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3-2 最新の魔女



 少女がいた。

 ツーサイドアップにした髪を奇妙な形の帽子で隠し、黒い外套のような衣装を羽織った少女だ。

 年齢は十二歳といったところだろう。

 それだけでも随分と奇抜な出で立ちであったが、彼女を取り囲む数十枚の投影板ホロ・フレームと時折起こる、彼女の姿がジジジと不自然に歪むノイズのような現象が更に異常さを高めていた。

 彼女は朝焼けに照らされてゆく、人気ひとけのない都市の道路を歩いている。


 「アルトヒンメル」。

 この地でしか採れない希少な鉱物を採掘、加工し、王都へ輸出する事を収入の大半にしている都市だ。

 その規模の大きさから、さぞかし裕福な都市なのだろうと憶測を生む事もあるが、実際には違う。

 王都側から圧力をかけられ、不当に少ない利益しか得られていないのだ。

 それだけならよかった。

 それだけなら、まだ市民の鬱憤も溜まらなかっただろう。


「……汚染、だよね」


 呟くと同時、音がした。

 見ると、灰色の作業服を着た男が簡素なコンクリート製の家から出て来ているところだ。

 ぱっと見ただけでは普通の、少し元気の無い男だが、よく身体を観察すればこの街の人間の特異さが分かる。

 義体だ。

 彼は、全身を機械に置き換えていた。


 アルトヒンメルでは特に変わった事ではない。

 地上で行われる鉱物の採掘作業、又は加工に際して汚染の影響で死ぬ事を防いでいるのだ。

 汚染は、その原因が不明とされている。

 風に乗る事もなく、ただこの北の大地に立とうとする者だけを蝕む病。

 根本的な解決は出来ず、ただ義体化する事で延命をしているに過ぎない。

 それだけ危険ならば、やめてしまえばいいとの意見も度々出ていたが、そういうわけにもいかないのだ。


(……やめるにはコストを掛けすぎた、そもそもやめたら収入が無くなる、だっけ? これ、結構マズいと思うな)


 少女は思うが、今度は口に出さない。

 先程の作業服の男に接近しているからだ。

 彼は、少女の出で立ちと異様な雰囲気に驚き、固まっている。

 恐らく、幽霊でも見ているとでも思っているのだろうか。


「ごめんね、おじさん。この女性に見覚えはありますか?」

「ね、ねぇよ。なんなんだアンタ、他所者か? 義体化もしてねぇみたいだし、それに───」

「……そっか。どうもありがとうございました! えっと、それでね、ティナの事は忘れて下さいっ。お願いします!」


 お願いと言いつつ、彼女は男の頭に手を伸ばす。

 そして、幾枚もの投影板ホロ・フレームが男の頭部を取り囲んだ。


「なんだこれ、オイ! 離れろ!」

「ティナは貴方の電脳をハッキングしています。40……70……100%完了。ティナは貴方の電脳を掌握しました」


 そして、男は棒立ちのまま動かなくなる。 

 死んではいない。 

 ただ、記憶を削除(del)された反動で数分の間、フリーズしているだけだ。


「うーん、ここも駄目だったかぁ。ティナ、そろそろ自信なくすなぁ」


 肩を落とし、ティナと自称する少女は手を横に振る。

 すると、彼女の身体がノイズに包まれ、周囲と同化し、やがて消えてしまった。


 静けさを取り戻した街。

 しかし、一つの声が代わりという風に響きわたった。


『浮遊都市、アルトヒンメルが朝をお伝え致します。皆様、お早う御座います』


 浮遊都市。

 その名の通り、アルトヒンメルは空に浮かぶ都市である。

 全長数キロに及ぶ半球状の巨体が、重力の制御技術によって支えられているのだ。

 そして、都市を一望できるホテルに、一人の少女が佇んでいた。

 着ている衣服は違えど、先程作業服の男と会話した少女であると顔から判断できる。


 彼女はティナ。

 機械制御に特化した、「最後にして最新の魔女」である。

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