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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
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「───天使ではない! 魔王様だ、馬鹿者っ!」


 驚異的な耳の良さから、そう返事をした翼を生やした男、アグレアスは現在、落ちていた。

 その証拠に、身に着けた黒いスーツがパタパタとはためく。

 とはいえ普通、これだけの高さを落下すれば無事では済まないが、それを魔法によって可能にしているのだ。

 高速に、しかし術者の身を翼によって守るように配慮した魔術。

 高等飛翔魔術、そのアレンジだ。

 性能は良いものの、恐ろしく目立つという欠点があったのだが、今回はそれが逆に功を奏したようだ。

 地上に展開する全ての者がアグレアスに注意を向けている。


「よし」

「よし、じゃないわよ馬鹿ァ! 死ぬ! これ死ぬやつだって!」

「フハハ、わざわざ安全に配慮してやったのだから、死ぬわけ無かろう! まあ、俺の手を離せば死ぬがな」


 アカネはアグレアスの腕に全力で抱きついた。

 童顔、幼躯に釣り合わぬ大きめな胸部が腕を包み込み、形を変える。


「ふむ、アカネよ。お前は決して能力を持たざるものでは無かったではないか、誇るべきだぞ」

「胸の大きさは能力とは言わないわよ、馬鹿っ!」

「…………それは、どうかとおもう」


 アカネの叫びに、反応した声があった。

 イリスだ。

 少女はアグレアス達の上で、自分の胸に手を当てている。

 常に眠たげな顔に、悲しみが刻まれていた。


「……アグレアスは、おーきいのがすきだから」

「そうなの?」

「知らん」

「……きっとそう。……イリスがおーきければ、いまごろアグレアスのおくさんになってる」


 希望的観測から断定へウルトラCを決めている彼女は、アグレアス達と違って生身だ。

 何の魔法も行使せず、高さ数百メートルからの落下を涼しい顔で行っているのだ。

 もっとも、アグレアスも「欠片」を集めればそういった事なども出来るようになるのだが。


「イリス、戦えるか?」

「……うん、もんだいない。……ほんき、だせる」


 本気、というのはつまり、イリス本来の姿を見せるという事だろう。

 それなりの外的魔力マナ量が必要なはずであるが、幸いにして先ほどの魔力の流出でこの辺りの大気には魔力が満ちている。


「ちょっと、その子も戦うっての!?」


 アカネが言語道断という風に声を上げるが、アグレアスとしては当然の事だ。


「まあ見ていろ。それより、そろそろ着くぞ」

「……これ、地面に落ちて無事なのよね?」

「多分な」

「多分かぁ、そっかー」


 諦めを得た風にアカネは嘆息した。

 落下は加速を増し、地面への激突まで目前にまで迫る。

 この勢いで激突すれば、肉体が吹っ飛ぶかもしれない。

 しかし、そんな心配を打ち消すように、翼がばさりと一度大きく羽ばたくと速度が減退し、地面へ柔らかく着地する事が出来た。

 そしてすぐ後ろに、イリスが静かに降り立つ。

 彼らはちょうど、ベイン・タワーの正面玄関の手前に立っている。

 眼前にあるスロープと階段の下にはちょうど、拘束されたエリナ達が見えた。

 そして、呆然と佇む人民軍兵士達も。


「……そ、空から人が」

「天使、なのか……?」


 傍目から見れば、彼らはまごう事無く天使の降臨に見えただろう。

 その場の人間達はほぼ全員絶句し、圧倒されている。

 だが、コルネリウスという赤い外套の男はどうも立ち直りが早かったようで、アグレアスに対して口を開いた。


「お前は……何だ?」

「そうか知らんか、ではよく聞け。俺は、魔王様だ」

「…………殺せ」


 アグレアスを狂人と判断したのか、コルネリウスは腕を上げて指示を下す。

 実に正しい判断と言える。

 周囲に展開したB-Raidや兵士達が戸惑いながらもアグレアス達に銃を向けた時、視界の端でエリナがゆっくりと立ち上がった。

 どういう訳か拘束が外れているが、兵士達の注意がアグレアスに向いた隙に何かしたのだろうか。

 とはいえ、これは好奇。

 彼らは素早くアグレアスの背後に隠れたアカネの存在にも気付いていない様子だ。

 アグレアスはスーツの埃を払い、猫耳を着けた少女に向かって、短く命じる。


「────イリス、やってしまえ」


 少女はこくりと頷き、意識を集中させた。

 そして青白い光が身を包み、やがて巨大な閃光へと変わった時、そこには少女は存在していなかった。

 そこにいたのは、一匹の巨大な虎。

 白い体躯は大型のバス程もある。


「虎!? 猫じゃなかったの!?」

「どちらもそう変わらんだろう?」

「いやいやいや……」


 アカネが嘆息していると、白い虎、イリスは後ろ足で地面を蹴って大きく跳躍し、B-Raidの目前へと躍り出る。

 弾丸のような速さだが、近くにいた魔王達に配慮してそのスピードである。

 人間であった時とは打って変わって、凛々しく猛々しい顔つきでイリス・リンドヴルムは鉄の巨人を睨み、


「──────!」


 吼えた。

 同時、大気に異音が奔る。

 ジジジという帯電の音だ。

 よく見れば、一挙一動全てに光が付属し、大気を焦がしている。

 そして、イリスは右の前足を振り上げ、目前のB-Raidへ向かって振り下ろす。

 雷鳴が響き、スパークが生じる。

 それらが晴れた時、果たしてそこには残骸のみが残されていた。

 迅雷が、鉄の巨人を一刀の元に両断せしめたのだ。 

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