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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
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2-45 誰がための号砲

And...



 部屋があった。

 ひと目で地位の高い者が住むと分かる、豪奢ごうしゃな私室だ。

 ベッドから食器の一つ一つに至るまで、調度品の全てが一級品で揃えられている。

 しかし、持ち主の雰囲気はその部屋に不釣り合いであった。


「…………」


 椅子に腰掛け、投影板ホロ・フレームを前と左右の三方向に配置し、流れる情報に目を通す。

 時折、指で触れて印を付ける事も忘れない。

 そうした動作の全てが俊敏で、王族らしからぬ鋭さを持っているのだ。


(……王族、などという事をいつまでやっているつもりなのでしょう)


 旧態然とした状況に呆れるものの、決定的な違和感には繋がらない。

 技術と国家の仕組みとの差異。

 先進都市の中の古風な王国という、歪な存在に対する違和感に、だ。

 無理もない。

 彼女がどのような人間であれ、人間である以上、そうした事に気付くのは不可能なのだから。


(……各地の反王国武装勢力の蜂起、私にも責任の一端が無いわけでもありません)


 彼女はいわゆる、王女というポジションだ。

 現国王エドガーの一人娘であり、継承権第一位としてそれなりの権力を生まれた時から保持している。

 だが、彼女はそれに甘える事なく、自ら率先してコネクションを増やし、発言権を高めてきた。

 目的はただ一つ、この国、ヴェルセリオン王国をより良くする為である。

 しかしその為には、愚かな対外政策ばかりを重視し、軍部の増長を許す自らの父親をどうにか動かさなければならない。

 王女であり、権力を有する彼女ならばそれが出来るはずだった。


(……あの男、マルコムさえいなければ)


 マルコム・フォード。

 大陸全土に信者を抱える巨大宗教、「クロス教」の運営者であり、国王エドガーが重用して止まない側近中の側近だ。

 どうにも国王を傀儡にしようとしているらしく、その目論見は既にほとんど成功していた。

 彼の権威は王女を遥かに凌ぎ、教会派、あるいはマルコム派として頂点に君臨している。


「はぁ、私はどうすれば……ん……?」


 溜息を吐いたところで、気付く。

 また一つ、新たな武装勢力が声明を発表するようだ。

 しかもテキストだけではなく、映像として配信させている。

 なかなか手の込んだ作りだが、一体どこの組織なのだろうか。


『───我々は、アルテリアの意思を代表する者達だ』


 ご丁寧な事に、最初から名乗り出てくれた。

 言われてみれば、声を発したスーツ姿の金髪男以外の二人、椅子に腰掛けて身を固まらせている老人達にも見覚えがある。

 彼らは確か、王族都市アルテリアに住む親王国派の重役だったはずだが、どのような脅迫を受けたのか。

 今となっては王国を批判し、戦う事を奨励していた。


『───以上のように、我らは王国を打倒し、真の平等と平和を勝ち取る存在。そう、我らの名前は……あー、我らの名前は』


 何故か、放送は変なところで進行を遅らせる。

 始まった時から、所謂カンペをよく読む人物だとは思っていたが、この金髪の男性はあるいは頭がよくないのかもしれない。

 などと少女が思っていると、男は突然「魔王軍」と名乗り出した挙句、カメラ外から物が投げ込まれ、放送は一時中断。

 再開した時は、不服そうに「ヴェルメリオ」と名乗って、放送を終わらせた。


「何がしたかったのかしら、この人達……」


 とはいえ、こうも多く反抗勢力が現れては如何に愚王であろうとも、エドガーは動かざるを得ない。

 実際、この後に彼は国王として会見を開く事を予定しているのだ。

 それがどうなろうとも、あまりいい結果になるとは思えないが。

 少女は不安を抱えつつ、自身も会見に出なければならない身として着替えを始めるべく、メイド達を呼ぶのだった。



 そして、数刻半が経過し、会見は開かれた。

 王宮と呼ばれる施設に設けられた広間にて、王は時代錯誤も甚だしい衣装に身を包み、ぽつぽつと語り始める。

 案の定、国内を疎かにし、国外へ注力する姿勢を崩さないようだ。

 いつまでもこんな調子なのだから、分かりきっていた事ではあるが。

 とはいえ、彼ももう結構な歳だ。

 いつ退いても不思議ではないが、その時に権力を握るのは王女ではなくなってしまうだろう。


「……この度はありがとうございます、陛下」

「……ああ、マルコム。お前には迷惑を掛ける」


 大臣が専用の質疑に答えている間、王とそのしもべは言葉を交わす。

 比較的近くに並んでいる少女といえど、会話は微妙にしか聞こえない。

 だが、その内容で推察するに、国王は隣に着席しているマルコムと、内密にこの会見で答える内容を決めていたようだ。

 なんて、卑劣。

 しかしマルコムは少女の目線に気づくと、鷹のような目を歪ませてほくそ笑む。

 余裕の表情だ、自分が誰かに敗北するなど夢にも思っていないのだろう。


「……ああ、陛下、やり忘れていた事がありました」

「……そうか? なんだ、マルコム?」

「───ええ、では手早く」


 そして、国王の腹心は自然な動きで服の内側から拳銃を取り出し、エドガーに向けて数回発砲を繰り返した。

 微妙な静寂の後、国王の身体が崩れ、テーブルに伏す。

 頭に直撃だ、誰がどう見ても即死だろう。


「なっ……!?」


 少女も思わず驚愕に声を漏らしたと同時、その何倍もの悲鳴が広場を覆い尽くす。

 その内に、マルコムは自身の胸に銃を押し当て、引き金を引いた。


「あ、ぐぁっ!? こ、く王陛下!? 私は何故───」


 付近にいたボディガードですら間に合わず、彼は数秒呻いた後に二度と息をしなくなる。

 ボディガード達も、国王とマルコムがあまりにも近くにいたので咄嗟に対応出来なかったのだろう。

 それだけマルコムは信頼されていた。

 だというのに、一体何故、このような事が?

 国王エドガーの身体は赤い液体をテーブルに広がらせるばかりで何も語ろうとはしない。

 そうして、会見はマルコムの突然の凶行により中断され、しかるべき機関がその場を統制するまで、人間達が混乱でごった返す事態となる。


「───やあ、姫様」


 そして、少女は混沌に声を掛けられた。

 人混みの中、否、正確に言えば、王女派とでも呼ぶべき者達の中で考え事をしていると、男が背後に現れたのだ。

 白いスーツ、そして、それと合わせているかのように白い髪。

 だが脱色しているような雰囲気は見受けられず、その服もそれなりの値段がする製品だ。


「今の見てました? とっても怖いですねぇ、国王様といえど、所詮は人間。あんな簡単に死んじゃうんですねぇ」

「貴方、お名前は?」

「おっと、失礼。私はルキエと申しまして、しがない何でも屋をやっております」


 はったりだろう。

 そんな職業の人物が、まがいなりにも王宮の会見に来られるはずがない。

 そもそも風貌や人相からして怪しい。

 だと言うのに、周りの人間は彼に対して全く反応を見せない。

 王女を守る為に配置されている者達も同様だ。

 興奮して見えていないだけなのかと思いきや、彼と肩がぶつかりそうになった時、目は全くその方向を捉えていないにも関わらず、上手に回避を行っている。

 どうにも奇妙な光景だ。


「……用件は何ですか?」

「おお、怖い怖い。どこぞの天使を思い出しますねぇ。……用件はただ一つ、私と協力いたしませんか?」


 なにを言っている、そう言い返そうとして言えない自分に気が付く。

 分かってしまっているのだ。

 目の前の男が、方法が分からぬとはいえ、国王とマルコムを殺害したのだという事を。


「……メリットは?」

「へぇ。流石、一国の姫様にもなると頭の回転が早いんですねぇ。メリット……としますと、とりあえず貴方にとって邪魔な人間はいくらでも消せますよ?」

「……そうですか、それで、貴方の方は?」

「いやそんな大したもんじゃなくてですねぇ、ちょっと研究費用の工面を少しお願いしたいんです」


 クロス教、及びマルコム派の発言権の大幅な弱体化。

 事実だけを考えれば、恐らくそういう事になるのだろう。

 研究に協力する代わり、今後もそういった事をする、と彼は言っている。


(……この男、ただ者じゃないですね。扱うには相当の注意を払わなければなりません。ですが、有用なのも事実)


「いいでしょう、契約は成立です」

「ありがとうございます、姫殿下」


 男は人懐っこそうな笑顔を浮かべ、しかし含みのある声で応えた。

 もはや引き返せない。

 少女は、謂わば悪魔と契約を交わしたのだから。

 その存在が、かつて魔王をも誑かした人間であるとも知らずに。


 そして同時刻。

 王国の奥深くに眠る英雄が、災厄の到来を静かに示した。

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