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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
番外編 「魔王、婚約者になる」
57/83

2.5-6

 夜も更け、一通りの娯楽施設を堪能した頃、アグレアスが唐突に切り出した。


「さて、俺は一足先に帰るとしよう」

「えっ」


 アカネは驚く。

 先ほどから、何か考え事をしているような所作は見せていた。

 しかし、まさか帰還を口にするとは。

 やはり、あの勝負を中断したのがよくなかったのだろうか。


「レオ? どうしたの?」

「カジノではああ言ったが、貴様も自分の意思の再確認というやつをやってみろ。その選択で、本当に間違っていないのか?」

「当たり前でしょ! だからあたしは、あんたに頭下げて───」


 全くもって度し難い。

 一体何を言い出すのかと思ったら、そんな事とは。 

 怒るアカネに対し、アグレアスは静かに告げる。


「だが、今ならまだ引き返せる。今ならば、まだ。引き返したいとは、思わんか?」

「それは……」


 アカネが答えるより早く、彼はきびすを返してしまう。

 その間際、見えた表情にはいつものふざけた様子が感じられない。


「行くぞ、エリナ」

「ええっ、私もですか!? もっと動物とか見たかったなぁ……」


 名残惜しそうにするエリナと共に、二人の姿は遠ざかっていった。

 意思の確認。

 そんな言葉を残して。


「ちょ、待っ……!」


 ネオン煌めく観光街に、伸ばした手が虚しく空を切った。



 その後、ブランドンが手配していた高級料理店にアカネ達は訪れた。

 料理が振る舞われる中も、彼女の顔は硬い。

 アグレアスの言葉を気にしているのだ。

 見かねたように、ブランドンが声を掛ける。


「ところで、アカネさんは本当に彼と結婚を考えているのですか?」

「へ? そ、そうですよ!?」

「……なるほど。では、そういう事にしましょう」


 バレていたか。

 まあ、仕方がない。

 そもそも、歳が歳だ。

 最近では、年少の者の権利も随分と拡大されてきたものの、二人のやり取りはそうした雰囲気を感じさせるものではなかった。

 ……ように、思う。


「アカネさん」

「え?」


 考え事に耽っていたアカネに声が掛けられる。

 首を戻すと、壮年の男の真剣な顔が映った。


「レオさんよりも、私の方がお金を持っていますし、より安全で快適な暮らしを提供する事が出来ます。それに、お母様方の印象もあるでしょう」

「……それって、プロポーズですか?」

「ええ、そう受け取ってもらって構いません」


 利益のアピールだ。

 実に彼らしい、損得を重視した言葉である。


「でも、あたしには」

「レオさんがいる、と? お言葉ですが、貴方は彼のどこを愛しているのですか? 顔ですか、名誉ですか、それとも財産?」


 矢継ぎ早に、ブランドンはまくし立てる。

 その様子には、微かな軽蔑が込められていた。


(……なんだか、むかつく)


 素直に、そう思った。

 そして、どうしてとも思う。

 どうしてこんなに、自分は腹を立てているのか。

 強引で、常識外れで、喧嘩早くて、いつも偉そうにしているアグレアスを貶されるのがどうしてこうも嫌なのか。

 それも、泣きたくなるくらいに。


(……いいえ、本当は分かってる。あいつが命の恩人で、あいつがあたしにとって……)


「……失敬。私とした事が、つい熱くなりすぎました。おい、君」


 ブランドンが店員を呼び止め、何事か注文をつけようとする。

 店員の男は恭しくアカネ達の座るテーブルまで近づいてくるが、様子が変だ。

 彼の後ろを、唐突に席を立った何人かの男女が付いていくのである。


「な、なんだ……?」


 訝しげな声を上げるブランドンだったが、店員達は彼を見ていない。

 彼らが注視しているのは、彼の目の前に座る赤髪の少女だ。

 即ち、


「元防衛部隊隊長のアカネ・アンキエールだな?」

「……そうだけど」


 不機嫌そうに答えた彼女を確認し、男達は一斉に投影板を表示、操作した。

 すると、バリバリという音ともに空間投影されていたカモフラージュが解除され、本当の姿がレストランに現れる。

 赤い布を体に巻き付けた、複数人の集団だ。


「俺達は人民軍だ! 貴様を殺して、指揮官殿の仇を───」

「御託は結構よ」


 アカネはテーブルに並べられていたナイフを右手で掴み、間近にいた店員を装っていた男に投げつける。

 それも、顔に。

 銀製の刃物は正確に男の目を抉り、癒えぬ傷跡を残した。


「ぐあっ!?」


 まず、一人。

 現れた人民軍は男三人、女二人の計五人グループだ。

 赤い布以外にこれといった統一感は無く、服の種類はバラバラである。

 一人減って四人残っているが、テーブル上にはナイフがあと一本しかない。

 そうこうしている内に、彼らは胸元に隠した銃器を取り出そうとしていた。


「そいやっ!」


 仕方なく、アカネは投げつけるものを変更する。

 ナイフではなく、熱々のスープに。

 無論、アカネの手も熱が鋭い痛みを刺してきたが、不思議と気にならなかった。

 投じられた熱湯は赤いマフラを巻いた男に降りかかる。

 もんどりうって床に転がった男に、もはや銃を使う事は出来ないだろう。

 さて、次、と思考を巡らせた時、一発の銃弾が彼女の頬を掠めた。


「ひぃっ!? う、撃たないでくれ! 金なら出す!」


 悲鳴を上げたのはブランドンだ。

 釣られて、周りの客も甲高い声で口々に叫びはじめる。


「くそっ! 動くんじゃねぇ! いいかアンキエールさんよ、てめぇを殺す映像を流してやらなきゃ俺らは気が済まねぇんだよ」

「……ごめんなさい」

「あぁ!? 今更謝ったって、てめぇをぶち犯して殺すのは決定事項なんだよ!」


 違う。

 謝ったのは、彼らにではない。

 アカネは、自分だけの力では人民軍残党を倒し切る事も出来ず、結局彼の力を頼りにするしか無い事を再認識したのだ。

 つまり、彼女が謝ったのは、


 

「……ごめん、アグレアス」

「あ? てめぇ、何を言って……!」

「───バレていたのか」


 声と共に衝撃波が放たれ、人民軍の男達の身体をまとめて吹き飛ばした。

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