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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
28/83

2-22



「……王国軍、か」


 アカネは戦闘の余波で広がった苦痛に顔を歪め、忌々しげにその名を口にする。

 それと同時、三機のガラティーンが今度はアカネを取り囲んだ。

 そして、中央の一機のコクピットが開き、一人の男性が降りてきた。

 薄く、伸縮性と耐燃、耐寒性に優れた白地のパイロットスーツを着用している。

 男は階級が高いのか、三機を代表して降りてきたようだ。

 広場に残る多くの市民、そしてエリナという少女も、彼とアカネを恐る恐る見つめていた。


「貴官、やはり……アルテリア防衛部隊アカネ・アンキエールだな? 我々と共に同行せよ、これは命令である!」


 焦燥を滲ませた声で、パイロットの男はアカネの身柄の引き渡しを要求する。

 王国軍は指揮官の喪失によって、内部にかなりの混乱を抱え、士気も低下している事だろう。

 アカネを連行し、生きている事を報道すれば人民軍の行動の間違いを指摘出来る。

 人民軍に勝利する為の足掛けとなる事が出来るのだ。

 ……事が終われば、占拠を未然に防げなかった責任の求め先として、人民軍の偽装などではなく、今度は本当に王国軍によって暗殺されるだろうが。


「……分かった、従おう」


 アカネは声を絞り出し、ガラティーンに向かって歩き出す。

 だが、行く手を金髪の男の背中が阻んだ。


「――――待て」


 金髪碧眼、長身痩躯。

 アグレアスという青年だ。

 先程から魔王だのよく分からない言動を繰り返していたが、その行動は洒落にならない。

 王国軍に楯突くという事は、大陸中を追われるという事に繋がるのだから。


「俺の配下に手を出すな、消えろ」

「っ! ちょっと、何言っているのよ!? 危険だから下がって!」

「ふん、ようやく子供らしい口調になったな」


 青年はそう言って、愉快そうに笑う。

 見た目子供の自覚があるとはいえ、どう見てもまだ青少年の子供に言われるのは辛い。


「……私は、彼らの元に行かなきゃ駄目なの。人民軍の正当性を失わせ、勝利する為には」

「それは、お前が本当にしたい事か?」


 アグレアスは振り返り、真摯に問う。

 軽薄そうな笑みを消し、アカネの瞳を見つめて。

 それは、異様な迫力に満ちていた。

 まるで、自分の意思一つで世界をも変えてみせるとでも言いたげな。

 そしてそれが、この青年なら可能なのではと思わせるような。


 今この時、つい先程までただの市民と思っていた青年に、アカネは気圧されていた。


(私が……本当にしたい事……?)


 それは、都市を平和にする事だ。

 だが、この内乱に王国軍が勝利すれば、アルテリアの王国派の権力は増大し、政治腐敗と犯罪の蔓延が更に深刻なものになるだろう。

 それは果たして、アカネ達にとっての勝利と呼べるのか。


(違う……もはや王国というものがある限り、アルテリアに平和は訪れない。だが、防衛部隊の立場上、王国軍を敵にするわけには……!)


「自分を縛るな、生きたいように生きればいい」

「そんな簡単に言わないで! ……私なんかが、何も出来ない私なんかが、そんなことしていいわけ無いじゃない!?」


 親や周囲の期待に応える事も出来ず、防衛部隊の立場の悪化を食い止められなかった。

 不正を暴き、王国軍に一矢報いようと思えば、それを人民軍に利用される始末。

 力が無い。

 覚悟が無い。

 何も無い自分なんかに、何も出来やしない。


 暗く、重い、泥のような感情がアカネの胸に流れ込む。

 無力感だ。

 都市の不正と人民軍の暴挙を防げなかった事に起因する、十九歳の少女にとって、あまりにも重すぎる無力感。

 視界の端で、また一つ都市に爆発が起きる。


「……私、結局みんなに迷惑ばかり掛けて、私なんかいなくなっちゃえばいいのに……っ!」


 アカネは膝をついて慟哭する。

 容姿も相まって、その姿は幼い少女にしか見えないだろう。

 ましてや、都市の治安を任されている人間などには、とても。

 そして今や、アカネ自身もそう思っていた。

 それは、自己否定だった。

 何も出来ない自分は、何も願ってはいけないのだ、と。


 アカネはこうして全てを諦め、傀儡となる事を選ぶ……その時、アグレアスの言葉が胸を突いた。


「―――それは違う、お前の言葉を俺は否定する。お前には、何もかもが出来る。俺に付いてくればいい、それだけでお前は何をやってもいいんだ」


 圧倒的な自信に裏打ちされたような言葉、表情。

 複数のB-Raidによって狙われているというのに。

 どんな経験を積めば、このような事が言えるというのだろう。

 人間への全肯定。

 もはや救世主じみた、質の悪い冗談のようだ。


「……何で、どうして、会ったばかりの人間にそんな事が言えるの? ……貴方は私の何を知っているの?」

「それがな、驚くほど何も知らん」

「っ!」

「だが、お前は俺の配下だ。そう決めた。だったら、俺は全力で味方する」

「……貴方は、一体……?」


 あまりにも常識離れした言動に、思わずアカネが尋ねた時、


「おい貴様らっ! 早くし―――」

「黙れ」

「っ! 駄目です、魔王様!」


 遅々として進まぬ状況に苛ついたのか、王国軍パイロットが銃を引き抜いた。

 瞬間、前へ向き直った金髪の青年の掌から炎が射出され、王国軍パイロットの近くへ着弾。

 彼はあえなく吹き飛ばされ、地面を凄い勢いで滑った。


「……なんだ、今の」

「……今、あなた……」


 広場に集まった群衆、二機のガラティーン。

 そして、アカネ。

 アグレアスとエリナを除く、全ての者が驚愕し、呆然となっていた。

 当然のように振るわれた、魔法に対して。



 古今東西、魔王は、魔王の望む事を優先する。

 その結果、世界がどうなったとしても。

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