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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
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2-44

「……ま、魔王様?」


 皆が呆然とする中、エリナがアグレアスに話し掛ける。

 笑顔を心掛けるが、どうしても引きつってしまう。

 気分はまさに爆発物解体処理班だ。

 問題があるとすれば、爆発まで秒読み状態であることだろうか。


「……そうか相応しくないか、そうかそうか……!」


 アグレアスが拳を握ると、ギゴゴゴと人体ではありえない音が響いた。

 同時に、身体全体から光が溢れ、彼を中心に風が吹きすさぶ。

 頂上の欠けたベイン・タワーも相まって、壮絶な光景だ。

 エリナは旧友であるらしい猫耳の少女に助けを求めようとするも、疲れたのか立ったまま寝てしまっている。

 どうりで、先程から何も気配を感じなかったわけだ。

 などと納得している場合ではない、一刻も早くアグレアスの怒りを鎮めなくては。

 

「おおおお落ち着いて下さい、魔王様っ! 怒るのは体によくないですよぅ?」

「怒る? 俺が? あり得んよ、ふはは」

「腕! だったら、腕を降ろしましょうよ!」

「……大変ねぇ、エリナも」


 アカネが半目で呟くが、彼が本気で怒ったらここにいる人間は皆、無事では済まないであろう事を理解しているのか。

 とはいえ、エリナの必死の訴えが功を奏したのか、アグレアスはそっと腕を降ろす。

 それにより、異常な現象もピタリと収まった。

 危機の回避だ。

 集った者達は恐る恐る周りを見回し、胸を撫で下ろした。

 そして、アグレアスは嘆息しつつ、それまで胸に収まっていたスクエア型のサングラスを取り出す。

 そのまま身につけるのかと思ったが、違った。

 顔の前まで持ってきたソレを、思い切り握りつぶしたのだ。

 四角いフロントデザインが粉々になり、砕け散る。


「……シェリエルめ、れていろ! 貴様の思い通りになどさせるものか、王国と纏めて俺が一捻りにしてやるからな! 一瞬だぞ!」

「はいはい、その前に色々やる事あるんだから。まずは、地下に引き篭もってる老人達を味方につけなきゃ」

「ふむ? なんだ、そんな事か」


 アカネの言葉を受け、アグレアスはタワーの内部へと足早に入り込んだ。

 彼女の話では、相当堅固な防衛線を敷いているようであるが、どうする気なのだろう。


「なんか、黙ってあいつに任せればいい気がしてきたわ……」

「毒されてますよアカネさん!」


 そして十数分後、負傷者の治療やタワー外の人民軍と王国軍の残党の掃討がほぼ完了しかけた時、彼は帰ってきた。

 やけにタワーの内部が騒がしかったが、果たして何をやってきたのだろうか。


「で、お偉いさん方は?」

「ああ、味方になってもらった」

「ほんと!? やー、アグレアスは凄いわねぇ! ありがと!」

「それほどでもあるがな! なにせ、魔王なのだから! ふははは!」


 アグレアスとアカネの二人は、示し合わせたように笑い合う。

 それが穏便な手段だったのかは定かではないが、彼がそう言うのなら本当だろう。

 服の焦げ跡から何かが察せられる何かを、エリナは無視する事にした。


「さて、それじゃあ放送の準備をするわよ」

「ふむ。それはそんなに重要な事なのか?」

「当たり前じゃないっ! 議会と政府の連中から一人ずつ選んで台本読ませた後、貴方にも色々読み上げて貰うんだからねっ」


 アカネは小さな背丈を精一杯伸ばし、びしりと指を突きつける。

 胸さえ見えなければ、まるっきり子供だ。

 あれで防衛部隊の隊長……否、これからは反抗集団の副長となるらしいのだから驚きである。

 アグレアスにリーダーを依頼したのも、その風貌が迫力を生まない事を鑑みての事だったのかもしれない。

 あれではむしろ、見た者に癒やしを生むだろう。


「なるほど、王達に脅迫の書状を送るようなものか」

「微妙に合っているような、間違っているような……」

「まあ、いいではないか。───さあ、これからが『魔王軍』の始まりだ」


 スーツを翻し、魔王は意気揚々と宣言した。

 そう、これからだ。

 これから、世界の変革が始まる。

 ついて行けぬ者は置いていかれ、抗おうとする者は打ち倒される。

 それが、世界征服というものなのだから。


(……そして、私はそれとどう関わっていけばいいんでしょうか)


 抵抗する事を諦め、悲しむ事を諦めた。

 そして最後に、生きる事を諦めようとした。

 そんな少女がどうやって、立ち向かう事を決意した者達と交わればよいのか。

 今はまだ、答えは出ない。

 けれど、彼らと一緒にいれば、いつか何かが取り戻せるような気がして。

 エリナは笑顔を浮かべ、そっとアグレアスの傍に寄るのだった。


「いや、そんな名前でいいわけないでしょ!」

「なにっ!? 魔王が率いるのだから魔王軍ではないのか!?」

「普通の人が、私は魔王ですって言われて分かるわけないじゃない! コスプレ集団だと思われるわよ!」

「コス……プレ……?」


 ……どうやら、世界征服の前途は多難なようである。



第二話「魔力黎明」

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