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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
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2-40



 摩天楼。

 戦場と化したベイン・タワーの頂上に、二人の人影があった。

 白髮しろかみの男性と、ローブに覆われた少女だ。

 その場の高度を鑑みれば、彼らが無事でいられるはずもない。

 だが、それしきの常理など意識せずとも覆すのが彼らである。


「いよいよ出るものが出てきたねぇ」


 白髮の男は、眼下の光景を見て薄く笑う。

 待ち望んだ存在だ。

 待望の、仇敵。

 全ての原因である厄介者。


「疑問します。ルキエは、あの場に行かなくて良いのですか?」


 少女は無感動に尋ねる。

 しかし、ルキエはその言動に焦りを感じた。

 そのような挙動など組み込んではいないのだが、やはり探し求めていたものを目にすると違うのか。


「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。目的のブツは回収したんだからさ」

「……否定します。別に、焦っていません。それより、目的とはそれですか?」


 彼が手にしているのは機械の部品……ではなく、装甲を纏った人間の頭部だ。

 無理やり引き千切ったのか、首から下は無い。


「これ、っていうかこれの中にある魔力だねぇ。彼の魔力を回収する事が今回の目標だったわけだし」

「確認します。貴方はこれから、何をするつもりですか?」

「君がそれを知る必要は無いよ。もうすぐ君は消えるんだからねぇ」

「……肯定します。しかし、次のボクにとってはその情報は有用だ」


 次、と少女は言った。

 果たしてそれがどういう意味なのか、勿論ルキエには分かっていたが敢えて反応を示さない。


(……やっぱり、人間だねぇ。いくら遠ざけても、勝手に近付いていくんだから手に負えない)


 いつもの通り、柔和な微笑みで悪意を胸に秘める。

 悪意、そう悪意だ。

 人間に対する悪意。

 憎悪とも、嫌悪ともまた違う、粘り気のある感情であった。


「じゃあ行こっか。情報通りなら、もう少しでアレが来るしねぇ」

「了承します。ボクも早く力を付けなければなりません」

「そーだねー。だからまあ、竜退治と洒落込むわけだ。私としては、あの老いぼれ狼の方が始末したいけど……」


 笑顔を顔に貼り付けたまま、ルキエは虚空に掻き消える。

 あたかも、空に溶けてしまったかのようだ。

 そして少女も、一瞬眼下の魔王を目に映した後、同じように消えた。

 そこにはもう、誰もいない。

 人間に悪意を抱く男も、勇者を目指す少女も。

 夜闇は等しく、全てを包み込む。





「待て。冷静に考えて意味が分からん。どういう事だ?」

「冷静に考えても分からないなら、何を言っても無駄かもしれませんね」

「む……それもそうか」


 アグレアスは翼の少女の言葉に納得し、押黙る。

 対話は終了だ。


(これが死人とのコミュニケーション……!)


「いやいや、あんたの冷静って言うほど大した事無いでしょ」


 アカネがこれまたなかなか鋭い事を言う。

 しかし、口は動かしながらも、彼女の目は翼の少女……シェリエル=ラシェーラの動向を注意深く監視していた。

 彼女は何だかんだ、戦士向きなのかもしれない。


「ふん、先程のはジョークだ。……さて、シェリエル。貴様、死んでいるという事はつまり」

「ええ。私にとって、肉体の有無は存在の有無と同義ではありません」


 濡れた鴉を思わせる艶やかな髪を振り、彼女は立ち上がる。

 身を包む白い装束は、火の上に腰掛けていた事を全く感じさせない程、一点の汚れも無く美しい。

 機体の残骸を軽く蹴って飛び、ゆったりと滞空してから地面にとん、と着地する。

 なるほど、死んでいるというのはどうやら嘘ではないらしかった。


「だが、だとすると何だ? 何故、俺に会いに来た?」

「貴方だけに、という訳ではありません。……例えばそう、そこの物陰から私を狙っている少女にもお話があるのです」


 言葉と同時、何かが飛び退く音がした。

 ちょうどシェリエルが顔を向けた先、崩れたビルの看板から聞こえた。

 そして、どこか遠くへと駆けていく人影。

 目で追おうにも、速すぎて今いち判別がつかない。

 しかし、アグレアスは気づく。

 その人影が身につけていた服、白く、花のように膨らんだそれに見覚えがある事を。


「今のは、まさか……」

「心配せずともすぐ戻ってきますよ。その時は、彼女にも話をしておいて下さい」

「何なんだ、貴様の話というのは。もったいぶらずにさっさと話せ」

「せっかちな男は天使からも嫌われますよ。……とはいえ、そろそろ時間もありません。せっかくであれば、洒落の利いた言い回しをしてみたいのですが、生憎私はそういった物が不得手です。ですので、月並みな言い方になってしまう事をあらかじめ御容赦下さい」


 長く言葉を紡いだ後、こほんと咳払いをする。

 死んでいるというのに、背中の翼に似合わずやけに俗っぽい所作だ。

 そして、言う。


「────この世界はあと、一年で滅びを迎えます」

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