2-21(挿絵あり)
「どういう事だ、エリナ?」
「普通に考えれば、アカネさんは意識を失っていたので聞こえていなかったと思います……」
「なんと! 事後承諾は魔王の特権ではなかったのか!?」
「……助けてもらっておいてこう言うのはなんだが、君達は少しおかしい」
アグレアスの言動に、戸惑うアカネ。
だがあくまで平常運転であり、対処法は慣れるしかない。
アカネは幼い顔立ちを引き締め、アグレアスを見上げる。
その表情から伺える決心は固く、人民軍を止めるつもりのようだ。
「そうですね……部下云々は置いておいて、手を貸していただけるというならば、お言葉に甘えたいと思います。……お願いします、アグレアスさん」
まだ痛む胸を抑え、彼女はそう言った。
既に暗殺されかけたのだ、この先も命を狙われる確率は高いだろう。
だというのに、彼女は行くという。
体躯に似合わぬ、勇気と責任感だ。
実に魔王好みと言える。
「アグレアスさんではなく魔王様と呼べと言いたいが、まあいいだろう。……しかし、その前にあれを片付けなくてはな」
アグレアスが広場の奥へ顔を向けると、一条の光。
光は、機械による熱の噴射だ。
それは高層ビルの途上に存在する何もかもを吹き飛ばしつつ、広場を目指し、進む。
「……あれは、B-Raid!? 人民軍のものか!」
第一世代型グラムだ。
アグレアスにとっても見覚えのある型式の機体。
装甲と火力に重きを置いたコンセプトであり、生半可な手段では太刀打ち出来ないだろう。
『私は人民軍だッ! 貴様ら上層市民に告ぐ、我らと共に来い! いいか!? 抵抗しようだなんて考えるんじゃないぞ、B-Raidの砲弾で一瞬でバラバラにしてやれるんだからな!』
瓦礫を作りつつ、広場へと到着したグラムから声が響く。
ドスの利いた、女の声だ。
広場に集まっていた市民達はパニックから逃げ惑おうとするが、
『抵抗するなって言っただろうがァ!?』
怒声と共に、グラムの持つ56mmライフルが火を噴き、周辺のコンクリートごと数人の市民を消し飛ばした。
近くにいた者達も、衝撃で吹き飛ばされ重傷を負っている。
激昂しやすい性格のようだ。
下手に刺激すれば、どんな惨事が引き起こされるか分からない。
だが、アグレアスには関係の無い話、適当に追っ払ってしまえばいいだろう。
(ん……? なんだか、聞き覚えのある声だな。何処で聞いたのか……)
顎に手を当て、考え始めたアグレアスをグラムの頭部に積まれたメインカメラが捉える。
そして、咆哮が広場に響いた。
『き、貴様ァァァァァッ! 路地裏の男、こんなところにいたのかァッ!?』
「ああ、誰かと思えば。エリナに与えてやった服の持ち主だったか」
アグレアス達がアルテリアの路地裏に墜落した時、彼らに詰め寄ってきた男女の片割れだ。
ニーナ・プリムスという彼女の名前は現在、タグ情報を上書きされたエリナの物となっている。
『貴様のせいで私は……タワー占拠という重大な任務から外され、こんなところで金持ちを捕まえなければならんのだッ!』
「おいエリナ、逆恨みという奴だろうあれは」
「どう考えても、正常な恨みです……」
「……なんだ、どういう状況なんだこれは」
そうこうしている内にニーナの搭乗するグラムがライフルを構え、照準をアグレアス達に合わせた。
今にもトリガーが引かれ、彼らの身体をミンチに変えてしまいそうだ。
その時、グラムの背部が爆発、衝撃で姿勢を大きく崩した。
攻撃だ。
『ッ! なんだ!?』
喚くニーナの背後、夜天の空に光が奔る。
その数は三。
軌道は空から地上への急降下だ。
光は広場へ落ちると、三方向からグラムへと火を噴かして距離を詰める。
B-Raidだ。
無骨なグラムと比べ、細身で鋭利な外見が特徴的だった。
そして、その速度は見た目通りかなり速い。
『第二世代ガラティーン、王国軍か!?』
彼女の言葉と同時、ガラティーンというらしい白と金を基調とした三機は腕部の装置を起動。
高出力レーザーを迸らせ、刃を形成した。
『くっ! 王国の奴隷が……指揮官が死んでも尚、立ち向かうかッ!?』
グラムもライフルを速射し、抵抗を見せるが相手は三機。
空中を飛び回って回避を行う機動性に翻弄され、命中弾は一つとして無い。
広場の周辺が爆発の光で彩られるだけだ。
そして遂に、一機のガラティーンがグラムのライフルの銃身にブレードを走らせ、溶断する。
火薬の爆発により、グラムは手を失った。
バランスを崩し、前のめりに倒れこむ。
圧倒的な戦力差。
これが、世代の絶対的な壁だった。
あわやグラムはその全身がブレードの餌食になるかと思われたが、腹部のハッチが突然開き、女性が中から転がり出る。
ニーナだ。
彼女は敗北と知るや、機体を捨てて生き延びようとしていた。
しかし、白と金の機体が行く先を回りこむ。
「くそっ! 王国め……貴様らは必ず人民軍が討ち滅ぼして……!」
言葉は銃撃によって遮られる。
三十三ミリメートルの砲弾が相次いで彼女に発射され、生きた痕跡が少しの肉片を遺してこの世から消えた。
先ほどまで罵声を響かせていたとは思えない程に、呆気無く。
(詳細についてはみてみんhttp://14378.mitemin.net/i145432/へ)