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グラムが手にしたマシンガンが火を噴く。
銃弾の雨が射出され、ロビーの物陰に隠れた者達の頭上を薙いだ。
殺す必要はない。
今はただ、足止めする事が最優先なのだから。
(でももし死んだら、それはそれで自己責任という形でお願いします……!)
頭の中で言い訳してから、エリナはレバーを倒し、機体を傾けた。
斜めに強く傾ぎ、白線を引いて放たれたロケット弾頭をやり過ごす。
すると背後で爆発が生じ、ロビーの壁面が大きく抉れた。
戦闘車両用の兵器とはいえ、損壊したグラムとしては負いたくないダメージだ。
今後、どんな者と相手するか分からないのかだから。
(……魔王様は、そろそろエレベーターに乗れた頃合でしょうか)
金髪の青年を思い浮かべる。
エリナに攪乱を任せて生身で飛び込んでいったわけだが、どう考えても無謀だ。
しかし、エリナはそれを由とした。
彼が帰ってきた際の安心を増幅させる為だ。
ずるい、とも思う。
しかし、増幅された安心は、もはやこの人ならば死ぬ事は無いという信頼へと昇華される。
「そうなったら、私は幸せ者です……!」
不安も怯えも無く、ただ付いていくだけでよい。
そんな主人を得る事が出来るのだから。
口元に笑みを浮かべながら、マガジンが空になったマシンガンを軽く投げつける。
十分な滞空時間を与えつつ降下したそれは、下敷きになる者を生まず、けれど外から乗り込んできた戦闘車両を引っくり返すという、十分な制圧効果を生み出した。
いつしか、広大なロビーには静寂が生まれていた。
しかし終わりではない、むしろ本命が来る。
溜めの時間だ。
そして、来た。
正面玄関をぶち破りながら現れたのは、二機のガラティーンだ。
白塗りに金の装飾が成されている事から、王国軍の物であると分かる。
(……こいらは第一、向こうは第二世代、しかも二機)
一般的な見解として、第一世代B-Raidは三機揃えてようやく第二世代一機と対抗できる。
無論、それは真っ向から勝負した場合の話ではある。
だが、明確なスペック上の差というものがあり、エリナとてその性能差は理解していた。
(……でも、勝てます)
その上で、勝てると踏んだ。
縦横無尽にロビー内を飛び回り、メインカメラの視界内に捉える事すら難しい状況において、勝利を確信したのだ。
やがて二機は攪乱の手を緩め、手にした小型ライフルを撃ち込む。
人口筋肉の研究も進んでいなかった当時に製作され、機動性がお世辞にも高いと言えないグラムは、当然のように命中弾を許した。
しかし、カメラや加速器、関節等に当たる事はなく、装甲の中でも特に分厚い箇所に限られる。
無理に避けるのではなく、上手い防御をえらんだのだ。
(今はただ、ダメージ軽減に専念……! 攻撃はその後……!)
我慢だ。
我慢を重ね、それから反撃に出る。
大丈夫、我慢が得意であるという自負はあった。
我慢が重ねられる程、得られる物の良さは絶大なのだ。
「この人達倒したら、ご褒美が欲しいところですね……っ!」
例えば、を思うのは危険だ。
催促は下僕のやる事ではなく、ただ期待しているだけでよいのだから。
そして二階へと繋がる大きな階段の上、もはや遠距離の攻撃では埒があかないと悟ったのか、二機がライフルを捨てて空中へと身を投じた。
そして、加速器を噴かし、一気にグラムへと近づく。
それぞれの左腕は胸の前で曲げられ、肘でエリナを示している形となる。
そして、腕の先端に取り付けられたレーザー発振器を起動、光の刃を生み出した。
第一世代が苦手とする、格闘戦だ。