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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
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2-43


 

「ちょっとあんた、今までどこ行ってたのよ?」

「え?」


 聞き覚えのある声を耳にして、エリナは我に帰る。

 気付けば、いつの間にかアカネの前に立っていた。

 否、アカネだけではない。

 この場には彼女の部下らしき人達も多くいるし、猫耳の少女や魔王を自称するスーツ姿の男……アグレアスもいる。     

 ここは見覚えのある、荒れ果てたベイン・タワー前だ。


(……あれ、私、今まで何してたんでしょう……?)


 疑問するが、記憶は無い。

 何か、大きな感情に呑まれていたような感覚だけが残っている。

 ぞっとした。

 その感覚を、記憶の喪失を初めて味わったからではない。

 それが、以前に経験した事のあるものだったからだ。

 ……何度も何度も、何度も何度も。


「……わ、たし……ちょっと道に迷ってしまって」

「うん? そうだったの? こっちは大変だったのよ。なんか羽の生えた女の人が、滅びますぞー! 世界は滅びますぞー!って急に来て言い出したかと思ったら、今度は急に消えて。あたしの部下はみんな憶えてないって言うし」


 不服そうに腕を組みながら、彼女は頬を膨らませる。

 言っている意味はよく分からなかったが、これで十九歳だというのだから世界は広い。

 エリナの悩みも、あるいは小さいものなのかもしれない。


「はぁ……羽、ですか……?」

「それに、あの人が消えてからアグレアスのやつも様子が変だし」


 アカネが顎で示した先、炎上を続ける機体の前には、顔を伏せて立ち尽くすアグレアスがいた。

 長い金髪を炎が照らしている。

 彼は通常、賑やかなタイプだ。

 何か思うところがあれば口を動かすし、それでなくとも体を動かすだろう。

 その彼が一言も発さず、ただ背中だけを見せている。


「───あ」


 その後姿を見て、察しがついた。

 この二日余り、ほとんど一緒に行動したせいだろうか、はたまたエリナ自身の才能の為せる技か。

 彼女は一目見ただけで、アグレアスの感情を理解出来てしまうようになっている。

 そして今、アグレアスはキレていた。

 それも、非常に。


「あー……あれは、話し掛けない方が良さそうですね……」

「そう? まあなんか、妙に静かだけど」


 そうだ。

 恐らくアグレアスは、あの魔王は怒りを溜めるタイプではない。

 怒ったら即発散する、簡単設計だ。

 それがああも押し黙っているという事は、並々ならぬ怒りを覚えているという事だろう。


「ええ、ですから私達はそーっと退散しましょう」

「いや、そういうわけにもいかないのよ。あいつには放送に映ってもらわないといけないし」

「放送?」


 エリナが小首を傾げ、銀髪を揺らした時。

 一面に展開している防衛部隊隊員達で近く一、斉に投影板ホロ・フレームが現出し、音を響かせた。


『よく聞けぃ、テロリスト共!! あ、それからそれから、街の皆さん共!』


 声だ。

 女の声、まだ若い。

 そして、バカでかい。

 エリナは思わず耳を手で塞ぐ。

 明らかに音量の調節をミスしているであろうそれは、何らかの上位権限で投影板ホロ・フレームを強制的に動かして響かせているようだ。


『えーっと、何だっけ。じんみん、ぐん……? まあ、何たらとかいうテロリスト共を! これからこの私、〈帝王神剣〉が筆頭候補、ヘイゼル=パロットが殲滅してやりますですよ! 安心して下さいです!」


 底抜けに明るい声は、「帝王神剣」の候補を名乗った。

 たかが候補か、と笑う者はその場にはいない。

 遠い空から近付いてくる、広域通信の発信源を目にしているからだ。


「なんてこった……第三世代じゃねーかよ……」

「ただの一都市の武装勢力相手に、そこまでするのか!?」


 遥か彼方から、そのB-Raidは現れた。

 それまでの規格よりも、幾分大きいフォルムだ。

 しかし、変わったのは大きさだけではない。

 素材もより軽量で、かつ硬質なものになり、繊細で迅速な動きを「万単位の駆動装置」によって可能にする兵器。

 生産数が極端に限られるものの、象徴的な意味としても、戦場を支配する切り札としても機能する化物だ。

 ならば当然、戦車を百輛用意したとしても勝算は無いだろう。

 少なくとも、エリナの知っている第三世代ならばそのはずだ。


(……実用化、されてたんですね)


 感傷は深く、しかしいつまでも浸っている場合ではない。

 場合によっては都市ごと焼き払われてしまうかもしれないのだから。


「ここまで飛んできたって言うの!?」

「隊長! 迎撃します!」


 言うが早いか、展開していた防衛部隊員の乗る第二世代B-Raidが、手にするライフルを撃ち放つ。

 いい腕だ。

 弾丸は吸い込まれるように高速飛行中の赤敵機へ伸びて行き、当たり前のように弾かれた。


「くっ、撃て撃て撃て!」


 ライフルを、マシンガンを、肩の折り畳み式レールガンを次々と撃ち込む。

 総勢十四機の弾幕は、堅牢な装甲材の前に虚しく弾かれるか、流星のような凄まじい機動に追い付けない。

 そう、あれは流星だ。

 何者も届く事の出来ない、万人が眺める事しか出来ない赤色せきしょくの光。


『そんなものですか?』


 赤色のB-Raidはタワーの頂上に差し掛かったところで急制動を掛け、その姿を月光に晒す。

 悪魔を思わせる、禍々しいフォルムだ。

 左右の手にはそれぞれ、大型のライフルが一丁ずつ握られている。

 第二世代のB-Raidであれば一撃で大破するだろう。


『やはり、悪い人の力はそんなものなんですね! ではでは、ヘイゼルも行きますですよ!』


 全身に取り付けられた加速器を吹かし、B-Raidは再び流星と成る。

 赤い光跡を描いて、空を星が駆ける。

 もはや、何故耐えられるのか不思議な程の機動だ。

 システムのアシストを受けても尚、人間にはあれに銃弾を届かせる事は不可能だ。

 そして、誰もが死を覚悟した時、───唐突に魔王アグレアスが腕を伸ばした。

 手を広げ、虚空に一条の巨大な青い光の槍を奔らせる。

 途上に存在したタワーの頂上ごと、一閃。


『は?』


 槍が、流星を墜とした。

 機体色と同じ赤色の火炎を腹から吹かせた第三世代B-Raidが、来た時同じように高速でどこか遠くの方へ墜落していく。

 あの軌道ではアルテリアから外れてしまうだろう。


『ちょ! ヘイゼル、出落ちですよこれぇぇぇぇ!!?』


 これも当然。

 悪魔のような機体は、それ故に魔王には勝てない。

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