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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
34/83

2-28

「ちょ、やばっ!」


 速攻で踵を返して駆け出すも、彼らとて素人ではない。

 惚けていたのも数瞬、


「おい、第二目標だ!」

「逃げるぞ! 撃て!」


(……撃てって、そんな気安く言わな───)


 心の中で文句を作った時、乾いた音が聞こえたかと思うと、腹の辺りが奇妙に熱くなった。

 続いて足が言う事を聞かなくなり、もつれて派手に転ぶ。

 どうやら、何発か腹に喰らったようだ。

 口を開けると、たちまち赤い液体がこぼれ出した。

 立ち上がろうとするも、指の先すら動かせない。


「……お、おい当たっちまったけど良かったのか?」

「当たり前だろ、むしろよくやった」


(……これ、し、ぬわ)


 沸騰した頭の中で、死を悟る。

 何もできず、今度こそ確定的に死を利用されてしまうのだ。

 四、五人程の足音が迫る。


「こいつは生きている間は何の役にも立たなかったからな、せめて死んでから死体を吊り下げるなりしねぇとな」

「王国に甘えた糞女だしなぁ。裸にした方がいいのか?」

「知るかよ、まあこんな糞無能に服なんぞ上等なもんは必要ねぇ! ついでに、ちょっと遊んでやるか」


 彼らの言っている事は真実だ。

 否定のしようが無い。

 だからこそ、否定したくて、とても悔しかった。


(……ああ、くっそ、悔しいなぁ。……なんで、力が無いのかな、あたし。……あたしだって、……力があったら、歯向かいたい……わよ)


 無力が悔しい。

 力があれば、力を持つ者と繋がりがあれば。

 苦渋と後悔を胸に満たし、暗い死の底へと意識を沈め始める。


「こいつは、リーダーの器じゃねぇんだよ」

「防衛部隊も可哀想になぁ」


 そう、器じゃなかった。

 自分がなるべきではなかった。

 そんな事は分かっている。

 分かっていて、図々しくも足掻き、導いてくれる誰かを探していたのだ。

(……死にたく、ない……諦めたく、ない……導いてほしい……付いていき、たい。……だから、)


「……たす、けて」

「当然だ」


 声と共に、生暖かい液体が降り注ぎ、身体が何処かへと引っ張られる。

 強く、荒々しく、しかし優しい力だ。

 既に殆ど見えなくなっている視界で、精一杯目を凝らすと首から上が無くなった男達が見えた。

 生き残った男達は驚いている。

 そして、鉄の扉が視界に映り、少しの時間を掛けて閉じた。

 何か、金属音のようなものが連続する。

 銃弾が当たっている音かもしれない。

 やがて、身体に掛かる負荷から、自分が上昇しているエレベーターの床に横たわっている事が分かった。


「大丈夫か、大丈夫ではないな。すぐに、治療魔法を掛ける」


 言葉を掛けたのは、金髪の青年アグレアスだ。

 どうやら焦っているようで、顔が上手く見えないのが残念に感じる。

 いや、それよりも気になる言葉があったような。


「……ま、ほう?」

「そうだ。俺は魔王だからな、魔法の一つや二つ朝飯前だ」


 だとしたら。

 よく分からなかったので保留にしておいた、爆死しかけた後、あまりにも短すぎる時間で傷が癒えた事も彼の魔法によるものなのだろう。

 手から炎を出してみせた所業も、現実のものだったのだ。

 にわかには信じ難い事ではあるが。


(……だとしたら、彼には力がある)


 この事態を収束させる力だ。

 あるいは、世界をも変えてしまうような。

 アカネは背中に当てられた手の温もりと、胸の高鳴りを感じていた。


(……彼なら、もしかしたら、王国を倒せるかもしれない)





 攻撃を加えようとするものは二機のB-Raidだ。

 空中から地上へ向けた攻撃。

 二機は前後に別れ、双方がレーザーブレードを展開していた。

 鉄を一瞬で溶断する一撃が、繰り出される。

 軌道は恐らく、エリナの目から見て左から右への一閃。

 機動性に優れた第二世代による動作だ。

 エリナの搭乗する第一世代が躱す事の出来るものではない。

 だが、倒す方法は存在する。


(引いても追い付かれる、だから───!)


 敢えて、機体を前進させた。

 そして、白い機体の腕を掴む。

 馬力に優れるグラムの拘束は、ガラティーンの振り抜きを阻んだ。

 ロビーのフローリングが、落下の勢いを受け止めたグラムによってガリガリと削られた。

 ガラティーンの突撃を空中でとどめ、受け止めるグラム。

 そのまま小さく左へ機体を回し、続いて攻撃を加えようとしていた二機目のガラティーンの降下軌道へと合わせる。

 即席の楯の完成だ。


「────!」


 二機目はこのままだと激突する恐れがある事を察し、予定より早く刃を振り抜いた。

 グラムが受け止めていたガラティーンの胴体が切断される。


(……駄目ですよ、相手は私なんですから。味方に攻撃なんてしちゃ)


 思考の裏で、エリナはペダルを踏み込み、グラムの加速器を急噴射。

 斬撃から姿勢を整えていないガラティーンに向けて、飛び込んでいく。

 無論、味方に斬り殺された憐れな一機は打ち捨てて。

 ガラティーンの胴体へ向けて、グラムが頭からぶつかっていく。

 ぶつかった。


「っ……!」

 

 グラムとガラティーン、両者が凄まじい音を立てて激突する。

 エリナ必殺の、突撃戦法だ。

 機体が搭載した速器の推進力の差によって、ガラティーンはグラムに押され、壁へ叩きつけられる。

 巨大な質量による頭突きとチャージの結果、機体は壁に半ば突き刺さり、王国軍パイロットの意識が刈り取られていた。

 第一世代の勝利だ。

 とはいえ、グラムのダメージも深刻で、特にガラティーンと直でぶつかりに行ったメインカメラはひしゃげてしまっている。


「やっぱり、体当たりは正義ですね……!」


 いい笑顔でそう言った時、正面玄関から何度目かの侵入者が現れた。

 黒いガラティーン、防衛部隊のB-Raidだ。

 半壊したメインカメラでその頭部を確認すると、指揮官用の特殊な形状をしている事が分かる。


(……これ以上体当たりしたら、流石に機体が持ちませんよぅ?)


 おどけつつも、状況はかなり悪い。

 こちらは片腕の上に頭部破損、あちらは万全で恐らく腕の立つパイロットが乗る、第二世代。

 普通なら投降して命乞いを始めている頃だろう。


(……だとしても、負けませんが)


 エリナは、壁に半ば突き刺さるようになっている王国軍のガラティーンからグラムを引き離し、ロビーの床へ降り立たせた。

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