あらすじ(第1話から第2話まで)+外伝1
◇第一話「魔王転生」
世界を征服せんとした魔王アグレアスは、勇者達の手により倒された。
しかし、それから一万年後の未来にて、奴隷の少年レオとしてこの世に蘇る。
同じく奴隷として売られる直前であった少女、エリナに話を聞いてみると、どうやら自分の名前は忘れられてしまっているらしい。
しかも、かつて魔王城があった場所は勇者達に接収され、ヴェルセリオン王国の首都となってしまっているのだ。
憤る魔王だったが、奴隷を買おうとしていた荒くれ者達が集結し、今にも襲いかからんとしていた。
これは面白い、と魔王はエリナを手早く自分の家来にし、魔法を用いて迎撃に向かう。
それに立ち塞がったのは、人型機械ブレイド(B-Raid)。
剣の名を冠する未知の脅威に魔王アグレアスは興奮し、歓喜した。
そして、銃火を掻い潜り、魔法を以ってブレイドを撃破したアグレアスは宣言する。
この未来で……一度は失敗した、人類世界の征服を。
◇第二話「魔力黎明」
奴隷商ボルドーの家から、西の王属都市アルテリア(の中心にあるベイン・タワー)へ向かったアグレアスとエリナ。
全ては自身の力の欠片を宿した配下、四天王の一人が封印された石像へ向かう為だ。
街中に墜落するトラブルに見舞われたり、市民を管理するチップを挿入する激痛に襲われたり、エリナが魔法を使えるようにしたりしつつも、アグレアスはなんとか徒歩でベイン・タワー付近へと到着する。
しかし、そこで自動車事故の現場に遭遇し、重症ながらも人目につかない場所に逃げようとする少女と、それを追うように現れた赤いシンボルを身に付けた男達と出会う。
バレット・ドレスと呼ばれる機械の鎧に驚きつつも、アグレアスは難なく彼らを撃退したが、事態は不明だ。
そこで、重症を負った少女、アカネを魔法で回復させてみると、どうやら彼女はアルテリア防衛部隊のリーダーであるらしい。
ちょうど同じ頃、広場のテレビではベイン・タワーを占拠し、政治家達を人質にした赤い服の集団による宣戦布告が放送されていた。
彼らは人民軍と名乗り、そのリーダーは防衛部隊の元リーダー、コルネリウスと言う。
つまり、アカネは彼らの武装蜂起の大義名分の為に暗殺されかけたのだ。
紆余曲折あって魔王の配下となったアカネは、彼らと共にベイン・タワーを目指す事に。
鹵獲した人民軍のブレイド(B-Raid)にエリナが乗り込み、タワーへ突入。
その隙を突く事によって、アグレアスとアカネも潜入を果たした。
エリナの奮戦を他所に、アグレアスらは最上階へ辿り着き、一人目の四天王の封印を解除する。
そして、碧眼の少女、イリス・リンドヴルムから力の欠片を受け取ったところで、彼らはアカネのピンチを知った。
なんと、防衛部隊の副隊長と一緒にコルネリウスによって処刑されそうになっているのだ。
アグレアスは最上階から飛び降り、雷を操る巨大な虎へ変身したイリスと共に人民軍を蹂躙する。
同時、防衛部隊も人民軍を殲滅する為に動き出し、コルネリウスの野望は潰えたかのように思えた。
しかし、彼は諦めず、アグレアスと対峙する。
その戦意をアグレアスは褒め称え、容赦なく殺害する事に成功。
こうして人民軍による武装蜂起は鎮圧され、四天王の一人、雷虎イリスが仲間となった。
事態は大団円を迎えたかのように思われたが、唐突に一人の少女が出現する。
天使のような翼を持つ少女、一万年前に死んだはずのアグレアスの同胞、シェリエル=ラシェーラだ。
「寿命によって世界が滅ぶ」と述べた彼女は、世界を救う為にこれから暗躍すると言う。
言うだけ言って消えたシェリエルの言葉にアグレアスはブチ切れ、必ずシェリエルの思惑をぶち壊し、王国も壊す事を約束した。
かくして、魔王率いる武装組織「ヴェルメリオ」の結成が為されたのである。
◇外伝「イリスの生態」
「隊長、お届け物であります!」
ゲッコーにて。
アカネの部屋に、威勢の良い声が響いた。
雑用を任せている隊員の一人だ。
彼の手には、封筒に包まれた何やら薄い荷物。
「ええ、ご苦労様」
テキトーに労って、アカネは荷物を受け取った。
隊員は深く一礼し、退室する。
しかし、そこで妙な事に気付く。
どうも封筒の表面を見ると、通信販売の届け物であるらしいのだが、アカネは何かを購入した覚えがなかった。
とはいえ、最近すっかり自分の部屋を占拠している者達の仕業かとも思い、そそくさと封を開ける。
開ける事に躊躇いが無いのは、そもそも見られて困る物をアカネの部屋に届けさせる事が悪いという考えあってだ。
簡素な包を取り払うと、映像ディスク販売ショップの文字が刻まれたパッケージ。
そして、中には一枚のディスク。
「……今時ディスクって。それ用の端末あったかしら」
机の中身をがさごそと探すと、どうにかディスク挿入口のある情報端末を発見出来た。
この手の端末は、時代遅れとなってから随分経つ。
しかし、部屋を和室としてから、変わったものを集めるのが趣味となったアカネは密かに購入していたのだ。
机にディスプレイとマウスを設置し、ディスクを挿入する。
静かな音と共に、ディスク表面の情報が読み込まれ、再生が始まった。
「中身はなんなのかしら、ていうか誰が発注したの? この部屋に入り浸ってる誰かさんなんでしょうけど………って」
映像は、確かに再生されている。
やたらと淫靡なワードを組み合わせたタイトルと、女性のインタビューから始まる序盤。
そして、面白くもない茶番から続いて、おもむろに服を脱ぎ出し、男性に色々な部分を見せつけていく。
それは誰がどう見ても、
(……AVだわ、これ!)
「……しかも、素人ソープもの。……業が深いわね」
一体、これは誰の仕業なのか。
そう考えたところで、ある一人の人物の顔が浮かぶ。
アグレアスだ。
彼はアカネの部屋で暮らしている人間の中で、唯一の男性なのである。
「あの征服馬鹿にも、性欲があったのかしら……まあ、無いって事は無いんでしょうけど」
それにしても、とアカネは画面に映る女性を観察した。
巨乳、しかも高身長だ。
片方しか持っていない自分としては、やや認め難い絵面である。
「くっ、やはり身長なの? ある程度身長が無いと駄目なのね!? 大人に見えないのね!?」
疑問するが答える者はいない。
当然だ、この部屋には現在、アカネしかいないのだから。
「……なるほど。それが、だんせいのせーよくをたかめるアイテム」
「って、イリス!? いつからそこに!?」
振り向けば、淡い青の髪を揺らす猫耳幼女、イリス=リンドヴルムがアカネの肩越しに動画を覗いていた。
眠たげに垂れている碧眼は、じっと動画に映る女性を見ている。
「……さっきからいた」
全く気付かなかった。
原因は、独特な存在感の無さのせいだろう。
大方、アグレアスらが勝手に引っ張りだした毛布にくるまって寝ていたのだろうが。
「ええとね、イリス。あなたに、こういうのはちょっと早いというか……」
「……? ……イリスは、そんなにこどもじゃないよ?」
小首を傾げて不思議がる彼女は、どう見てもかなり子供なのだが。
それにしてはAVを見ても動じない辺り、見習いたいくらい落ち着いている。
最近の子供という奴は、誰も彼も大人びているものなんだろうか。破廉恥な。
いや待て、とそこでアカネは頭を抱える。
(……この子、年齢はいくつなの?)
外見上は完全に幼女、男性が迂闊に声を掛ければ逮捕されてタグを剥奪されるレベルだが、彼女は魔獣だ。
コルネリウス率いる人民軍を打倒した時、巨大な虎に変身した姿をアカネは確かに目撃していた。
外見と中身は必ずしも一致しない。
特に、アグレアスとかあの辺は。
「……このおんなのひとは、なんで、からだでおとこのひとをあらってるの?」
「えーとね、スポンジとかがその場に無かったのよ、きっと! さもなきゃ、そういう特技よ!」
「……なるほど。……これが、エコ」
「まあ、エロと語感が似てるからセーフね! エロセーフよ!」
何がセーフなのかは、言ってるアカネも分からない。
完全に錯乱していた。
ともかく、ここは一度クールダウンして、正面から聞いてみるべきだろう。
ということで、食い入るようにAVを見つめるイリスを引き剥がし、畳の上に敷かれた座布団に座らせる。
そして、自身もイリスの対面に座った。
「……なに?」
「イリス。その、聞きたい事があるのだけれど……あなたは、何歳なの?」
「………………それは、むずかしいしつもん」
いつもの三倍程沈黙してから、ゆっくりと答える。
「……うまれたのは、ずっとまえ。だけど、いきていたのはすこし」
「――――ああ、そういう」
要するに、誕生日的には一万何百歳だが、実際に生きた時間は少ないのだ。
長いこと封印されていた事による弊害と言えよう。
「……そう、ざっとひゃくねんくらい、いきてた」
「うん、それ少しじゃないわ。あたしの十倍生きてるわ」
「……そう? まじゅうにとっては、ひゃくねんはすこし」
「うーん、カルチャーショックねぇ……というか、少し羨ましい」
こちとら、十九歳にもなって身長の計測結果に胸をときめかせているのだ。
そのくらい人生に余裕がある方が悩みは少なくていい。
「そうでもない……!」
唐突に、拳をぎゅっと握って力説しだすイリス。
いつも通り眠そうながらも、勢い良く眉を立てている。
「な、なによ、珍しく大きい声出して」
「……アカネには、おおきなむねがある。むねはだいじ。アグレアスがまえに、シェリエルのむねはうすいといって、おこられてた」
「それはまた自業自得というか、勇者に敗北待ったなしというか。……やっぱりあいつも、そういうの気にするのかしら」
魔王は色々と人間ではないが、性別はオスだ。
ならば、そういうところに興味があっても不思議ではない。
(……それにしては、手を出す様子が無いのよね)
婚約者騒動の後、二人の時はレオと呼ぶようにしてみたものの、彼に反応は無い。
やはり、アカネは俺のものとは、単に配下に向けたものだったのだろうか。
「……きっと、アグレアスもおーきなひとがすき」
「っていうか、イリスはそのへん変身する時にどうにかならないの? 虎の方が正体なんでしょ?」
「……まりょくのこんとろーるは、にがて」
ということらしい。
どうやら、四天王の中で一番コントロールがへなちょこなのがイリスなようだ。
確かに先日の戦闘を見ても、雷をぶつけたり溶断させたり、単純な攻撃しかしていなかった。
反対に、シャロンという女性が魔力コントロールを得意とするんだとか。
「……シャロンのむねは、ちょっとおおきい。シャロンをふっかつさせるまえに、すこしでもせいちょうしないと」
百年でこれだけしか成長してないのが、これから急成長するとかあり得るのか、などとアカネは思う。
しかし、イリスはなにやら胸を強調するポーズを取ったり、やけに扇情的なポーズを試している。
ひらひらとした民族的な衣装がめくれ、大変に危なっかしい。
「何してんのよ?」
「……てれびでやってた、だんせいがみとれる」
「それこそ、魔法を使う方が手っ取り早いんじゃないかしらね……」
「なんだ、魔法を習いたくなったのか、アカネよ?」
響く声に目を向ければ、ちょうどアグレアスがドアから入ってきたところだった。
手にはお菓子の袋と思わしきものが握られ、続いて入ってきたエリナも同様だ。
「あんた達は、まーた食料班から餌付けされてきて……」
「まあ、そう怒るなアカネ。わざわざ四人でつまめるものをオーダーしてきたのでな。……む、どうしたイリスよ?」
訝しげなアグレアスの目線を追うと、頬を赤く染めたイリスの姿が。
先程まで取っていた珍妙なポーズはどこへやら、何故か正座で俯いていた。
手は服の裾を掴み、目は恥ずかしげに伏せられている。
これはつまり……。
「えっ、そこで恥ずかしがるのイリス!?」
これまた記憶が確かなら、封印から開放された際にいきなりキスを敢行していたはずだ。
しかし、あの時はイリスが手でアグレアスの目を覆っていた。
まさかとは思うが、見られるのが恥ずかしいのだろうか?
「……みられるのは、やだ」
どうやら本当にそういう事らしい。
そういう問題じゃないとか、カルチャーショックとか、アカネ的に色々ある事はあったがとりあえず、
「なんか色々面倒くさいから、イリスはそのまま子供でいいと思う……」
◇
「……いやしかし、隊長があんなものを頼むとはな」
「……やっぱり、気にしてるのかな、身長」
「最高だ」
余談だが、その後、アグレアスがアカネ名義でAVを発注していた真実が隊員に広まるには、かなりの時間を要したという。




