか。

 イリスは微かに焦りを感じるが、それは目の前の相手に対してである。

 アグレアスのいない状況で、このクーデリカという少女が強敵だった場合、少し不味い。


「……あなたは、なに?」


 ルキエの仲間で、アグレアスの事を知っている。

 そして何より、魔力を身体に秘めてアグレアスを狙う少女。

 その正体は、一体何なのか?


「大した人間じゃない。一万年前、ルキエと契約して以来、いつか復活する魔王を倒す為に生きている者だ」

「……!?」


 一万年前。

 即ちそれは、アグレアスやイリス達と同じ時代を生きていた事を指す。


 しかし、それにしては魔力が少な過ぎる。

 それ程の時間を生きるならば、全盛期の魔王クラスの膨大な魔力が必要となるのだから。


「そうだね。ボクの魔力は、一万年を生きるのには余りにも少ない。だからこそ、ルキエの手助けで勇者様の魔力を借り受け、肉体を変え、定期的に人格さえも変えてきた」

「……どうして、そこまで?」

「そんなの、決まってる」


 前線で戦う一兵卒として、魔王に抗おうとした人間として。

 一万年前、とある城塞で勇者と魔王の攻防を目にした時の事。


 ただ、あの日の勇者の背中に憧れたのだと。

 もはや、親の顔すらも忘れた少女は、屈託の無い笑顔でそう言った。


「……わからない」

「だろうね。でも、勇者様の力を受け継いだ以上、ボクは魔王を倒す。それでボクは勇者様になれる」


 馬鹿みたいな話だ、とイリスは思う。

 ただの人間が努力したところで、勇者の力は御しきれない。

 その証拠に、定期的に精神を入れ替えているようではないか。

 あれでは勇者の劣化にすら届かない。


 だが、


「そう。なら、あなたはアグレアスのてき」


 イリスは認めた。

 例え魔王に傷を付けることが叶わなくても、彼女はアグレアスの敵であると。

 四天王最速を誇る、雷将イリス=リンドヴルムが認めたのだ。


 その行為をアグレアスが知れば、瞠目して驚くだろう。


「でもいまは、ティナのところへいく」

「えっ? 戦わないのかい?」

「やってもいいけど、たぶんむだ。むだなのは、きらい」

「そ、そうかい……まあ、ボクもティナの様子は気になっていたんだ。大分時間は過ぎてしまったようだけど、彼女はただの人間だし、追いつけるかもしれない」


 そう言って、二人はルキエがティナに示したアルトヒンメル最深部を目指し始めた。

 その関係性は、友達なのかもしれないし、敵なのかもしれない。

 だとしても、今この瞬間だけ利害が一致した事は確かだ。


 ……でも、ルキエはなにをしたいの? バルクラフトをもうひとりつくって、それで……。


「そういえば、ボク達は、その……と、友達という関係でいいんだろうか?」

「…………どうでもいい」

「ど、どうでもいいとは何だ!? ボクは、一万年も嫌味な男しか知り合いがいなかったんだぞ! 人格変わっても苦痛なのは苦痛だったんだっ!」

「……じゃあ、なんでいっしょにいたの? ばか?」


 と、二人が歩み始めて数秒もいかない内に、クーデリカが足を止める。

 そして、


「っ、伏せろ!!」


 と彼女が言った頃には、既にイリスも体勢を低くし、突然襲ってきた爆発の熱と衝撃に耐えていた。

 建物が崩れる轟音と、困惑した市民の悲鳴が折り重なる。


 攻撃だ。

 イリスが顔を跳ね上げ、魔獣としての感覚で敵を探り当てる。

 遠くの空、昇りかけている太陽の近く、列を成して浮かぶ航空艦隊があった。


「あれは、王国軍!?」

「……しってるの?」

「ルキエがね、なにか、こう、悪い事をしているらしい王国の軍隊なんだ、確か」

「……なにそれ」


 とはいえ、イリスにも白と金を基調とした軍隊には見覚えがある。

 アカネの故郷であるアルテリアで、アグレアスを相手に刃向かった者達だ。


「ともかく、何で彼らがここを攻撃するのかが分からない。……まあ、国の動きとか難しいから勉強してないからなんだけど。でもいいよね、勇者にそんなのいらないもんね」

「……なげやりなところが、ちょっとアグレアスににてて、はらたつ」

「でも気を付けて、イリス。どうやらボク達も無関係ではいられないようだ」


 ただの人間に魔獣が殺せるとイリスには思えないが、彼らは練度が高い軍隊のようで油断はできない。

 その証拠に、先ほどの砲撃と合わせたのか、小さな船がアルトヒンメル上空を漂い、兵士や人型の機械B-Raidを降下させている。

 そして、手にした銃火器の照準を生き残った市民に合わせ始めた。


「くそっ、あいつら、市民を殺すつもりか!」

「……え、まって」


 怒りに我を忘れたのか、クーデリカは勢いよく兵士達に突っ込んでいく。

 取り残されたイリスもそれに続こうと体を動かし、面倒事なのになんだかんだ付き合ってしまう自分に気づき、友達という言葉を呪うのだった。

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