表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
48/83

2-42

「シェリエル。俺が邪魔とは、どういう意味だ?」


 睨み合う二人に体で割って入る。

 アグレアスの長身がイリスの姿を容易く隠した。

 イリスは若干不服そうな顔を見せるも、異国風の服を揺らして彼の腰にしがみつく。


「貴方は恐らく、私が為そうとしている事を知った時、私の思惑を妨害しようとするでしょう。そういう意味で、貴方は私にとっての敵なのです」


 淡々と、シェリエルはそう述べた。

 死してなお、世界に深い影響を与えるつもりか。

 どんな方法を用いればそんな芸当が出来るのか、魔道を極めたアグレアスをして、推し量る事は難しい。


「だが、俺に教える気はないのだろう? 結局、貴様は何の為に現れたのだ……」


 アグレアスは疲れた顔を見せる。

 元より、あまりにも常識外れの言動を行う彼女が苦手なのだ。

 同属嫌悪とも言う。


「いえ、転生した貴方にご挨拶をと思いまして。外見そとみに多少の変化はあっても、中身は相変わらずのようで何よりです」

「……含みのある言い方だな」

「まさか。とはいえ、先程のは冗談です。私とて、貴方には少なからず親愛の情を感じています。故に、敵になるであろうとも情報の開示を行ったのです」


 場の空気が、少し温まる。

 なるほど、流石は天使と呼ばれていただけの事はあるようだ。

 言葉を聞くと、不思議とその表情からも、聖母じみた博愛心が覗かせているような気がした。

 しかし、アカネが何やら手を挙げる。

 そしてシェリエルに対して、一言。


「本当は?」

「世界の滅亡を知って慌てふためくアグレアスが見たかったのです」

「「ドSだ……!」」


 群衆がどよめく。

 大概ノリのいい連中だと、魔王は思う。

 そうでもなければ生きられないのだろう、とも。

 だが、シェリエルは周囲のそうした様子に気を留める事も無く、


「では、最後になりますがひとつ質問を。アグレアス、貴方は何故、世界を征服しようとするのです?」


 それは、二人が出会った頃に交わされた言葉だ。

 見ず知らずの少女を救い、名前も知らぬというのに仲間になろうと話し掛けたアグレアスに贈られた言葉。

 幾千年が流れようと、その答えは変わらない。


「決まっている。相手が人間だぞ? 人間は本当に素晴らしい! 俺の予想を遥かに飛び越える存在だ! だからそれが、世界征服が、面白くならないはずがないのだ」


 これは、人間への期待だ。

 人間ではなく、魔獣でもなく、何物からも外れた魔王としての期待。

 即ち、シェリエルとは形の異なる、一種の愛であった。

 そして彼女にとって、分かりきっていた事でもある。


「……そうですか。やはり貴方は、───魔王に相応しくないのですね」

「貴様……!」

「しかし、ですから私は貴方を愛しているのです」


 氷のようであった表情を和らげ、彼女はそう言った。

 まるで、普通の少女のように。

 しかし、それも数秒の事。

 すぐに元の引き締めた顔に戻し、きびすを返す。


「それでは、さようなら。愛すべき人間達と、魔王よ、どうか貴方達が永遠に滅びぬ事を私は願っております」


 そして、彼女は大きく翼を羽ばたかせる。

 突風が強く起こり、消えた頃、同様に彼女の姿も消え失せていた。

 あたかも、そこには誰もいなかったかのようだ。

 否、本当にそう捉えている人間が、多数存在していた。


「……あれ、なんかさっき、前に美人がいたような……? でも、何してたんだっけ?」

「馬鹿お前、隊長とアグレアスさんにお願いしに来てたんだろ。……確か


 風を受けた防衛部隊の隊員ら、百名余りが首を傾げている。

 この様子では、世界の滅亡のくだりも覚えていないのだろう。

 強力な記憶操作を、たった一瞬で、しかもこれだけ広範囲に行使する事が出来る存在。

 それが、シェリエルという天使だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ