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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
番外編 「魔王、婚約者になる」
55/83

2.5-4

 アカネ達はきらびやかな照明に照らされた店内に、足を踏み入れる。

 一喜一憂する人の声が混ざり合い、BGMとなって心をざわめかせた。

 そして、入り口脇に掲げられた企業名を見て、はたと立ち止まる。


「『クーパーズ・リゾーツ』……えっと、失礼、ブランドンさんのお名前って確か……」

「ブランドン・クーパー。ええ、このカジノは私の企業グループの傘下ですよ?」


 すなわち、グランドオーナー。

 これはまずい。

 このカジノの人間は全て、彼の味方をするだろう。

 そうなれば、一体幾らの損失をアグレアスが被る事になるか。


「レオ、ここは退きましょう……! このカジノは敵地のど真ん中だわ……!」

「問題ない。むしろ、燃えてくるではないか」

「あんたの借金払う事になるのは、あたしなんだからね……!」


 突っ込むものの、何故か自信満々のアグレアスに押されて、アカネ達はルーレットの前へと辿り着く。

 ディーラーの男も、顔を見せたオーナーに全く驚く事なく、恭しく一礼をしてみせた。

 二人の貸し切り状態である事からも察せられるが、やはり、最初からこの場所へ来る可能性は伝えられていたようだ。

 更にいうと、勝負もするつもりだったらしい。

 アグレアスの姿を観察してから切り出したという事は、仕掛けていい相手かどうか見定めた、というわけだ。


「さて、タグで支払う事も出来ますが」

「そうしよう」


 流石に人民軍との取引が発覚したハイネ・アインナッシュの資産を使うわけにもいかず、名義はそのままに「ヴェルメリオ」に分配した予算の一部をあてがっている(ハイネの資産自体は別途、回収していたが)。

 つまり、軍事費のようなものだ。

 ルーレットにおいて、全プレイヤーが負けてカジノ側が勝つ率は高い。

 しかし、仮にそうなってもブランドンは損失を被らないのだ。

 賭けの成功額の大きさの競争に、ルーレットを選んだ時点で敗北は決定したとさえ言える。

 アカネ達としては賭け金を必要最小限に抑えたいところだが、相手は富豪。

 張り合う為にはゼロの個数がかなり多くなってしまい、アカネは目の前が暗くなりそうであった。


(ああ、ディクソンに怒られちゃう……)


 元副隊長の顔を思い浮かべ、カタカタと身を震わせる。

 対照的に、男達二人は楽しそうに笑みを浮かべていた。

 ……そういえば、先程からエリナの姿が見えないが、単独行動が好きなのだろうか。

 オーナーが来ていると聞いて集まったのか、いつからか増えたギャラリーに遮られて、彼女の姿は見えなくなっていた。


「言い忘れていましたが、イカサマ等はいたしませんよ。最新鋭の振動感知システムや各種光学カメラによって見張られていますからね。それに、私は賭け事が得意な方でして」


 ブランドンはそう言うが、オーナーである彼ならば抜け道も知っていよう。

 あるいは本当にイカサマをしないとしても、カジノ素人のアグレアスが勝てる相手ではない。


「それは結構。強者を潰すからこそ、勝負というものは面白い」

「ほう……。では、お見せしましょう、私の強運という奴を」


 そして、賭け(ベット)の開始を知らせるベルをディーラーが鳴らし、ギャンブルが始まった。

 赤と黒の二つに別れた三十八個の数字が刻まれたテーブルに、チップが置かれる。

 ブランドンは赤色の数字である事に賭けたようだ。

 当たれば賭け金は二倍、順当な賭け方と言える。

 対してアグレアスは、反対の黒にチップを置いた。

 無謀な賭けを挑まなかった事に、ひとまずアカネは胸を撫で下ろす。

 そうしている内に、円盤ホイールがディーラーの手で回され、ボールが投げ入れられる。


「レオさん、変更は?」

「いや、特には」

「では、私も」


 二人は変更をせず、そのままいくようだ。

 そして賭けの変更の受付が宣告され、後はボールの行く末を見守るだけになる。

 緊張の瞬間だ。

 負ければ「ヴェルメリオ」が大きな損失を被る事になる。

 絶対に負けてはならない。

 やがてボールの勢いが減り、何度か円盤ホイールの中を跳ねた後、赤い七が記されたポケットに落ちる……かとおもいきや、少し逸れて黒い二十八が記されたポケットに落ちた。

 ギリギリでアグレアス達の勝利である。


「ふ、ふぅ……死ぬかと思ったわ。さあ、レオ! 違うゲームにしましょ、これでは分が悪いわ!」

「いや、このままでいこう」

「ちょっと!?」

「ははは、勢いが良いのは好きですが、いささか無謀が過ぎますね」


 ブランドンの言う通りだ。

 ここはもっと、プレイヤーの勝率が高い別のゲームに変えるべきだろう。

 ブランドンとの勝負に負ける確率はあまり変わらないが、損失は抑えられるからだ。

 アカネは思う。

 婚約する事になったとしても、自分以外が被害を受けないならその方が、と。

 しかし、


「俺は、アカネを貴様にやるつもりは無い」

「……な」


 一瞬にして、アカネの顔が赤く染まる。

 ギャラリーの方も大体の事情を察したのか、大きな歓声と野次を上げた。


「な、何を言って……!? あ、あたしはあんたのものじゃ……いや、そうだけど! なんかその、恥ずかしいっていうか……!」

「何を恥じる必要がある。アカネは俺のものだ、そう決めた」

「ひぅ……!」


 胸を抑えて、アカネはよろめく。

 地面の感覚が無い。

 それに、顔から火が出そうだ。

 今ならば、魔法が使えるやもしれない。

 そう思ってしまうくらい恥ずかしくて、心臓が暴れてしまう。

 けれど、理由はそれだけではない。

 嬉しい、と。

 確かな喜びを感じていたからだ。


「……挑戦的な言葉ですね、レオさん」

「挑戦? いや、断定だ」

「……今は、言わせておきましょう。しかし、勝負はこれからですよ」


 ブランドンの言葉と共に、ゲームが再び開始された。

 実際、彼の手際を見ると賭けの才能はあるのだろう。

 アグレアスの素人感が漂うものと比べてみてはっきりと分かる。

 そして、幾度のゲームが繰り返された。


 アカネは初めに、アグレアスのボロ負けになると予想していた。

 アグレアス自身もまた、競い合えばカジノ側にもブランドンにも負けると分かっていただろう。

 ……ただし、まともにやり合えばの話だが。


「な、何故だ……!? こんな、どうしてここまで勝っていられるんです!?」


 都合、十数回。

 繰り返されたゲームの中で、アグレアスはその全てに勝利を収めていた。

 ブランドンも一緒に勝つ場合もあったが、店に金がいかない以上、彼としては損失だ。

 アグレアスの賭けた配当が二倍や三倍など低い事がせめてもの救いと言える。


「……そういう事ね」


 魔法だ。

 手から炎を出したり、素手で鋼鉄を潰したり出来る彼にとって、目の前の小さなボールを動かす事など赤子の手を捻るようなものである。

 とはいえ、それを周囲に怪しまれないような軌道で行っているのだから、彼の魔法の技術もかなり高いのだろう。


「……ぐっ!」


 ブランドンは慌ててディーラーに目線を飛ばすが、男は青ざめた顔を横に振った。

 振動感知装置とやらも警報を発していない。

 それもそのはずだ。

 魔法を使ったイカサマなど、機械に分かるはずもないのだから。


「ふはは! どうした? 強運を見せるのだろう? さあ、早く見せてくれ、人間!」


 勝負の趨勢は、既に決していた。

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