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超機械文明に魔王が転生したならば!  作者: Per猫
第二話「魔力黎明」
24/83

2-18



「失敗しただと? 仕方ない、予備の死体を使え。鑑識は既にこちらの一員なのだ、体裁さえ整えばそれでいい」


 男はそう言って、宙に浮かべた投影板ホロ・フレームを消した。

 大きなつば広の帽子、顔に掛けたサングラス、身に付けた外套。

 その全てを赤くした男は、ベインタワー内の式典用フロアで歩みを進める。

 凡そ礼服とは言えない服装だ。


 豪勢な料理、瀟洒なシャンデリア、彫刻等の調度品、そして人の群れ。

 都市の運営を司る者達が集まる、懇親会会場。

 赤い男は多くの者から不審げな目線を送られるか、コスプレか何かなのかと面白がられていたが、不思議な事に警備の人間は彼を追い出そうとしない。


 そもそも、男はどうやってこの場所まで侵入したのか。

 フロアの入口は警備によって固められ、タワーの一階、メインロビーからこの階層まで上がる為には専用の直通エレベーターを使用しなければならない。従業員用の階段を使用する方法も存在したが、普段は閉鎖されている。

 警備の者達が居眠りでもしているのか、あるいは……。


「……もうすぐだ」

「ああ、準備しろ」

「……まだなのか?」

「これからだ、これから始まる」


 懇親会を楽しむ者達は、注意深く警備の口元を見れば気付く事が出来ただろう。

 赤い男と擦れ違う度、彼らは短く言葉を交わしていた。

 何かを確かめるように、火照る気持ちを諌めるように。

 そんな事を繰り返し、男は人波を掻き分けてとある人物の前に到達した。

 

「んん? なんだね、君は? おいおい誰だい、道化師を呼んだのは?」


 肥満体型と豊かな鬚、そして醜悪な顔つき。

 王国軍指揮官、ロバート・メサ中佐だ。

 現在は白いスーツを着こみ、胸に薔薇の花を差している。

 度重なる政敵の殺害、児童買春、賄賂横領着服、汚いと言われている事は全てやってきた男だ。

 その胆力は並外れたものであり、彼を怖気づかせる物など彼以上の権力以外に無いだろう。

 彼は今も、目の前に現れた赤尽くめの男を笑い飛ばし、周囲の反応を楽しんでいる。


 全くもって余裕の表情だ。

 そして、油断していた。

 ……宿敵が、眼前に現れたというのに。


「――――道化? いや……死神だよ、私は」


 男はそう言うと、腕をゆっくり後ろへ引き、一気に前へと突き出す。

 即ち、ロバートの胸へと。


「は?」


 ロバートには何も分からなかっただろう。

 自身の心臓が、人工筋肉による圧倒的な速度で放たれた拳によって、跡形もなく吹き飛ばされたという事が。

 その生命の終わりが、かつて殺したと思っていた者によって告げられたという事が。

 男の身体が、血で更に赤く染まった。


「きゃああああああ!?」


 ロバートと男の傍にいた一人の女性が、叫び声を上げる。

 釣られて、周囲の者も出口目指して駆け出し始めた。

 それを、銃声が止める。

 発生源は赤い男の手元だ。

 どこから取り出したのか、男は旧式のハンドガンを手にしていた。

 そして、投影板ホロ・フレームを呼び出し、口を開く。


「全部隊に次ぐ、作戦開始だ」


 その言葉を契機に、赤が現れた。

 群衆の中で、自身に掛けられたホログラムを取り払い、真の姿を晒した者だ。

 髪、刺青、服。

 身体のどこかに赤い色を入れた人間。

 それが、総勢百余名。

 巨大な式典フロアに火器を携え、その顔に笑みを浮かべて現れたのだ。


 それだけではない。

 タワーの外側、アルテリアの各地で潜伏し、雌伏の時を待っていた集団が決起を開始した。


 集団の名は、人民軍。

 人民の為、平和の為、王国打倒の為。

 そうした目的を掲げ、犯罪行為を繰り返す悪党である。

 だが、ただの悪党ではない。

 防衛部隊や王国軍の行動を狭めていた膨大な量の犯罪は、この日の為のカモフラージュ。

 彼らの目を逸らす手段でしかない。

 全てはこの日、アルテリア占拠の為に。


「我々は人民軍であるッ! ヴェルセリオン王国全軍、ひいては王族を殲滅し、このマキア大陸に真の平和をもたらす者達だッ!」


 あらん限りの声を以って、赤い外套の男……コルネリウス・ダウズウエルは叫ぶ。

 周囲に展開した部下達が、その様子を幾枚もの投影板ホロ・フレームで拾ってアルテリア各所へと繋いだ。


「私は、前アルテリア防衛隊長コルネリウス・ダウズウエル! 多くの者は、私が事故で死んでいたと聞かされていただろう。だが、真実はそうではない! 実際には、卑劣な王国軍が私を貶め、暗殺しようとしたのだ!」


 そう言うと、彼はサングラスをかなぐり捨て、つば広の帽子を地面へ叩き捨てた。

 そこにあったのは、片方の目を無くした男の顔だ。


「だが、私は生きている。下層に潜伏し、王国が体制を改める日が来る事を待っていたのだ。しかしッ! 今宵、奴らは許し難い暴挙に及んだ! 現アルテリア防衛隊長アカネ・アンキエールを、事故に見せかけて殺害したのだッ! 故に、私は同胞達と共に、王国の不正を正す為に立ち上がった!」


 聞く者が聞けば、その言葉に違和感を覚えただろう。

 下層に潜伏していた人間が、今夜死んだ防衛隊長の情報をいち早く知り、決起の中心に立つ。

 あまりにも早過ぎて、都合の良すぎる行動だ。

 だが、アルテリアは王国打倒の熱気に包まれた。

 その現状は、王国に対してアルテリア下層を中心に、それだけ不満が募っていたという事を示している。

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