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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
番外編 「魔王、婚約者になる」
58/83

2.5-7

「そりゃあ、こんな騒ぎが起きても全く動かない人がいればね」


 騒然としたレストランに居合わせた老人の身体が歪曲した。

 老人から、金髪の青年へ変貌する。


 アグレアスだ。

 恐らく、何らかの魔法だろう。


 実のところ、自信たっぷりな言動とは裏腹に、半信半疑であったのだが賭けには勝ったようである。

 案外、アカネもギャンブラーの素質があるのかもしれない。


「ぐっ、お前は……一体……!」


 床に激しく叩きつけられた人民軍残党の男が、這ったまま呻く。

 そして、転がっている銃へと手を伸ばすが、アグレアスの足が無常にも腕ごと踏み抜く。

 メキメキと凄まじい音を立てて、男の腕が床へ縫い止められた。


「ぐあぁぁぁああ!?」

「静かにせんか、他人に迷惑だろう」


 顔をしかめて、魔力の弾丸で綺麗に意識を刈り取る。

 人民軍であった者達は全員、行動不能となってしまった。


 安全が確保されたのを確認し、アカネは元防衛部隊副隊長であるディクソンへ連絡する。

 すぐにこちらへ、店外で待機していた人員が送られてくるそうだ(無駄に格式張った店であった為、入れてくれなかったのだ)。


「それで、結論は出たか?」

 アグレアスは黒いスーツを軽くはたき、アカネへと顔を向ける。

 その眼差しは決して礼儀正しいとは言えなかったが、相手の本質を見ようとするものであった。

 生半可な答えは許されないだろう。


「考えてみて、一つ分かった。あたしは安全なところで黙っているのなんて、死んでも御免。最後の瞬間まで、誰かの為に戦っていたい」

「……つまり?」


 彼の問い掛けには答えず、アカネは未だに怯えているブランドンへ笑みを見せる。

 嘲笑ではなく、さっぱりとした気持ちのいい笑顔だ。


「ごめんなさい、ブランドンさん。あたし、好きな人がいるの。だから、貴方とは結婚出来ません」


 そうして、アカネは店を跡にした。

 憐れに震える、自分の命は賭けられない男を残して。


 なお、勘定は全てブランドンのものとなった。




「本当に、あの男と結婚しなくて良かったのか?」

「なによ、やけにしつこいわね……!」


 帰り道、ネオンが照らす街中をアグレアス達は歩いていた。

 夜遅くという事もあって人通りはまばらだが、護衛は付けていない。

 彼さえいれば、不要であるからだ。


「ブランドンという男。小物ではあるが、力が無いわけではない。あやつは安全を与えてくれるはずだ。俺と共に来るならば、確かに夢は叶うが相応の危険に見舞われるだろう」


 なるほど。

 この男はこの男で、新しい部下を作る事に思うところがあるのかもしれない。


 エリナの扱いの雑さが気にならないわけでもないが、恐らくそういう事だろう。

 また、喪失するかもしれない、と考えているわけだ。

 どうやら、魔王自身はその事に気付いていないようではあるが。


「……その時は、助けてくれないの?」


 疑問してみる。

 危険は承知の上であるという返事を考えておきながら、アカネは敢えてそう聞いてみた。

 小さな、期待を載せて。


「いや、助けるとも。アカネが望めば、俺は何度であろうと貴様の命を救ってやる」


 即答であった。


 あらかじめ用意してあったわけでもない。

 本心からそう思っている事が伝わる、そんな言葉。


 ふと頭に重みを感じて目線を上げれば、アグレアスの端正な顔が目に大きく映った。

 アカネは慌てて顔を伏せ、これまた大きな胸を手で抑える。


(……こんなの反則よ、ばか)


 実際に、幾度となく命を救われているのだ。

 その上で、頭に手を載せられてそんな事を言われれば、顔が熱くもなる。

 それに、


「……うん。あたし、あんたが好きなのね」

「急にどうした? まあ俺は魔王だからな、魅了されてしまうのも仕方あるまい」


 全くもって、その通り。

 アカネは思う。


 命を救われ、これからも救っていくと言われた程度でこんなにも好きを自覚してしまうのだから。

 本当に、なんてタチの悪い魔法。


「さぁさぁ、帰りましょう! …………え、と」


 気分的には腕を組んでもらいたいところだが、アカネとアグレアスの身長差的にそれでは大分キツい。

 よって、アカネは苦肉の策を立てることとなった。


「えっと、もうちょっと、頭を撫でてもいいのよ……?」

「ふむ? そうか」

「そうよ。……あたしは、あんたのものなんでしょ?」


 二人は寄り添い、夜の街を歩く。


 今宵、少女は生まれて初めて恋をした。


「ねぇ」

「なんだ?」

「寝てる部屋が不満なら、あたしの部屋……使う?」


 アカネはそっぽを向いたまま、尋ねる。 

 小さな身体は、心なしか歩幅を大きくしていく。

 火照った肌に、夜風が吹いた。


「……ワシツか。布団というものも気になるし、いいだろう。今夜からはアカネの部屋で寝泊りさせてもらう事としよう」

「こ、こここ今夜!? そ、そう……ふーん?」

「何故、言ってから動揺するのだ……?」


 この時、少女はまだ知らない。

 アカネの部屋で寝泊まりするのが、アグレアスだけではなくエリナとイリスも一緒にであるという事を。



番外編 「魔王、婚約者になる」

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