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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
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「ふ、ふざけるな……。ふざけるな、貴様らァッ!!」


 コルネリウス・ダウズエルは激昂する。

 王国への復讐。

 ただそれだけを胸に生きてきた。

 その為に、血反吐を吐き、泥水を啜ってテロ組織を一つの軍団にまで纏め上げたのだ。

 それが、たかが数分で壊滅状態になっている。

 

「こんなものが認められるか!」


 叫んで憤るが、無情にも眼前のB-Raidがまた一機、雷撃によって破壊された。

 虎だ。

 銃器を使用しても歯が立たない化物の出現によって、兵士達は恐慌状態に陥り、逃げ惑っている。

 翼を生やした男が落ちてきたと思ったら、あの巨大な虎が現れ、何もかもが狂った。

 妻を殺し、市民を苦しめた王国軍に裁きを下し、王国に擦り寄る都市を変革するまであと一歩のところまで来ていたにも関わらず。

 怒りに身を震わせていると、不意に一枚の投影板が顔の横に表示される。

 式典フロアにいる兵士からの報告だ。


『大変です! 防衛部隊が突然押し寄せてきました!』

「何っ!?」


 言われてようやく、駆動音に気付く。

 頭上を見上げると、幾つかの小型輸送機の姿が。

 タワーに寄り添うようにして漂っている。

 恐らく、既に人員を送り込んだ後だ。

 ならば次は、内部を制圧し、人質を確保、輸送機に乗せて安全なところに運ぶのだろう。


「くそっ、タイミングの悪いっ! 対空装備のあるB-Raidを使え! 人質が何人か犠牲になっても構わん!」


 タワーより少し離れた、やや低いビル。

 その屋上にて、待機させていたB-Raidが動き出す。

 巨腕が抱えるそれは、口径百ミリを超える長大な砲だ。

 航空艦船を撃墜させる用途で作られたその携行兵器は、小型の輸送機程度が喰らえばひとたまりもない事は明白だった。

 どころか、隣接するタワーにすら被害が及ぶ可能性が高い。

 姿勢安定用のアンカーを屋上に打ち込み、コッキング。

 照準を定め、ゆっくりとトリガーを引き絞る。

 そして、火球が生まれた。

 ただし、B-Raidを呑み込むように。


「なにっ!?」


 砲撃だ。

 それも並大抵のものではない。

 艦艇に積まれる類のもの。

 それらを運用している組織など、アルテリアには今や一つしかない。


「防衛部隊の、旗艦か!?」


 アルテリア防衛部隊保有航空巡視艦、旗艦「ゲッコー」。

 青いカラーを惜しげも無く晒し、船体に備え付けられた主砲から硝煙を上げるその姿のなんと雄々しい事か。

 かつては自身が指揮を執っていた船が、今は自分を狙っていた。


(……馬鹿な! 出てくるのが早過ぎる!)


 まだ処刑予告から十分程度しか経っていないのだ。

 副隊長を助けに全主力を投入して来る事は想定していたが、これではあまりにも早過ぎた。

 まるで、初めから副隊長が捕まると分かっていたような。


「……そうか。あの副隊長は初めからこれを狙って……!」


 自身を犠牲に、タワー内部を手薄にさせ、敵の兵力を誘き出す。

 そこをすかさず旗艦が襲撃し、輸送機を突入させて人質を奪還する。

 考えられなくはない。


「そんな……そんな事が」

『駄目です! 対空兵器が次々とやられていきます! フロアの防衛も限界ですっ!』


 部下の悲鳴がやけに遠く感じられた。

 ここで。

 こんなところで終わってしまうのか。

 コルネリウスは、自分に問い掛ける。 

 ここで諦め、屈していいのか。

 王国に鉄槌を下し、市民の仇を、妻の仇を取らなくていいのか?


「いいや、まだだ……まだ終わってたまるものか……! 舐めるなよ、化物共……!」


 戦場は混乱していた。

 逃げ惑う者や、戦い続ける者、それらを虎の化物が蹴散らしていく。

 その中をコルネリウスは赤い外套を翻し、突き進む。

 すぐ横を雷撃が掠めるが、もはや気にもしなかった。


「おい貴様! その機体を貸せ!」

「え? は、はい!」


 火器を失ってはいるが、比較的無事な機体に声を掛け、中の者を降ろさせる。

 そして、開いたコクピットから身を踊らせて乗り込んだ。

 狭い鉄の空間を密閉させ、機体起動用の投影板へ指を這わせる。

 本来ならタグのスキャンが為され、無闇に他人が使う事は出来ないのだが、そこはそれ、改造によって機能を省いていた。

 起動シークエンスを終わらせ、ディスプレイが外の状況を映し出す。

 相も変わらず、白い巨大な虎が雷撃と爪で戦場を荒らしている。


「化物め……! 俺の行く道を阻む奴は全員、殺してやる……!」


 怨嗟の言葉を吐き、コルネリウスは機体を加速させようとする。

 しかし、その行く手に一人の男が立ち塞がった。

 怪しげな黒いスーツを着込んだ、金髪の青年だ。

 こちらを不敵に睨めつけ、口元に笑みを浮かべている。


「貴様は……さっき、翼で降りてきた男……」


 声を集音器が拾い、機体の外部へと声が伝わる。

 それを聞いた青年は笑みを一層濃くした。

 そして、言う。


「お前は、どちらだ。助けを求めるのか? それとも、戦いを求めるか?」

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